前々回の記事で『新幹線公安官』を取り上げて、その第2シリーズ(1978年4月~9月まで放送)や後継作『鉄道公安官』(1979年4月~1980年3月まで放送)まで触れたのだが、やはり書き足りないと思い、今回はそこらへんの部分を補填をしていきたい。

 

「新幹線公安官」第1・2話 YouTube東映公式で無料配信開始 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

1977年4月改編期開始から7月までの1クールで打ち切りとなった探偵アクションドラマ『ジグザグブルース』代替の後番組として同年8月から始まった『新幹線公安官』第1シリーズは火曜8時の放送ではあったが、1978年4月から開始の第2シリーズは時間帯が移って月曜9時の放送になった。放送するテレビ朝日のその前番組は『新にっぽんの歌・花のスタジオセブン』なる1971年から幾度か番組タイトルを変えつつやっていた長寿歌謡番組であり、しかも春改編期真っ只中4月第一週からのスタートという期待を背負わされる。当時の月曜9時といえばTBSには映画放送枠「月曜ロードショー」があり、改編期には恒例の007シリーズを放送する慣わしとなっていたからたまらない。4月3日の『新幹線公安官』第2シリーズ第1話には日本が舞台の5作目『007は二度死ぬ』が本邦初放送で、翌週4月10日の第2話には人気作の4作目『サンダーボール作戦』がぶつけられることに。

 

家庭にビデオデッキがまだまだ普及していなかった当時、改編期の映画放送で出してくる超大作&著名作品は、視聴者にとって注目の的であり、007シリーズなんかは最たるものだから、その裏で新番組を始めるのは…

 

 

しかし、『新幹線公安官』はすでにその設定やレギュラー出演陣が知れ渡った第2シリーズという利点を活かして改編期の新番組だからって気負いを出さずに、第1話はゲストに大川栄子&山本紀彦を迎えてスリの話、第2話はゲストに谷村昌彦を迎えてまたスリの話と、地味なゲストと地味な話でスロースタートしていく。改編期が過ぎて各局とも通常編成に戻った後から第1シリーズのようなサスペンスアクション色の大掛かりな回を出してくるようになる。それが功を奏したのか、秋までの半年2クールを見事完走したのだが、途中に思わぬ伏兵が立ちはだかった。7月からフジテレビが裏番組で同じ刑事ドラマ『大空港』(制作・松竹)を開始したのだ。当時開港したばかりの成田空港こと新東京国際空港(現・成田国際空港)に警視庁が設置した空港特捜部の活躍を描くアクションドラマで、話題の成田空港が舞台で、そして国際犯罪を扱ったそのスケールの大きさから改編期スタートではなくても注目度の高い番組となった。当然、『新幹線公安官』はそれに対抗すべく、7月24日の『大空港』放送開始日には、かつて同じ制作チームであった人気刑事ドラマ『非情のライセンス』の主演・天知茂を特別出演扱いでゲストに迎えたところ、なんと『大空港』第1話のほうにも天知茂がゲストで出るという珍事に見舞われた(笑)。

 

 

●1978年7月におけるアクション&刑事ドラマ

月曜 フジ『大空港』、テレ朝『新幹線公安官』

火曜 日テレ『大追跡』

水曜 TBS『明日の刑事』、テレ朝『特捜最前線』

木曜 なし

金曜 日テレ『太陽にほえろ!』、TBS『七人の刑事』、テレ朝『東京メグレ警視シリーズ』

土曜 TBS『Gメン’75』

日曜 なし

 

1978年4月 「七人の刑事」が「太陽にほえろ!」に挑戦状を叩き付けた時代 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

1978年に入ると『新幹線公安官』vs『大空港』の前から

同じ時間枠で刑事ドラマどうしがぶつかり合うくらい当時はブームであった

 

さて、今度はシリーズ三作目となる、1979年春改編期スタート『鉄道公安官』の話を。当時、かのスーパーカーブームの後にブルートレインブームが子供たちの間で巻き起こった。制作チームはそこに目を付けて、新幹線に特化したものから今度は寝台特急のブルートレインに特化した鉄道公安官のドラマを作ろうと企画。最初の番組タイトルもそのものズバリ『ブルートレイン』だったのだとか。で、さすがに再考されて『青い捜査線』へと変更。しかし、これだと売りとしている鉄道が舞台であることがわからないから無難なまでに無難な『鉄道公安官』へと落ち着いたのである。

