ごんざの辞書の「動詞の人称」7 わからないもの | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

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1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 3人称単数現在形がみだし語になっている例 なんだかよくわからないもの

「ロシア語」(ラテン文字転写)      「村山七郎訳」 『ごんざ訳』

1「подобаетъ」(podobaet')      「~すべきだ」 『しぇにゃならん』
2  「надлежитъ」(nadlezhit')  「-せねばならない」『しぇにゃならん』
3「принадлежит」(prinadlezhit)    「~に所属する」『しぇにゃならん』

 1は無人称文で「自然にそうなるべきものだ」(Let it goとかLet it beだ)という意味らしい。
 2は無人称文で「-せねばならない」という意味で、 
 3は「(物が)人の所有物である」という意味の動詞なので3人称形になっているのだが、2とおなじ訳語をつけてしまった。

「сладится」(sladitsya)       「処理される、まとまる」『むもなる』

 「(物事が)まとまる」という意味の動詞なので、3人称形になっているのだが、ごんざは「слад」(slad)(あまい)という関係ない部分の訳語をつけてしまった。

「збу[ы]вается」(zbu[y]vivaetsya)  「済む」    『   』

 「災難がさる」というような意味らしいけれど、ごんざは訳語をつけられなかった。

「приличе(с)твуетъ」(priliche(s)tvuet')「ふさわしい」 『やくうぃたたる』

 必要な条件に物事があっている、という意味らしい。(役にたつ)ではなく『たたる』にすることで3人称らしさをだそうとしたんじゃないだろうか。

「ключается」(klyuchaetsya)     「起こる、生ずる」  『あることがある』
「приключается」(priklyuchaetsya) 「生起する、存在する」『あることがある』
「прилучается」(priluchaetsya)   「生起する」     『あることがある』
「случается」(sluchaetsya)     「偶然に起る、生じる」『あることがある』

 「(物事が)おこる」英語の「happen」や「occur」みたいな動詞なので3人称形になっている。「発生」とか「出現」というような漢語をつかわずには訳しにくいのだが、ごんざは『あることがある』という、うまい訳語をつけた。