イギリスのフィナンシャル・タイムズの記事を発見した。
私なりの要旨は以下の4点である。
黒田氏は年率2%のインフレを実現したいと思っているだけでなく、この目標は中央銀行の力で達成できると考えているのだ
デフレに終止符を打つことは、1990年代終盤と比べてはるかに難しい
③問題は、インフレを実現できるかどうかではなく、その成果を管理できるかどうか、特に粘着性の高いデフレに対する根強い予想を変えようとしている時に管理できるかどうか、だ。
円を保有している投資家の逃避を促し、円相場の暴落とインフレの昂進(こんしん ※高ぶり進むこと)をもたらす恐れがある

日銀による大胆な金融緩和によっても、2%のインフレをデフレ・マインド(物価は下がっても上がらない、上げられない)が根強い中では、相当困難な課題であり、しかも、一度、物価上昇が始まったら、歯止めがきかなくなり、「円相場の暴落と超インフレ」を招く恐れがあることである。

今目の前に起きていることは、日米とも中央銀行の金融緩和によって溢れたマネーが、企業への融資ではなく、株式市場への流入によるバブルである。日本国内の本当の意味での需要の拡大・消費の拡大・投資の拡大と繋がらない限り、金融緩和が、「円相場の暴落と超インフレ」という危険な賭けに突き進んでいることを論じていると思われる。

「成長しなければならない」「成長によって救済される」という「信仰」は、最早足元を見ない「宗教」のようである。
今ある需要の中で、地域で、国内で、どう支えあうのかが課題であることに、国の指導者たちは、早く気づかなければならないと思う。

しかしながら、イギリスのフィナンシャル・タイムズの真意は、後で掲載する社説のように
「今ギャンブルに打って出るか、後で没落するか――。これが日本の選択肢だ」という主旨で
日本のギャンブルを支持しているようだということは、付け加えておきたい。
この社説を読んで気づいたことは、

もし、「円相場の暴落と超インフレ」が起きた場合、
「円と預貯金」が紙切れになるこ。そしてこの巨大な政府借金が帳消しになる。
多くの国民の痛み、犠牲の下に。
というシナリオが見て取れる。
そこまで安倍・黒田ラインは読んでいるのだろうか?
どちらにせよ、寒気だけがやってくる。
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37304
安倍首相の驚くべき計画金融政策で日本の再浮揚を図る危険な任務
2013.03.07(木)
Financial Times
(2013年3月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

日本の安倍晋三首相が絶え間なく世間を驚かせている。首相が日銀のトップに指名したチームは、これ以上ないほど急進的だ。日銀の過去の消極性を批判してきた黒田東彦氏が金融政策を担うことになる。

 間違ってはいけない。黒田氏は年率2%のインフレを実現したいと思っているだけでなく、この目標は中央銀行の力で達成できると考えているのだ。

 黒田氏は政府および新副総裁になる岩田規久男、中曽宏両氏の支持も期待できるだろう。日銀は不満を漏らすかもしれないが、政策の転換は確実なように見える。

 問題は、新たな政策が奏功するかどうか、だ。そして実際、「奏功する」とは何を意味するのだろうか?

<日本が置かれた奇妙な状況>

 まず、日本の奇妙な状況に留意するところから始めなければならない。

 デフレ期待はすっかり定着している。たとえ調査に表れていないとしても、債券市場にはデフレ期待が深く根差しており、10年物国債の利回りが現在0.66%となっている。短期金利でさえ、実質金利はプラスで推移している。また、デフレは粘着性が相当高かった。

 最後に、債務の配分は民間部門から公的部門へとシフトした。経済アドバイス会社スミザーズ・アンド・カンパニーによると、非金融法人企業部門の純債務は1995年時点で株主資本の150%だったものが、30%まで低下した。だが、政府の純債務は1996年末時点の国内総生産(GDP)比29%から跳ね上がり、2012年末には同135%に達した。

 こうした事実には深甚な意味合いがある。まず、デフレに終止符を打つことは、1990年代終盤と比べてはるかに難しいということだ。次に、インフレ率の上昇は、実質金利もマイナスになるのであれば有益だろう。支出を促すことになるからだ。第3に、マイナスの実質金利は、政府の債権者から将来の納税者へと富を再配分することにもなるはずだ。

 このようなマイナスの実質金利は、インフレ率を予想よりも高くするか、金利を抑制することによって達成できる。

 実際、日本の当局が実質金利を大幅なマイナスにすることを望んでいるかどうかははっきりしない。しかし、たとえそれが政治的な反発を招くリスクを生むとしても、当局はそうすべきである。

 では、いかにしてこれを実現し、どれだけ透明性を確保すべきなのか?

 日銀は2%のインフレを目指すと言いながら、それよりも高いインフレをもたらす可能性の高い政策を遂行することができるだろう。これは危険なごまかしだ。あるいは、日銀はより高いインフレ率の目標を発表しながら、低い名目金利が長期間続くと言うこともできる。これは公然たるインフレ税に当たる。

 いずれにせよ、一時的に物価ないし名目GDPの水準をターゲットにすることで政策を補強することができる。そうすべき根拠は、このような極端なケースでは、過去を過去として済ますべきではないということだ。

 現在の物価水準は、1997年以来ずっと、年間インフレ率が2%だった場合と比べて30%低い。同様に、名目GDPは日本経済が年間3%の成長を続けてきた場合よりも40%小さい。もし日銀が、1997年以降、年間3%の成長が続いた場合の名目GDPの水準に戻ることを目指すなら、向こう10年間、年間9%近い成長にコミットすることになる。

