ごんざの辞書のかきかえ42「しぬこと」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」 『ごんざ訳』

 

1「конченiе」(konchenie)  「終了」    『すむこ

2「кончина」(konchina)    「死去」    『しぬるこ

 

 鹿児島県立図書館の原稿コピーをみたら、ごんざははじめに1に(шинуркотъ)(shinurkot')(しぬるこ)(しぬこと)とかいたのをけして『сумкотъ』(sumkot')『すむこ』(すむこと)にかきかえていた。

 

 1の訳語に(шинуркотъ)(shinurkot')(しぬるこ)(しぬこと)とかいてから、2にすすんだら、「кончина」(konchina)というのがでてきた。こっちも(しぬるこ)だ。おなじ訳語をならべたくない、とごんざはおもった。

 

 日本語で(しぬ)ことを(なくなる)とか(いく)とかいうのとおなじように、ロシア語でも(しぬ)ことを(しずかになる)とか(おわる)とかいう。

 文脈からはずすと(なくなる)が(紛失する)の意味なのか(しぬ)の意味なのかわからないのとおなじように、ロシア語の(おわる)も文脈からはずすと、(おわる)なのか(しぬ)なのかわからない。

 

 ごんざは1が(おわる)と(しぬ)の両方でつかわれ、2がおもに(しぬ)意味であることに気づいて(ボグダーノフ師匠にたしかめて?)、かきかえたんだろう。