ロシア語とブルガリア語は「スラヴ語」という同系のことばで、文字もほぼおなじだけど、外国語として勉強するなら、私はロシア語よりブルガリア語の方がすきだ。
どうしてかというと、ブルガリア語はだいたい文字をそのままよめばいいけど、ロシア語はそうではないからだ。
現代ロシア語でミルクのことを「マラコ」という。「milk」と子音のならびはおなじだから、「малако」(malako)とつづるのかな、とおもったら、「молоко」(moloko)だという。
ロシア語ではアクセントのない「о」(o)は、(a)と発音する、というきまりがあって、「молоко」(moloko)のアクセントは一番うしろにあるから、前ふたつは(a)と発音するということなのだ。
でも、ふつうの文書にアクセント記号はついていないから、(o)と発音するのか、(a)と発音するのかわからないし、(a)という音をきいても、それがもともとの「а」(a)なのか、アクセントのない「о」(o)の(a)なのか、シロートにはわからない。
そうすると、ごんざの辞書でも、「о」(o)と「а」(a)の両方のつづりのみだし語が重複している例がたくさんあるんじゃないか、とおもって、さがしてみた。
ところが、みっつしかみつからなかった。よみかきになれていないようなロシア人はまちがえたかもしれないけれど、ボグダーノフ師匠は「о」(o)と「а」(a)はまちがえないんだな。
「ロシア語」(ラテン文字転写)「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
「ровЕсникъ」(rovesnik') 「同年者」 『ふとっとし』
「равЕсникъ」(ravesnik') 「同年者」 『ふとつとし』
現代ロシア語のつづりは、上の「ровЕсникъ」(rovesnik')の方で、アクセントは「Е」のところにあるから、発音はどちらも(ravesnik') のはずだ。
「токарь」(tokari) 「研ぎ職人」 『とぐふと』
「такарь」(takari) 「研ぎ職」 『とぐふと』
現代ロシア語のつづりは、上の「токарь」(tokari)の方だ。
現代ロシア語のアクセントは前にあるらしいから、(アクセントのない「о」(o)は、(a)と発音する)というきまりと、このつづりの重複は関係ないかもしれない。
でも、もし、ごんざの時代のロシア語のアクセントがうしろにあったとしたら、どちらも(takari)になったはずだ。
「Охабка」(okhabka) 「一抱えのもの」『ふとだき』
「ахапка」(akhapka) 「一抱え」 『いちわ』
これも現代ロシア語のつづりは上の方だけど、オリジナル原稿の最初のページに下の方がでてくる。下の方は子音も無声化した発音のままのつづりになっている。