四〇〇万企業が哭いている ドキュメント検察が会社を踏み潰した日/講談社

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400万企業、とは世の大多数の雇用を維持している中小企業のこと。
この書は、東京地検特捜部が、財務諸表にちょっとお化粧をして震災復興保障制度を利用して、2800万円の融資を引き出したことをもって、当該企業経営者とそれを助言したコンサルを『詐欺罪」で立件した事件のドキュメントである。
財務諸表のお化粧は、これが上場企業であれば『粉飾』として一般投資家に与える影響は資本市場の信頼性という問題にかかわるので、大いに告発すべきだあるが、この場合、果たして立件すべきほどの悪質さはあったのだろうか。
因みに当該企業はそれまで、銀行の返済を滞らせた事はなく、返済のために親戚や知人に金を借りて返済するほどであった、という。
返す心算のない金を決算書などを改ざんして借りる、と言うのであれば「詐欺」は解る。
この場合「詐欺」と言えるのか。
またコンサルも経営者に「お化粧」を存続のためにやむを得ない一時的手段として認める一方、企業経営者には、経費の削減を迫っている。コンサルとしては真摯な態度で職務を行っていたと認められる。
一方銀行の方も、上記のような融資保証制度融資は銀行自体のリスクもなく、融資に前のめりで、陰に陽に「お化粧」を進めるケースもある。
ここで思い出すべきは、オリンパスやカネボウなどの数千億円規模の粉飾は立件・逮捕まで至るが、数億円規模であると多くは証券等監視委員会で「課徴金」で済まされることである。
「市場の信頼性」と言う意味では、インサイダー取引も「粉飾」に劣らず重大な問題であるが、記憶の新しい処では、先の野村証券の場合では、野村にとっては痛くもかゆくもない数億円の課徴金で済ませたし、企業も存続が許容されている。
一方中小企業の場合、経営者の逮捕は即倒産を意味する。
著者の取材に、ある警察官僚は
「どうしてあんな事件をやるんですかねえ。特捜さんが今回掴まえたのと全く同じことをやっている会社を見つけてきてほしいと言われたら、うちの捜査員なら多分、一週間で三社は見付けてきますよ。特捜さんが銀行の味方をして中小企業をやっつけるなんて、おかしな時代になりました」(234P)
尚、コンサルの弁護人には、宗像紀夫元特捜部長が「君、お金がないんだろ。お金のことは心配しなくていいよ」と言って就いている。ほっとするとてもいい話だ。
また当該企業の経営者の主任弁護人には、郷原信郎氏が就任したようだ。
最後に、この著者だけではないが、ドキュメントとして、立件に当たった検事、主任検事の名前がないのが疑問だ。名前を出すべきだ。