「いえ、今は私の方が小田島君に頼ってますよ。今の私は彼に引っ張ってもらってますから」裕美。
「いいなぁ、私も彼氏とか欲しいな。でも部活があるから無理だもんね」志奈子。
「あんたはこれから受験でしょ。来年から3年なんだし。男なんて作る暇ないわよ」姉ちゃん。
「でもな。私も裕美さんみたいに幸せいっぱいに笑ってみたいな。私もパッと見可愛いでしょ?」志奈子。
「部活焼けが消えたら誰か見てくれるかもな。今のお前って男顔負けに肌黒い、今みたいな冬でも」俺。
「あー、またこいつ喧嘩振ってきた。でもお兄ちゃんが強くなったのは裕美さんのおかげよね」志奈子。
「小田島君の元々の性格ですよ。A型って暗い暗いって言うけど、本当は違うの。人よりちょっと空想好きなだけ。菜摘さん、志奈子ちゃんの血液型は?」裕美。
「B」二人。
「え!そうなんですか!?B型の人って私にはとっつき難いんですけど、お二人とも違いますね。優しいし」裕美。
「そう言ってもらって有難いけど、ねぇ?」姉ちゃん。
「私達って相当冷たいよ。平気でズケズケ何でも言っちゃうし。私のこと嫌ってる人もいるし」志奈子。
「B型らしい。いっつもGoing My Wayの気分屋でどんだけ悔しい思いさせられたことか」俺。
「あんたってトロいのよ、見てて。イライラするの。今は変わったけどね」姉ちゃん。
そうこうするうちに茜ちゃんが起きたようで、姉ちゃんのそばにやってきた。
「・・・・・」黙ってる。どうしたんだろ?子供の寝起きは気分悪いもんな。
「起きた?お茶でも飲む?」姉ちゃん。
「・・・おしっこ」
「分かった。おいで」と姉ちゃんが茜ちゃんを連れてトイレに。時刻は17時前になろうとしていた。冬の日が沈むのは早い。あたりももう薄暗くなっていた。
「お母さん、私そろそろ帰るね」茜ちゃんを連れて戻ってきた姉ちゃんはそう言いながら玄関に向かった。
「気をつけてね、もう暗くなってるから。あんた2日には来るんでしょ?」既に靴を履きかけてる姉ちゃんに向かっておかんが言った。
「そうね、寛さんの実家行った後に来るわ」
「そう。今年もあとわずかだけど良いお年を」
「ええ、お父さんもお母さんも。鮫行に志奈子、それと裕美さんもいい年迎えてね。じゃ」と言って出て行った。
(続く)
「お姉ちゃんも思うでしょ。裕美さんみたいな人がよりによってお兄なんかと付き合ってるって、前代未聞だよね」志奈子。
「言える範囲でいいから教えてよ」姉ちゃん。
「・・・一目ぼれみたいなもんだよ、な」俺。
「・・・そうですね」裕美。
「それじゃちっとも分かんない。どうやって知り合ったの?」姉ちゃん。
「ナンパで」俺。
「嘘おっしゃい!あんたがそんなこと出来るわけない」姉ちゃん。
「あー、言うよ言うよ。俺たち同じ速記部なんだけど、6月のもう半年前か、合宿があって、そんときの宴会で彼女飲めないお酒飲んで気分悪くなってたのを介抱したんよ。それがきっかけ」俺。
「あのときの私ってバカでした。飲めないのにみんなが楽しんでるの見てたら飲んでみようって思っちゃって」裕美。
「元々お酒弱いんだ」姉ちゃん。
「はい、苦いだけです、私には」裕美。
「そういう彼女なんでお酒は駄目なの」俺。
「で、そのきっかけがずっと続いてるの?もう半年になるけど」姉ちゃん。
「まぁ一応」俺。
「そうですね」裕美。
「あんたもエライ変わったね。高校のときは誰が見ても根暗にしか見えなかったのに。でも、裕美さん、アリガトね。こんな頼りにならないの相手にしてもらって。少しは心配してたんだぞ、鮫行」姉ちゃん。
「姉ちゃんには悪いけど、俺今も根暗だよ。一人のときは誰とも喋らないから根暗。たまに一人酒してネットしてるし」俺。
