ファミリー劇場で放送している『太陽にほえろ！』HDリマスター版は番組終了まで残り僅かだというのに、西山浩司演じる太宰隼ことDJ刑事、そして渡哲也演じる橘兵庫が係長代理で新加入してきた。
ファミリー劇場公式 『太陽にほえろ！』HDリマスター版 番組紹介
http://www.fami-geki.com/detail/index.php?fami_id=00116
いまとなっては渡哲也が『太陽にほえろ！』最末期に出演していたことなど、ほとんどトリビアだろう。これはボス＝係長を演じる石原裕次郎の病状が思わしくなく番組出演を長期休養するため、「本庁から七曲署捜査一係に出向してきて、係長代理を務める」という劇中の立場と同じく代理出演のかたちであった。
1986年当時、番組開始から15年目の長寿番組となっていた『太陽にほえろ！』は前年に松田聖子と結婚した神田正輝以外は飛び抜けた人気出演者も話題性もなく低迷していた。5月からは裏番組のTBSで人気絶頂だったビートたけしの冠番組『痛快なりゆき番組 風雲！たけし城』が始まり、金曜8時の話題も視聴率も一手に集めることに。
そういった中で、渡哲也の代理出演は『太陽にほえろ！』にとって久々のトピックであり、低迷していた視聴率も一時的に回復に向かう。が、僅か13話で出演を終え、それと同時に番組自体も一旦終わってしまう（後番組は数年後という設定にして出演刑事の顔ぶれはほぼ一緒のまま、奈良岡朋子が係長を演じる『太陽にほえろ！PART2』全12話）。
さて、渡哲也の『太陽にほえろ！』出演に際して一つ問題があった、と言われている。当時、渡は東芝のCMキャラクターとなっていて、番組スポンサーの一つである三菱電機と競合する立場に置かれていたのだ（ちなみに、同じ石原プロモーションの神田正輝が三菱電機のCMキャラクターであった）。
ただ、マネージメントを請け負う石原プロモーションは、こういったことに関しては慣れており？、「西部警察」シリーズをやっていた時期、番組スポンサーに宝酒造が入っていながら、渡哲也は同業他社である大関のCMキャラクターをやっていたこともあった。番組には宝酒造の製品が頻繁に登場するのだが、そこらへんのところは考慮されて、番組末期の頃になってようやく渡哲也が大関のCMキャラクターを降りるまでは、ほとんど両者が一緒に映ることはなかった。
また、渡哲也の『太陽にほえろ！』出演と同時期に、同じ日本テレビ系で舘ひろし出演のご存知『あぶない刑事』が始まる。放送日時が日曜9時だったこの枠では以前から車両提供に日産自動車が入っていて、主役の舘ひろしは当時スズキ自動車のCMキャラクターという歪な関係が生じたけど、当初から舘が日産自動車の車両に乗れどもハンドルは握らないことで落着した。
だから、渡哲也の『太陽にほえろ！』への短い出演はスポンサー問題が拗れた説というのは、自分はそうは思わない。むしろ、渡哲也が望めば…、というか妥協してくれれば、代理が取れての出演で、名実ともに二代目ボスになり、たとえ石原裕次郎が完全降板しようとも番組はもっと続いたのではないか、と。
「西部警察」シリーズを5年間ぶっ通しでやってきて、その後番組で2年間続いた『私鉄沿線97分署』にも連続出演。それが『太陽にほえろ！』出演開始とクロスフェードして終わる段階で、また長期出演となると、さすがに限度を越えてしまうと判断したんじゃないかな。
当ブログ記事 1980年代中期における渡哲也考
https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-11336294522.html
制作スタッフは石原裕次郎が居なくなった後でも(本腰を入れずに、あくまで代理出演のまま通した渡哲也にフラれた後でも)『太陽にほえろ！』は続けられると思い立ち、仕切り直しの『PART2』を作り始めるも、やはり如何ともし難いものがあり、結局は放送開始前に短命番組として終わらせることを決定し、その後番組としてオールリセットした『ジャングル』を作っていく。
当ブログ記事 刑事ドラマの終焉 その1 『ジャングル』の失敗
https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-10995300641.html
一方、石原プロモーションはその『ジャングル』に一切所属タレントを出さなかった。これにはある理由があった。幻となったことに、石原裕次郎の逝去前、石原プロモーションの制作&渡哲也主演で1987年秋からアクションドラマを始める予定であったからだ。少なくとも1987年4月の段階までは。単に"毎回同じような話の中で同じような芝居をする"ルーチンワークを嫌がっただけではなく、そういう面で見てもいくと、義を通すはずの渡哲也が困窮していた『太陽ほえろ！』のスタッフをその気にさせるような本腰の出演をしなかったのも頷けてくる気もする。しかし、結局は7月の逝去で話は流れていく。これがそのまま『警視庁捜査第8班 ゴリラ』にスライドしたのか、それとも全く違う企画だったのか…。