ごんざの「金髪」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」 『ごんざ訳』

「златовласый」(zlatovlasyi) 「金髪の」 『あかかかみのけん
                           村山七郎注「赤か髪の毛の」

 直訳すると(金の髪の毛の)だけれど、ごんざの訳語は(あかい髪の毛の)だ。
 ごんざは、不自然におもえるぐらい、みだし語に忠実な訳語をかくことがおおいのに、ここでは(金の)を(あかい)に訳した。

 たぶん(金の)というのは、江戸時代の人にとって(金ピカ)のイメージだけで、髪の毛のような光を反射しにくいものには、あわなかったんだろう。辞書をみても、(紅毛)ということばは江戸時代からあったらしいけれど、「金髪」ということばは、明治になってからつかわれるようになったみたいだ。

 ごんざの『あかか』(あかい)の意味は、現代日本語の(あかい)だけでなく(あかるい)もふくんでいるから、村山七郎注のように無雑作に「赤」という漢字をかいていいか、わからない。

「красный」(krasnyi)     「赤い」   『あかか
「светлныи」(svetlnyi)    「明るい」  『あかか

 ごんざが日本にいたときに金髪のヨーロッパ人をみたことがあったかどうか、わからないけれど、ロシアにわたって実物をみて、ソウザとはなすときには、(金の髪の毛の人)ではなく(あかい/あかるい髪の毛の人)といっていただろう。

ごん:златовласый(zlatovlasyi)(金の髪の毛)っていうけど、金がはいっているんじゃないよね。
ボグ:うん。もし金がはいっていたら、きってうりにいくだろうな。
ごん:うすくなる前にうりにいかなきゃね。