「そんなのは普通でしょ。根暗って言うのは家族といても黙ってた高校時代のあんたのこと。今はホント普通になったね」姉ちゃん。
「普通以上に生意気になってる。私のこと小ばかにするし」志奈子。
「はいはい、ごめんなさい。昔はいっつもネガティブにしか考えなかったけど、大学も第一志望入ってこうして彼女みたいな女の子と付き合ってる俺の人生、毎日がバラ色だよ」俺。
「しょってるな。あんたホント変わった。顔つきも前みたいなウジウジした顔じゃなくなったし」姉ちゃん。
「ご馳走様。彼女と付き合い始めて俺も変わることが出来た。もし裕美がいなかったら・・・高校の延長の毎日送ってたろうな」俺。
「でしょうね。ま、あんたが明るくなってくれて良かった。ホントアリガトね。裕美さん」姉ちゃん。
(続く)
「うーん、俺って元々明るかったよね?」俺。
「どこが!?」姉ちゃんと志奈子。
「熱くてとっても美味しいです。出来立てのお餅食べたのもしかして初めてかな?」裕美。
「だろ、ウチの餅は美味しいんだって!良かった。彼女もウチの一員になったな」俺。
「あんた、裕美さん大事にしなきゃ、ね。でもウチのカラーに染めていくのはまだ早い。裕美さんってまだ子供子供してるし」姉ちゃん。
「裕美さんは裕美さん。お兄ちゃんがどんなにしたって変わるわけない」志奈子。
「志奈子ちゃん、私ずいぶん変わったよ、小田島君と付き合い始めて」裕美。
「え!?どう変わったの?教えて教えて!」志奈子。
「それはね・・・」裕美。
と話してるときに、おかんから
「もう炊けたわよ、鮫行、重いけどしっかりね」
「あ、出来たんだ。よし!」炊けたお餅をお櫃から取り出して食卓の小麦粉撒いたところに置いた。「うん、出来た。次お餅千切るよ」俺。
「ええ、お父さんにそれ渡してから手伝って」とおかん。
「よっしゃー」と両手に小麦粉つけてまだまだホカホカの餅を千切り始めた。千切った餅をおかん・姉ちゃん・志奈子・裕美が綺麗に丸めていく。
それぞれの役割分担をきっちり済ませたおかげで滞りなく終了。途中茜ちゃんが眠ってしまい姉ちゃんが抜けてしまったけどね。
残りもマイペースで終わった。ウチの餅つきも疲れたけど無事終わってホッとした。餅は既に大きなプレートに並べられている。こんな時期だからあんこ入りの餅も腐ることはない。疲れた。
後はしばらくぼんやりしてるだけか。もうどこにも行きたくないし。でも・・・。家族は食卓座ってのんびりしてる中、俺は裕美とリビングのソファに座った。
「ご苦労さん。お餅つきも無事終わったね。これからしばらくしてお風呂沸かして入ってもらって・・・、菜摘、今晩どうするの?寛さん来るの?」おかん。
「悪いけど、私帰るね。寛さん多分もう帰ってると思うし、茜も落ち着いて眠れないだろうし。また改めて来ますね」姉ちゃん。
「そう、寛さんもどうしたのかねぇ。茜ちゃんまだ寝てるけど、起きてから帰る?」おかん。
「そうね。今起こしたら泣いちゃうし、ちょっとそのままにしとこうか。その間に・・・」姉ちゃんは俺たちのいるソファに来て「鮫行と裕美さんにちょっと訊かせてもらっていい?」
「え?何、また急に」俺。
「あんたみたいなのがどうしてこんな人と付き合ってるのか知りたくなっただけよ」姉ちゃん。
志奈子のときと同じだなと思って頬を緩めてしまった。それ聞いて志奈子もこっちに来たけど。
(続く)
「茜ちゃん忘れてた。ずっとほったらかしてたからな」お茶飲んだ後、茜ちゃんはしばらく座っていたが、退屈になったのか俺たちのそばで腰下ろして小石を拾って一人遊びしてたのだ。「茜ちゃん、ごめんね。もうおうち帰ろうか?」
「うん、おじちゃん、だっこ」
