「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」『ごんざ訳』
「утраченыи」(utrachenyi) 「失いたる」 『うっしぇたと』
鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、ごんざの訳語は(ушетатъ)(ushetat')(うしぇたと)とかいてあって、上の行に(с)(s)がかきこんである。
ごんざは促音をかかなかったことに気づいて、あとから追記したんだろう。
でも、(ша)(sha)(しゃ)、(ши)(shi)(し)、(шу)(shu)(しゅ)、(ше)(she)(しぇ)、(шо)(sho)(しょ)に先行する促音は(ш)(sh)をかさねてかく、という表記規則をごんざはもっていた。
(ша)(sha)(しゃ):『фишша』(fishsha)(ふぃっしゃ)(筆者)
(ши)(shi)(し) :『ошшигъ』(oshshig')(おっしぐ)(おっしぐ)
(шу)(shu)(しゅ):『ушшу』(ushshu)(うっしゅ)(うっせよう)
(ше)(she)(しぇ):『фашшенъ』(hashshen')(ふぁっしぇん)(八千)
(шо)(sho)(しょ):『зашшо』(zashsho)(ざっしょ)(雑餉)
促音をあとから追記する時に(ш)(sh)ではなく(с)(s)をかいたことは、ごんざの頭の中の日本語の音韻体系をちょっとみせてくれるような気がする。