ごんざの辞書のかきかえ175「やんめ」と「やむめ」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 現代日本語の「病」(やまい)をごんざは『янме』(yanme)『やんめ』とつづる場合と『ямме』(yamme)『やめ』とつづる場合がある。

 

「ロシア語」(ラテン文字転写)   「村山七郎訳」 『ごんざ訳』

 

A『янме』(yanme)『やんめ』

「болЕзноносецъ」(boleznonosets') 「病人」   『やんめもん』

「желтяница」(zheltyanitsa)     「黄疸」   『きかやんめ』

「недугъ」(nedug')         「病気」   『やんめ』

「недугую」(neduguyu)       「病にかかる」『やんめする』

「недужный」(neduzhnyi)      「病の」   『やんめん

「немощъ」(nemoshch')       「病気」   『やんめ』

「немощный」(nemoshchnyi)    「病気の」  『やんめん

「немоществую」(nemoshchestvuyu)「病む」   『やんめする』

「хворость」(khvorosti)       「病」    『やんめ』

「хворыи」(khvoryi)         「病身の」  『やんめもん

「хвораю」(khvorayu)        「病みつく」 『やんめする』

 

B『ямме』(yamme)『やめ』

「скорбь」(skorbi)           「病気」   『やめ』

「скорбныи」(skorbnyi)        「病気の」  『やめん

「скорблю」(skorblyu)         「病む」   『やめする ねをる

「скорбнО」(skorbno)         「病んで」  『やめんこ

「паралижъ」(paralizh')        「麻痺」   『ないぇたやめ』

「Оскорбитель」(oskorbiteli)「侮辱者、他人を悲しませ怒らせる人」『やめさするふと』

「Оскорбленiе」(oskorblenie)      「侮辱」   『やめ』

「Оскорбляю」(oskorblyayu)      「侮辱する」 『やめさする』

「Оскорбляюся」(oskorblyayusya)   「侮辱を感じる」『やめする』

「Отокъ болЕзн:」(otok' bolezn:)    「全身水腫病」 『ふぁゆるやめ』

 

 『やんめ』と『やめ』ほぼ同数で互角のたたかいだ。

 

 つぎのことばの場合、

 

「огневица」(ognevitsa)   「熱病」    『あつかやんめ』

 

 鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、ごんざが

(ямме)(yamme)(やめ)から(янме)(yanme)(やんめ)にかきかえたのか、

(янме)(yanme)(やんめ)から(ямме)(yamme)(やめ)にかきかえたのか、

よくわからないけど、かきかえたあとがあった。

 

 かきかえる必要があるような表記ルールがあったのか、まようほどどっちでもいいことだったのか、ごんざにきいてみたい。