「はいはい、だっこはちょっと難しいからおんぶして帰ろうね」茜ちゃんをおんぶして家に帰った。その光景は若夫婦と一粒種の子供って感じで違和感なかったな。裕美との結婚。具体的にはまだ何も決まってないけど、裕美と結婚したい。しばらくは二人で生活送っていつかは子供も欲しい・・・。
と思う間もなく、帰ると家族はみんな餅つきに忙しかった。食卓に餅つき機置いて回りに新聞紙敷いて餅作ってる。
「ただいま、遅れてごめん、手洗って手伝うよ!」
「遅くなってごめんなさい、すぐお手伝いしますね」裕美と一緒に洗面所行って珍しく石鹸で手を洗って食卓に行った。
「お帰り、楽しめた?これから炊けた餅米出すから適当に千切って丸めて。鮫行は千切る係りで裕美さんは丸めてね。それと適当にあんこも入れないといけないけどこれは私がするから。ほら、あんたたちもちゃんとやってね!」
「は~い」tension低いな。姉ちゃんも志奈子も低血圧。茜ちゃんはじっと餅見てる。食べるなら姉ちゃんが千切ってやらないと喉詰まらせてマズイことになるな。おとんは餅米の水洗い役で次の餅米既に洗い終わってて暇そう。
大勢でやった方が手っ取り早い。確か餅炊くのは4回やってよな。後2回か。もち米が炊くのを待ってあんこ入りの餅を一つ頬張った。
「うん、美味しい。正月気分が味わえる」
「これ、鮫行、裕美さんがいる前ではしたない!」
「ごめーん、いつもならこんなこと当たり前なのにな。あ、ゴメン。まだ遠慮してるな。裕美も食べたらみんな同じになる。食べてみて」
「え、私はいいよ。お母さんのサンドイッチでお腹いっぱい」
「えー、裕美って小食やなぁ。それに比べてこの人たちのよく食べること!何個食べたの?」姉ちゃんと志奈子に顔向けた。
「あんたも裕美さんの前なんだから遠慮しなさいよ」と姉ちゃん。
「酷~い、私まだ2個しか食べてない」と志奈子。
「彼女みたいな小食になりなさい!ってウチじゃ無理か。いっつもガバスカ食べてるもんな」
「ええカッコしぃ。裕美さんの前でそんなに威張りたいか」と志奈子。
「お母さん、志奈子ちゃん、お餅いただきます」また裕美のフォロー。俺も言い過ぎた。
「悪い。言い過ぎた。別にお前馬鹿にして言ったんじゃない。分かって欲しいけど」
「素直になったね。それでいいのよ。でもあんたホント変わったね。昔は全然喋らなかったのに。裕美さんと付き合い始めたからかな?」と姉ちゃん。
(続く)
公園着いたものの、
「ブランコないよ」と茜ちゃんがむずかってきたので、
「かくれんぼしようか?おじちゃんとお姉ちゃんで」
「うん、しようしよう!」と言ってくれたのでホッとした。近くの公園ってここしかないもんな。
「じゃ、おじちゃんが鬼になるよ」言いだしっぺの俺が鬼になった。「二人とも逃げて!」二人ともいなくなったのを見計らって「行くよ!」と言って探した。茜ちゃんはすぐ見つかった。
「茜ちゃん、見~つけた!」そのまま置いておくのは危ないと思ったので「お姉ちゃん一緒に探そうか」とゆっくり茜ちゃんの歩調に合わせて裕美を探す。裕美はちょっと離れた木陰に隠れていた。「はい、お姉ちゃん見つけた!」
・・・疲れたので「ちょっとベンチに座ろうか」と言ってベンチに座った。茜ちゃんも疲れてるようだったので、持ってきたお茶注いであげた。黙って美味しそうに飲んだ。
「裕美もお茶もらう?熱くて美味しそう」
「ダメだよ。それは茜ちゃんのだから」
「そう・・・だよな。人のお茶飲んだら怒られるか」
「フフ」何故か裕美が笑い出した。
「どうしたの?エチケットがないって笑ってんの?俺もまだ常識に欠けてるとこあるから、それはゴメン。でもウチの家族だったら何でも取り合いするよ」
「ううん、そうじゃなくって茜ちゃんが本当に私たちの子供に思えて笑ってたの。菜摘さんには悪いけど」
「俺たちの子供?」
