下に下りると、おかんが
「ちょっと買い忘れたのがあったんよ。買いに行ってもらえる?」
「えぇ~、何で?自分が行ったらええやんか」
「私はお料理してるから動けないの」
「はいはい、分かりました。一緒に行く?」
「いいけど、どうやって行くの?」
「歩いて」
「分かった」
・・・結局買いに行かされたものはゴボウだった。ウチでのご馳走はすき焼きと決まっている。この暑い盛りでもそれは変わらない。裕美にすき焼きというのも何かすっきり来ないが、そのままゴボウを買っておかんに渡し、居間で俺たちはこれまで話したことのないパソコンの話に興じていた。
初めてのパソコン話で俺も裕美もアメーバに入ってることが分かってお互いびっくりした。まだ付き合い始めて2ヶ月弱。これまでもちろんネットの話なんてしたことがなかった。知らないことって怖いものだ。お互いのピグとかライフ見ながら笑いあった。その話はまた後日詳しく書こう。ブログは外した。そのことも後で話して行こう。そのまま冷房の利いた居間で寛ぎ出かけることも止めた。
喉渇いてきたので、コーヒーでも作ろうと思い少し裕美から離れ、おかんのいる台所へ向かった。おかんはまだすき焼きの準備中で俺たちの間に入ってこない。おかんの性格が分かってる俺は別に何も感じないが、裕美から見て変に思われないだろうか?
「鮫行・・・」裕美には聞こえないほどのボソッとしたおかんの声。
「ん、何?」
「横山さんやけど・・・」
「うん」
「ホントに付き合ってるの?」
「うん、まだ始まったばっかりやけどな」
「あんな別嬪さんがあんたとなぁ・・・」
「ご飯のときゆっくり話すわ」
「まぁええけど。横山さん大事にせなあかんよ」
「分かったって」と言いながら勝手知ったコーヒー取って氷とか砂糖とか入れて居間に戻った。
「暑かったね。アイス作ったからゆっくり飲んで」と言ってインスタントだがアイスコーヒーを裕美のそばに置いた。
「アリガト」裕美は美味しそうに一口啜った。無理もない。
「疲れてんのにあっちこっち引っ張り出してゴメン」
「うぅん、平気だよ」
「で、ちょっと前置き。裕美がこっち来たことないから、ちょっとネットで尼崎のこと紹介しとく」
「尼崎?」あまり気乗りしない。そんなに尼崎ってイメージ悪いの?印象薄い町なのは確かだけどね。
「ほら、これ。近松門左衛門のお墓」
「この人ここの人だったの?」
「いや、元々は越前(福井)の人やったけどこっちに来て浄瑠璃の話とか書いたみたい」
「へぇ」
「でもやっぱり尼崎は武庫川。西宮との境やけど、ごっつう川広い。明日行ってみる?」
「ふーん、凄いね。でもあんまり」
「じゃ、ここは?三和商店街。いろんな店が続いてるアーケード商店街」
「ここから遠い?」
「ちょっとな」
「歩いては?」
「無理やね」
「じゃパス」
「でも何でやろ?」
「何?」
「隣の西宮やったら甲子園にららぽーと、宝塚は歌劇団と競馬場、伊丹は空港で行くとこあるのに、」
「うん」
「やのに尼崎は目ぼしい場所がないんよね」
「知らないだけじゃ・・・」
「ないんよね」
「でもどこ行くにも」
「近いからいいとこって思ってる」
と少し砕けた会話が出来たのかな?。でも俺は尼崎が好き。東京はゴミゴミし過ぎだ。そりゃ行くとこっていっぱいあるけどさ。「じゃ、他に・・・」
・・・そうこうするうちに妹が帰ってきた。ネットの話は一時中断。
(続く)