今回はちょっとマジメなお話。
この前ウェイトトレーニングの種目を三つのポジションに分けて考えているという事を書きました。
この考え方も基本的にはアメリカで学んできた事ですが、実際に長年に渡る自分のトレーニング経験の中で気が付いた事もいくつかあるので、もう少し掘り下げて説明してみます。
筋肉を動かす時に一番伸びる位置(フルストレッチポジション)、一番縮む位置(フルスクイーズポジション)、そしてその中間の位置(ミドルポジション)の三つのポジションでトレーニングをする事には大きな意味があります。
一つは様々なポジションで負荷をかける事によって、筋肉が多角的に刺激を受け、継続的に発達を促す事が出来るという事。
それから筋肉を出来る限り大きな範囲で動かす事により、しなやかで柔軟性に富んだ筋肉になります。
極端な例で言えば、等尺性筋収縮(アイソメトリクス運動)では、筋肉は力を発揮しているにも関わらず、動き自体はありません。
このような運動を行なうと、筋肉細胞内での血液の入れ替わり(ウォッシュアウトと言います)が出来ない為に、虚血状態に陥り細胞内の酸素や栄養素がチャージされず、硬くて疲れやすい筋肉になります。
このアイソメトリクス運動は著しく乳酸が溜まり、筋肉痛を引き起こしやすいので一見効果がある良いトレーニング法だと考えられるかもしれませんが、硬くて怪我をしやすい筋肉になる為これはあまりお勧め出来ません。
柔軟性や筋力を兼ね備えた素晴らしい筋肉にする為には、レジスタンス(抵抗)運動の中で三つの要素を含んでいなければいけません。
それは、伸張、収縮、弛緩であり、このサイクルを繰り返す事で筋肉は効率良く働き、柔軟性に富んだ力強いものになります。
トレーニングを指導する時も、特にお年寄りや女性などには、重量は軽くていいから大きな動きをするようにとアドバイスしています。
それぞれの種目で可動域を出来る限り大きく取る事には他にも意味があります。
どんな種目でも動作の最中、様々なポジションで発揮出来る出力に必ず差があります。
一定の可動域の中でポジションごとの出力の差が少ないほど強くて安定した力を発揮する事が出来ます。
スクワットやベンチプレスを例に取ると、誰しも動作の中で一番キツいと感じるポジション(スティッキングポイント)があるものですが、可動域の中で一番楽に感じるポジションとこのスティッキングポイントの差が少ない人ほど強くて失敗が少ないように思います。
逆にその差が大きな人は、ある一定の自分の得意な形に持っていければ力を発揮出来るが、スクワットで少しでも深くしゃがんだり、ベンチプレスで少しでもブリッジが低かったりすると途端にモロさを露呈してしまう場合があります。
動作をクサリに例えると、いくら大きくて頑丈な輪がいくつか連なっていようが、小さな弱い輪が一つでもその中にあれば、そのクサリの強度はその一番弱い輪の強度でしかありません。
そういう意味でもやはり様々なポジションでトレーニングをして、出来る限りその輪の強度の差を無くす事には大きな意味があるのでは無いでしょうか?
いくら重いウェイトでクォータースクワットをやろうが、そのポジションでしかトレーニングをしていなければ、それより遥かに軽いウェイトでもちょっと深くしゃがんだだけで潰れてしまうでしょう。
パワーリフティングの試合で、スクワットをする時に規定の深さまでしゃがめば良いからと言って、その範囲でしかトレーニングしない人はやはり諸刃の剣を抱えているように思います。
本当に強い選手は、完全にしゃがんだポジションで行なったり、またそのキツい位置で数秒止めたり、また体幹を強化する為にノーベルトでやったりと、練習では条件を厳しく設定している人が多いのではないかと考えています。
ルール内であれば楽に挙げられる方法を見つけるのはテクニックの内なので構わないと思いますが、普段の練習からそんな事を考えて楽な道のりばかりを探すのは少し疑問に感じます。
練習では条件を厳しくして自力を確実につけ、その上で試合で効率が良いリフティングテクニックを使えば高いパフォーマンスが望めるのでは無いでしょうか。
まとめとして、筋肉のフルストレッチポジションからフルスクイーズポジションまでを1から10とすると、3~8の部分を強くする為にはそこだけではなく、1、2、9、10の部分もしっかりとトレーニングして、1~10までなるべく出力の差を少なくする事は色々な意味でも理にかなっているように思います。