「うん、鮫君と私が17のときに出来た子供みたいだなって思ちゃって・・・、フフ、おかしいでしょ?」
「いや、裕美も空想好きだな。俺にはそんなの全然浮かんでこなかった。この子は俺にとっては姪っ子ってくらいにしか思えなくてね。でも可愛いだろ?姉ちゃんには似てないし、今日来てない寛さんにも似てないしね」
「私たちに似てるんじゃない?」
「え!?」
「きっと茜ちゃんは将来の私たちの子供に生き写しなの。だからこんなに可愛いの。・・・赤ちゃん私も欲しいな」
「ちょっと、話が飛びすぎって!・・・裕美が子供好きってのは安心出来たけど」
「言ってみただけです。私たちまだ学生だし赤ちゃん欲しくても出来ないし。でも鮫君、欲しい?」
「裕美との子供なら欲しいけど・・・でもまだ早いよ。現実的に考えるまでもなくね。それにまだ俺は裕美としばらく二人でいたいし」
「ごめんなさい。でもいつかは赤ちゃん欲しいな」
「俺で良かったら、いつかね・・・」と二人で話してる間に茜ちゃんがむずかりだした。
裕美も楽しそうだった。普段の食事はいつも一人のようだし、そうなると会話なんか出てこない。寂しい食事なんだろうな。少しでも俺の家族の会話聞いて仲間に入って欲しかった。そうは思っていても、裕美は相変わらず聞く一方で終わったが・・・。
「ごちそうさまでした」食事も終わり、餅つき機の準備をして、後は姉ちゃん一家が来るのを待っていた。13時半になろうとしていた。
「こんにちは」そうこうするうちに姉ちゃんたちが来た。裕美を連れて玄関に行った。玄関には姉ちゃんと茜ちゃんの二人で寛さんは来てなかった。
「コンチハ。久しぶりやね。こちら今お付き合いさせてもらってる横山裕美さん。今日からしばらくここ泊めてもらうよ」
「菜摘さん初めまして、横山です。いつもでしたら親子水入らずの年末に押しかけてしまってごめんなさい。今日はよろしくお願いします」
姉ちゃんはちょっとあっけに取られたような表情(多分裕美の綺麗な顔に)だったが、
「初めまして。菜摘です。もう結婚しちゃってこの家出てますけどよく帰ってますよ。鮫行がお世話になってるみたいで、これからもよろしくね。茜もご挨拶しなさい、って分かんないか」茜ちゃんはぼんやり回りを見ていたが、
「こんにちゎ」と小さな頭でちょこんとお辞儀してくれた。その仕草がとっても可愛かったので、
「こんにちは!茜ちゃん、鮫行だよ、茜ちゃんのおじちゃんだぞ、分かるかな?」って言ってしまった。だって可愛いんだもん、姉ちゃんと違って?・・・姉ちゃんはちょっと棘があるからあんまり話さない。俺が高校の頃からずっとそうだった。姉ちゃんはどことなく唯我独尊的な性格でB型特有の自己中心的な性格。俺にはそれが合いそうになかった。
「・・・わかんにゃい」ちょっぴりしょんぼりしてる茜ちゃん。いいなぁ・・・。ふと思いついて、
「姉ちゃん、茜ちゃんと公園行ってきていい?」
「え?でもあんた餅つき手伝うんじゃないの?」
「いいよ、行っといで」とおかん。
「じゃ、まかせるよ。私も子守り疲れたしね」
「アリガト。じゃ茜ちゃん、一緒に公園行こ!裕美も来て」裕美も当然誘った。
「こうえん、いきまっしょ!」どんな仕草も可愛い茜。思わず微笑んでしまう。
「可愛いな、私もお供するね。お母さんごめんなさい、お手伝いちょっと遅れます」とは言いつつも嬉しそうな裕美。
「いいよいいよ、せっかくのお休みだもの。ゆっくりしてらっしゃい」
「鮫行、オムツはもう取れてるけど、おしっことか気をつけてね」
「はーい。じゃ、行ってきます!」と言って3人家を出た。
10分で着いた大井戸公園。バラで有名?な公園だが今は咲いてない。あるのは樹木くらいか。滑り台もブランコもないから茜ちゃんは怒るか。やっぱり尼崎離れてるから茜ちゃんも俺のことは誰だか分かってなかったが、単純に公園で遊べることに喜んでた。