 

 

スタッフはその惜しさがあったのだろう。第1話には「寝台特急(ブルートレイン)の少年」と興味を惹くサブタイトルが付けられ、劇中でも東京駅に入線したさくら号の写真を撮ろうとホームで屯(たむろ)する少年たちの場面や、さくら号に無賃乗車してきた少年に対しての、公安官どうしの会話で「ブルートレインの親衛隊ですかね?」などと問い掛けた台詞が往時のブームを捉えている。

 

●1979年4月におけるアクション&刑事ドラマ

月曜 フジ『大空港』、テレ朝『鉄道公安官』、東京12『ザ・スーパーガール』

火曜 日テレ『大都会PART-III』、東京12『おやこ刑事』

水曜 TBS『明日の刑事』、テレ朝『特捜最前線』

木曜 なし

金曜 日テレ『太陽にほえろ!』、TBS『七人の刑事』

土曜 日テレ『熱中時代・刑事編』、TBS『Gメン’75』

日曜 日テレ『俺たちは天使だ!』、フジ『刑事鉄平』(制作・関西テレビ)

 

「Gメン’75」を喰った水谷豊主演「熱中時代・刑事編」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

放送は月曜8時。『新幹線公安官』第2シリーズの放送時間帯であった月曜9時はフジテレビ『大空港』が好評でロングランを続けていて、その裏番組に東京12チャンネルでは『プレイガール』から続くお得意のお色気アクションドラマ『ザ・スーパーガール』(制作・東映)が『鉄道公安官』と同じ1979年春改編期から始まるなどして、まあ制作プロの東映どうしがバッティングしていくのもあったり、あと言ってはなんだが避けた格好でその時間帯に移っていく。また、前々回の記事でも示した通り、TBS「ナショナル劇場」の裏番組になることから、『新幹線公安官』に企画協力で入っていたSHP(葉村彰子)も主演の西郷輝彦も降りたことで出演陣は刷新される。

 

江戸を斬る・第4部|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS

『鉄道公安官』開始時にTBSの裏番組となったのは西郷輝彦主演『江戸を斬るIV』

それまでC.A.Lが制作していた「ナショナル劇場」枠の時代劇は

すべて京都の太秦にある東映京都撮影所で撮られていたのだが

この作品だけは都内の三船プロダクションで撮られることになった

改編期真っ只中に放送した第8話にはオーナーの三船敏郎がゲスト出演している

ちかいうち、この特異な『江戸を斬るIV』について、じっくりと語りたい

 

『鉄道公安官』で主演となったのは石立鉄男。すでにキャリアが十分な人気俳優ではあったが、おなじみのユニオン映画や大映テレビではなく初めての東映作品出演とあってか、当初の放送期間だった1979年秋改編期までの半年2クール分は、他のドラマとの掛け持ちはせず、『鉄道公安官』の一本に絞った気合の入れようだった。しかし、酒も飲まないのにオールナイトで遊ぶ癖は制作スタッフを困らせていて、同じ出演者で劇中の部下役である加納竜がオフでも常に一緒となって行動するようお目付け役に任命され、撮影日の朝には寝坊で遅刻しないようにさせていたのだとか。

 

1979年秋改編期、月曜8時にTBS「ナショナル劇場」が寡占していた時間帯ながら頑張っていた『鉄道公安官』はもう半年分放送延長されていく。打ち切り作品の代替で始まった『新幹線公安官』第1シリーズが1クール、その第2シリーズが当時の慣例どおりに2クールの満期、そして『鉄道公安官』が延長を許されての4クールと倍々ゲームのようにシリーズを重ねていく快挙となった。しかし、制作スタッフを悩ませるある問題も孕んでいた。

 

