ごんざの「たくさん」が「たくさん」 | ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

ゴンザのことば 江戸時代の少年がつくったロシア語・日本語辞書をよむ

1728年、船が難破して半年後にカムチャツカに漂着した11歳の少年ゴンザは、ペテルブルグで21歳でしぬ前に露日辞書をつくりました。それを20世紀に発見した日本の言語学者が、訳注をつけて日本で出版した不思議な辞書の、ひとつずつの項目をよんだ感想をブログにしました。

 おなじ接辞のついたみだし語がたくさんつづけてでてくる時、ごんざは不自然な訳語をつけてしまうことがおおい。あきてしまうのだろう。「много」(mnogo)(たくさんの)という接辞のついたみだし語は43語もつづけてでてくる。ごんざは最初のうちはひとつひとつ丁寧に訳語をえらんでいたが、15番目のことばから27語つづけて「たくせ~」という訳語にしている。もしかすると、語彙リストの訳語のところに
「таксе」(takse)(たくせ)
「таксе」(takse)(たくせ)
「таксе」(takse)(たくせ)
「таксе」(takse)(たくせ)
と、先にかいておいて、あとからうしろの部分の訳をつけていったんじゃないだろうか。

 不自然な訳語をさがしてみると、
「многосветлый」(mnogosvetlyi)『たくせあかいの』(たくさんあかりの)
これは「とてもあかるい」(ごんざのことばでは「くつあかか」)でいい。

「многоязычный」(mnogoyazychnyi)『たくせしたん』(たくさん舌の)
これは「たくさん」はそのままでいいけれど、「舌の」は「ことばの」だ。

「многоножный」(mnogonozhnyi)『たくせあしの』(たくさん足の)
意味はわかるけど、「ムカデ」かなんかじゃないのか。

「многолетный」(mnogoletnyi)『たくせなつの』(たくさん夏の)
「многолетствую」(mnogoletstvuyu)『たくせなつする』(たくさん夏する)
これは「лета」(leta)(年)と「лето」(leto)(夏)をまちがえてしまった。ほぼ同音異義語だから、まちがえてしまうことはしかたないけれど、できた訳語の『たくせなつの』(たくさん夏の)、『たくせなつする』(たくさん夏する)が何のことなのか、かんがえないで機械的に作業をすすめている感じだ。

 いくらごんざのロシア語が上手になったからといって、ボグダーノフ師匠は作業をごんざに丸なげするべきではないのだ。

ボグ:これ、きょうの分。私はあっちの部屋でしごとしてるから。
ごん:師匠に相談しながらやりたいんだけど。
ボグ:ごめん。きょうは別のしごとがあって。
ごん:師匠は「многотрудный」(mnogotrudnyi)『たくせしんどん』(たくさんいそがしい)だな。