(続く)
「裕美さん、こんにちは。お久しぶりです!会いたかったです。でもお兄ちゃん!」
「何?」
「どうして連絡くれなかったの?裕美さん今日来るなら来るって!」
「おかんには言った。お前が聞いてなかったんだろ?」
「聞いてない!部活とか忙しくてあんまり話も出来なかったし」
「お前のミス。そんだけじゃん」
「志奈子ちゃん、こんにちは。またちょっとお世話になるね」また志奈子と喧嘩になりそうな気配だったので裕美がフォロー。助かった。
「裕美さん、ゴメンね。寝起きの格好見せちゃって・・・。でもいつまでいるの?どっか一緒に行こうよ!」
「ごめんね。明後日には帰るから行けるとしても明日くらいかな?私も志奈子ちゃんとどこか行きたかったんだ。でも、お参りぐらいしか行けないかな?」
「うー、カラオケ行きたいよ!裕美さん上手いんでしょ?おにいのブログ見て知ってんだ」
「いつの間にどうやって俺のブログ知ったの?」
「お母さんに頻繁にメールで見てくれって送ってきたじゃん。それ見て知ったの」
「お前が母ちゃんのメール見るとはな。ま、見てくれてアリガトな。読者が増えるのは嬉しいことだし」
「お兄ちゃんのブログなんて見てない!私は裕美さんのばっか読んでる。裕美さん知ってる?私読者になってるんだよ!」
「もしかしてshina-shinaさん?」
「そう大当たり!いちおー裕美さんのOKもらってるからこれからも読者させてね!」
「私の方こそよろしくね。志奈子ちゃんのブログ見てるけど、部活大変みたいね。でも頑張ってね」
「アリガトー!裕美さんに言ってもらったら元気百倍!」
「俺は断る。読者受け付けてないしな」
「お兄ちゃんの読者なんかなる気ない!それよか裕美さん、裕美さんのブログ更新待ってるよ!」
「え、ええ」
と言ってるうちに、おかんが昼食持ってきた。サンドイッチ作ってくれた。
「うわぁー美味しそう!アリガトね」と志奈子。
「これから重労働だからしっかり食べてね。お父さんもどうぞ」とおかん。
「じゃ、俺たちもいただこうか、って座れないな」食卓は4つしかない。俺たちは仕方ないのでリビングのソファの前にあるテーブルにサンドイッチとコーヒー置いた。食卓はおとん・おかん・志奈子の3人が座った。
「いただきます」と俺たち銘々が食べ始めた。みんな話しながら食べた。メインは志奈子の部活の話題。年末に試合がありあいつは接戦の末勝ったとのこと。黙々とそれを聞いてるおとんとおかん。良かったな、志奈子。部活全然しなかった俺には羨ましい話題だったが、今更もういい。(続く)
裕美は俺とおかんのやり取りをじーっと見てた。うん、まだ緊張してるんだろうと思って、
「もう少ししたら姉ちゃんも来るから紹介するからね。こういうときだけウチも賑やかになるんよ。2歳の茜ちゃんが可愛くてね。見てると楽しくなる」
「菜摘さんに茜ちゃんか・・・。ご主人さんも来るの?」
「ねぇ、寛さんも来るの?」とおかんに訊いたら
「どうだったかねぇ・・・。菜摘が何も言わなかったから」と言葉を濁す。
「そう、せっかくだから彼女紹介したかったのにな。ま、いいかあの人はまたお酒でも飲んでんのかな」
「お酒?」
「あ、姉ちゃんの旦那さん、寛さんっていうんだけど、休みの日はいつも昼から酒飲んでるみたいだから。でも気にしなくていいよ、優しくていい人だから。って初めてだから分かんないか?」
「知らない人3人も会ったらパニクっちゃうな。それ以上に鮫君楽しそう」
「え、どこが?」
「んー、お母さんとの会話も何かずっと一緒に暮らしてるみたいな感覚っていうのかな、どこの家庭でもある会話が普通に出来るっていいなって思う。私が出来てないから」