制作開始前の企画考案時、『新幹線公安官』の新幹線専属公安官を転化した寝台特急ブルートレイン専属の公安官を設定していたのだが、それだとすぐにネタの枯渇を招くことは目に見えていたので、ブルートレインを中心で売りにしつつも東京駅起点の国鉄におけるすべての路線に広げることに。やはりそれでもネタの枯渇との戦いは常に迫られていた。先に挙げた『大空港』も同じ問題を抱えていて、この1979年秋改編期からの後半に入ると、背に腹は代えられぬとばかりに、どちらの作品もその設定とは程遠い事件も取り扱うようになる。

 

●1979年10月におけるアクション&刑事ドラマ一覧
月曜 フジ『大空港』、テレ朝『鉄道公安官』、東京12『ザ・スーパーガール』
火曜 日テレ『探偵物語』(前月から開始)
水曜 TBS『噂の刑事 トミーとマツ』、テレ朝『特捜最前線』
木曜 日テレ『怒れ兄弟!』(制作・読売テレビ)、フジ『手錠をかけろ!』
金曜 日テレ『太陽にほえろ!』、TBS『七人の刑事』(ただし、当月で終了)
土曜 TBS『Gメン'75』、日テレ『熱中時代・刑事編』(ただし、当月第1週で終了)、フジ『駆け込みビル7号室』
日曜 日テレ『俺たちは天使だ!』(ただし、翌月で終了)、テレ朝『西部警察』

 

刑事ドラマ「手錠をかけろ!」が「COMIC デカ」vol.7にて初ソフト化 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

警視庁の一所轄署が舞台の一見何の変哲もない設定ながら

毎回の地方ロケ、そして毎回の主役級豪華ゲストで魅せていった変わり種刑事ドラマ

 

一方で、放送が十四年も続いた『太陽にほえろ!』(制作・日本テレビ-東宝)が長寿番組だったわけは、番組自体が人気だったこととともに、その設定が「警視庁なんでも課」と揶揄されるぐらい、殺人、傷害、窃盗、詐欺、麻薬、暴力団、はては落し物に至るまで開き直ってさまざまな事件を取り扱っていたことから幾らでも話が作れたことによる賜物。これは番組プロデューサーがその前に作った刑事ドラマ『東京バイパス指令』の設定が複雑すぎて脚本づくりに行き詰ったことで番組を終わらせてしまったことによる反動から。今度は長寿番組を目指そうと、なんでもありだった『東京警備指令 ザ・ガードマン』(制作・TBS-大映テレビ)を参考にした。

 

1980年春改編期から始まった、『大空港』のスタッフがそのまま移行した後番組『87分署シリーズ・裸の街』にもその反動が表れている。『大空港』でその限られた舞台設定ゆえに脚本づくりが苦労しことから今度はオールラウンドな事件を取り扱った原作付き作品を求め、アメリカの推理小説家、エド・マクベインが書いた有名な警察小説シリーズの映像化権を入手し、日本に舞台を移して翻案。さらに、『大空港』では神奈川県鎌倉市にあった松竹大船撮影所からロケ場所の千葉県にある成田空港まで毎回の行き帰りがたいへんだったこともあって『87分署シリーズ・裸の街』では鎌倉市の隣にある横浜市をその舞台にしてロケ撮影で生じる負担の面も減らしていった。

 

『87分署シリーズ・裸の街』は、その再放送も本放送直後に一回やったきりで

未ソフト化かつ未だCSでも放送していない幻の作品

おそらく原作権の二次利用がネックとなっているのだろう

本放送当時に原作の文庫本とコラボして表紙を飾った宣材写真だけが、現在は作品を伺える手立て

 

同じ1980年春改編期から始まった、『鉄道公安官』の後番組は、同じ東映のスタッフが受け持ちながらも、バイクアクションと警察犬を売りにした『爆走!ドーベルマン刑事』となり、その後の鉄道×刑事の連続ドラマは、すでに国鉄が民営化されてJRとなっていた八年後の1988年秋改編期からシリーズで始まる『さすらい刑事旅情編』(制作・テレビ朝日-東映)までしばらく作られず、ここに『新幹線公安官』第1・2シリーズ→『鉄道公安官』のシリーズは完結する。この後は各局の2時間ミステリー枠で作られる西村京太郎原作トラベルミステリーが鉄道×刑事ドラマの代表的な作品になっていった。