昨年9月に書いた当ブログ記事『“東宝が京都で作った時代劇”、古谷一行主演「江戸の用心棒」』は、あまりにも長文であったことから、なるべく読みやすいようにしたくて、同時期に同じフジテレビで始まった「時代劇スペシャル」のことで『江戸の用心棒』との関連性以外の部分は省いたのだが、ちょっと惜しいなぁと思っていて、“なにかの時”用に残しておいた。ここ最近、ツイッターのほうでその「時代劇スペシャル」について触れることが多かったから、今回はそれを再利用して書いてみることにする。

 

“東宝が京都で作った時代劇”、古谷一行主演「江戸の用心棒」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

1980年代に入るとドラマ不況が叫ばれ始めていたけれど、時代劇番組だけは好調で、NHKのも含めて週に15番組前後がひしめいていた。しかしながら、金曜は10時からテレビ朝日系で放送される「必殺シリーズ」(制作・朝日放送-松竹)があるのみで、他の曜日は全てある8時台と9時台には何故かなかったのである。まさに“穴場”とはこのこと。1981年春改編期、フジテレビは老舗番組かつ看板の映画放送枠「ゴールデン洋画劇場」を土曜へと異動させてまでも、その8時台と9時台に当時流行り始めた2時間ドラマ枠を時代劇に特化した「時代劇スペシャル」を作って放送開始した。

 

今月、時代劇専門チャンネルでは「春爛漫!大川橋蔵主演・長編時代劇」と題した特集を放送していて、その「時代劇スペシャル」の記念すべき第1回放送作品『沓掛時次郎』も入っている。

 

沓掛時次郎(主演:大川橋蔵)|365日時代劇だけを放送する唯一のチャンネル時代劇専門チャンネル (jidaigeki.com)

 

時代劇専門チャンネルでの放送日が4月15日で、本放送日が(1981年)4月17日と近似している。まあ、そんな戯言はいいとして、フジテレビ時代劇の顔、『銭形平次』の平次親分を主演に持ってきたそれは、他局の人気番組が居並んでいて“死に枠”となっていたフジテレビ金曜8時台で17.3%もの視聴率を獲って弾みが付いた。

 

期待の新番組「時代劇スペシャル」は、劇場用映画の撮影で使う35ミリフィルムかテレビ番組用の16ミリフィルムかの違いで、あとは劇場用映画と遜色ない作りを目指したとのことから毎回かなりの制作費が投入されたという。当時のテレビ情報誌によれば、番組を手掛けた岡田太郎プロデューサーは「1億円近いものも登場します」と豪語している。こんな“美味しいハナシ”はどこか一つの制作プロが独占出来るわけはなく、そこは他局の2時間ドラマと同様に各制作プロ平等に…、だから時代劇を手掛けていたところは粗方招かれたんだが、放送する金曜8時は裏番組の日本テレビで東宝の手掛ける刑事ドラマ『太陽にほえろ!』が入っていたのはネックとなる。

 

テレビ番組制作のルールで、タレントが裏番組に出てはいけないように、制作プロが裏番組どうしを手掛けるのも忌み嫌われる。結局、東宝制作のものは開始から半年近く先の9月11日になってようやく放送することになるのだが、『太陽にほえろ!』とバッティングすることは免れなかった。

 

ただ、フジテレビには、“ある読み”があったはず。日本テレビは『太陽にほえろ!』がある金曜日のその日に日本テレビが放送権を持つ後楽園球場での巨人戦ナイターがあったとしても『太陽にほえろ!』の放送を優先させていて、巨人戦ナイターは深夜の『11PM』枠で「金曜ナイター」として録画中継に廻していたんだけど、1980年代に入るとそれが若干緩み、重要な試合ならば…、1980年の例を持ち出すと、前年第5位で開幕試合権を失っていたために、開幕してから6日も経った4月11日に『太陽にほえろ!』を休止して、その年の後楽園球場で初試合となる、いわゆるホーム開幕戦の生中継に充てたことがあるのだ。で、フジテレビはこの裏に、黒澤明監督による東宝映画『七人の侍』を放送した。

 

1981年の巨人は新人・原辰徳、そして投手陣の江川卓、西本聖、定岡正二による三本柱が活躍したことにより、開幕から調子が良くて、優勝に向かってまさに一直線の勢いであった。フジテレビが9月11日放送分の「時代劇スペシャル」に東宝制作のものを置いたのは、日本テレビが『太陽にほえろ!』を休止して、その日の後楽園での試合、巨人×横浜大洋ホエールズ(現・DeNAベイスターズ)戦が巨人優勝へと湧く頃だから生中継するものだと思っていたのだろう。

 

そうなれば、東宝制作どうしでバッティングすることなく角が立たない。しかし、フジテレビの読みはハズれた。巨人は第2位に大差を付けての独走状態で、試合相手の横浜大洋ホエールズは最下位だったことから「さして重要な試合ではなし」と見送られ、通常通りに『太陽にほえろ!』が放送され、この日の巨人戦は前述の『11PM』枠「金曜ナイター」の録画中継に廻された。そして二週間ほど後の9月23日に巨人のリーグ優勝が決まっていく。

 

そのバッティングが上手く回避できたのは翌1982年4月のことである。4月16日に日本テレビは後楽園での巨人×阪神タイガース戦を生中継して、『太陽にほえろ!』の第504話「バイオレンス」を雨傘番組にして休止。一方、フジテレビの「時代劇スペシャル」はこの枠で東宝制作の三作目となる『仕掛人・藤枝梅安 梅安流れ星』を作って放送した。

 

同じ1981年春改編期に始まった木曜9時枠の『江戸の用心棒』は、それまで東宝単独だったものから東宝と映像京都の共同制作名義となり、実制作は映像京都のほうが請け負った。憶測になるが、木曜9時枠に東宝の制作権が残ったのは、持ち回りのメインを張れない「時代劇スペシャル」があったことへの配慮じゃないかと勘繰る。