「じゃ、さ、今日はこれから裕美も何でも言ってみたらいいよ。言える範囲でいいけど。ウチのおかんとおとんに。そしたら楽になると思うけどな」
「そんなの出来ないよ。まだお会いして2回目だよ。そんな図々しいこと私には出来ない」
「そうかな。俺は少しでも裕美がいつも通りの裕美になって欲しかったんだやけど」
そんな折に志奈子がのっそりと入ってきた。
「おはよ・・・、お姉ちゃんもう来て・・・、あ、あれ、裕美さん!とお兄!え!?あ、あたしこんな格好、ごめんなさい!」と言ってすぐリビング出て行った。
あいつ、パジャマ姿だった。不謹慎な奴。裕美も笑ってた。つられて俺も笑ってしまった。
「普段のあいつってあんな感じだから。着たままで過ごすこともある。もっとも昼には着替えてるけど、て、もう昼か」
「楽しそうなご家族ね。志奈子ちゃんも相変わらず元気そう。私も元気にならなくっちゃ」
「そうそう、それでいいよ。裕美は裕美らしくが一番」
「私らしくなったら暗くなるよ」
「いつもの裕美なら明るいから問題ない。暗いのは俺だから」
「またそんなこと言うんだから!」
「お、いいよ!らしくなってきた!裕美はいつも強気じゃなくっちゃね。そしたら俺ももっとしっかり出来る」
「そうかな・・・」
と言ってる間に志奈子が着替えて戻ってきた。
(続く)
「ただいま!」
時刻はお昼前になろうとしていた。二人重そうなカバンを転がしながら玄関開けて叫んだ。奥からバタバタ音が聞こえて、
「お帰り、お疲れ様」とおかんが出てきた。
「こんにちは、またお邪魔させていただきます。これ良かったらどうぞ」裕美が挨拶してお土産渡した。俺もと思って、
「はい、俺からも」と渡した。「もう餅つき始めてるの?姉ちゃんとかも来てるの?」
「まだ始まってないよ。菜摘たちが来てから始めるけどね。まぁお上がんなさい、横山さんも疲れたでしょう?」と言って俺たちは靴を脱ぎ、リビングに入った。おとんもいた。食卓で新聞広げてた。テレビは付けてるが誰も見てない。志奈子は自分の部屋にでもいるのかいなかった。
俺たちはそのまま荷物を部屋まで持って行き、下降りておとんに挨拶。
「ただいま」
「こんにちは、すみません。またお邪魔しちゃいます」
俺たちを見ておとんは無愛想な表情から一転して温和な顔つきになって、
「ああ、お帰り。久しぶりやな。飛行機混んでたか?」
「うん、満席やった。父ちゃん今日から休みだったっけ?」
「おぉ、今日からや。銀行もやっと正月迎えられる気分やな。ま、元気そうで良かった。無事帰れたしな。横山さんもお元気そうで。あんじょうこいつの面倒みてもらってます?」
「いいえ、今は教えていただいてるのは鮫行さんからの方が多くなってます。私の方がよっぽど子供ですから」
「何かあったん?」
「何もない。・・・疲れたからちょっと」と言ってリビングのソファに裕美を案内し、「まだ時間あるからコーヒーでも作るよ。ホットでいい?」
「あ、私が作る」
「いいよいいよ、勝手は俺の方が分かってるから。そこ座って」とにかく裕美に落ち着いてもらおうと思って、ソファに座ってもらって、そのまま俺はおとんのそばの台所でコーヒー作った。ちぇっ、インスタントしかないや。残念だったが、ないよりはましと思い黙々とお湯沸かしなおしてインスタントコーヒー作って裕美に持っていった。
「お待たせ」そのまま俺も座ってるとおかんが来た。何してたんだろう?俺たちほっといて・・・。ちょっとイラついたが口には出さず、
「あぁ、ゴメンね。ちょっと用事してたものだから」
「何してたの?せっかく彼女連れて帰ってきたのに」
「餅つき機物置から出してたの」
「言ってくれたら取りに行ったのに」
「鮫行も疲れてるだろうから、遠慮したの。息子思いでしょ?」
「別に疲れてなんかないから言って欲しかった。そのぐらい手伝わせてよ」
「これからお餅作るのが忙しくなるから、それからお願いするね」
「はーい」そんな感じでおかんとの会話も終わった?手伝いはもちろんするけど。
(続く)
「うん。でも優しい方なんでしょ?」
「ちょっと冷たいかな?智さんと同じ24歳でもう2歳の子供がいるんだ。旦那さんは優しい人だけどね」
「ふーん、でも鮫君のご家庭って今日とか忙しいんじゃないのかな?」
「多分午後からウチ恒例の餅つきが始まると思う。それからはのんびり紅白見ながらおそば食べてゆっくりするだろうね。忙しいのは餅つきだけじゃない?」
「私もお手伝いしていいかな?そういうことってやったことないから」
「是非お願いしたいよ。ウチのは餅もついてくれる奴だからあとは丸めるだけでいいし楽。あんこはおかんが前もって作ってるから大丈夫だし、姉ちゃんとか志奈子も手伝うし、おとんも仕事休みに入ってるから手伝うよ。これで姉ちゃんとも仲良くなれるって。俺からもきちんと紹介したいしね」
「いいよね、鮫君のご家庭って。何だか楽しみだな。私の家なんてあれがあってから何もしなくなって、もう寂しかったんだ。多分今もみんな好き勝手に過ごしてるんだろうな」
「今日は忘れなよ!俺んちで楽しんで笑って過ごしたらいいよ。いつかは裕美の家庭も明るくなって欲しいけど」
「うん。そうね。今日は鮫君のお家で楽しませてもらおっと。・・・私眠くなっちゃった。ちょっと眠っていい?」
「そりゃいいけど、もう着くんじゃない?確か飛んでるの1時間位だったような気がする」
「うーん、10分でもいいから眼瞑らせて。じゃお休み」そう言って裕美は眼を瞑ってしまった。朝早かったしバタバタしてたしで疲れたんだろう。じゃ俺もと、眼を瞑ろうと思いながら裕美の寝顔を見て、
「・・・・・・!」眼を閉じてる裕美をじっくり見たことのない俺は正直驚いていた。小さな顔の誰が見ても振り返る綺麗で可愛い裕美。奥二重の目は閉じられているが、鼻筋の通った鼻の下に小さな口。微かに赤くなってる頬っぺた。その頬っぺたにはそよ風のような産毛が見えた。長い髪の毛にちょこんと隠れてる耳たぶ。禁忌というか触れてはいけないような神々しさが溢れていた。
が、俺は裕美にそっと触れようとした・・・。は!いけない、俺は何てことをしようとしたんだ、こんなところで。邪な俺の感情を打ち消し、・・・我に返り裕美から離れ俺も眼を閉じた。そう、俺は裕美を大切にしなければならない。裕美の意思は分かってるつもりでも、だからこそ尚更裕美を大事に扱わないといけないのだ。なのに俺って・・・。2日どうするつもりなんだ・・・?俺は分からなくなっていた。
機内放送で着陸態勢に入ったとのこと。眼を開けて窓の方を見ると関西の町並みが見えてきた。放送で裕美も眼が覚めたようだった。
「もう着くの?」
「起きた?うん、もうちょっとで伊丹着くよ。気分はどう?眠れた?」
「うん、少しは良くなったかな。鮫君は起きてたの?」
「俺は昨日寝すぎたからね。眠くもないし元気ハツラツだよ」
「そう、良かった。じゃ、着くまでシリトリしようよ、ね!」
「え、こんなとこで!?みんな黙ってるし恥ずかしいよ」
「小っちゃな声でやったら分からないです、いい?私からね・・・」
と言って裕美から『飛行機』と出たものだから『金閣寺』と答えてしまい、そのまま着陸まで続いてしまった。幸いにして小声だったものだから、回りにバレることなく着陸した。ふー。こういうときの裕美って何考えてるのか分かんないが、とにかく無事着いて安心した。飛行機から降りて荷物を受け取り、モノレール・阪急電車乗り継いで俺の家に着いた。
(続く)