 そうなれば、間違いなく債務の実質負担を軽減できるはずだ! その先は、政策立案者は2%のインフレ目標に戻ってもいいだろう。

 これは一例を示しているだけであって、推奨しているわけではない。だが、これほどの急進主義を是とする論拠は、経済見通しを速やかに変えられることだ。通常の目標では不十分かもしれない。

<ターゲットと並び重要な政策手段>

 問題は新しいターゲットだけではない。政策手段も重要だ。日銀を率いる新たなチームは、政府の赤字のマネタイゼーション(貨幣化)を含め、今より多様な資産買い入れのメニューを検討しなければならない。

 サウサンプトン大学のリチャード・ヴェルナー氏はかねて、財政のマネタイゼーションを行う最善の方法は、政府が銀行から資金を直接借り入れることだと主張してきた。筆者が2月13日付のコラムで述べたように、いざとなれば、日本は「ヘリコプターマネー」を使ってもいいかもしれない。

 もし日銀が市場から引き揚げることを望まない不換貨幣を使うなら、併せて商業銀行に明確な準備預金の義務を課す必要もあるだろう。

 日銀の従来の見解は、金融政策はインフレ率を引き上げられないというものだった。この見方は驚くほどの想像力の欠如を露呈している。原則としては、日銀は不換貨幣を使い、世界中のすべての資産を好きな価格で買うことができる。そうすれば確実に円の購買力が低下するだろう。

 問題は、インフレを実現できるかどうかではなく、その成果を管理できるかどうか、特に粘着性の高いデフレに対する根強い予想を変えようとしている時に管理できるかどうか、だ。

 むしろリスクは、この取り組みがレンガをゴム紐で引っ張るようなものだということだろう。最初は少ししか動かず、やがて過度に動いてしまうのだ。ターゲットが重要なのは、このためだ。政策転換は信頼に足ると同時に、しっかりと抑制されなければならない

<行く手に待ち受ける2つの危険>

 ここで2つの大きな危険を予想できる。明らかに相互に関連した危険だ。

 第1に、新たなアプローチは、近隣窮乏化政策を目指す意図的な試みと見なされる可能性があり、その結果、危険な報復をもたらしかねない。

 次に、これが円を保有している投資家の逃避を促し、円相場の暴落とインフレの昂進をもたらす恐れがある

 1つ目の方が差し迫った危険で、2つ目の方がより遠い先の危険だ。どちらのリスクも、政策転換を、正常な状態へ戻る確かな出口によって裏付ける必要があることを示している。

 さて、最後になるが、金融政策の抜本的な変更で十分なのか? その答えはノーだ。短期的には、政府は赤字をマネタイズできるし、そうすべきでもある。だが、長期的には経済のリバランス(再調整)を図り、政府が創出した需要への依存を減らさなければならない

 筆者が2月6日付のコラムで主張したように、政府は最終的に構造的な財政赤字を減らさなければならない。

 これを実現するためには、日本の民間部門が、政府の赤字に対応する構造的な資金余剰を減らさなければならない。こうして、日本の企業部門は長期的に、投資に対する内部留保の余剰を削減しなければならないのだ。

 民間部門の資金余剰を減らさないとすれば、経常収支の黒字を永続的に増やすことになるが、これは世界第3位の経済大国が今、採用してはならない策だ。これを採用すれば、過剰貯蓄に苦しんでいる世界経済を不安定にしてしまうからだ。

 日本は今、長らく地上で立ち往生していた金融政策の凧を飛ばそうとしている。中には中央銀行の独立性が侵害されたと言う人もいるだろう。それに対する反論は、日銀は物価安定の使命を果たせなかった、ということだ。

 問題はむしろ、新たなチームが国内経済や世界経済を不安定にすることなく、インフレ率を引き上げ、実質金利を引き下げることができるかどうか、だ。

<やり過ぎるリスクを冒しても、対策が不十分な事態は避けよ>

 もしかしたら、2%のインフレ目標に向けて尽力することで、必要な成果を上げられるかもしれない。だが筆者は、少なくとも当面は、物価か名目GDPの水準を対象とするもっと急進的なターゲットが必要ではないかと考えている。

 日銀を率いる新たなチームは、たとえ結果的にやり過ぎるリスクを冒すことになっても、対策が不十分な事態は避けなければならない。多くの決断と多少の運が必要になるだろう。世界は新たなチームの幸運を祈るべきだ。
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<3月6日付け英フィナンシャル・タイムズ紙 社説 要旨>
今ギャンブルに打って出るか、後で没落するか――。これが日本の選択肢だった。
②緩やかなデフレ期待が根強い国であっても金融政策によってインフレ率を引き上げることができるのか、というものだ。日銀はこれについて悲観的な立場を取っているが、この問いの答えはイエスだ
③実際のインフレ率と期待インフレ率を引き上げることができれば日本経済の長期低迷に終止符が打たれるのか
④実質金利をマイナスにするものだった場合、外国人投資家だけでなく国内居住者の間でも日本円からの逃避が引き起こされる恐れがある。そのような円急落が生じれば、短期的な輸出ブームが起こるかもしれない。
⑤デフレを終わらせることはリスクを伴う。しかし、現状のままでいることの方がリスクは大きい。今のままでは、日本の公的債務はいずれ手に負えないものになるだろう。デフレを続けていても、いずれもっとひどい災いに見舞われることが確実になるだけだ
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37291
Financial Times社説:大きく変わる日本の金融政策必要ではあるが、リスクを伴うギャンブル
2013.03.06(水)Financial Times

(2013年3月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

政策の推進を急ぐ安倍晋三首相が日銀の次期総裁候補に黒田東彦氏を指名したことは、首相の意図の大胆さを示すものだ。

 黒田氏を選んだ狙いは、15年ほど続いている日本のデフレを終わらせることにある。そのような試みは日本経済を揺さぶるだろうし、ことによると世界経済をも揺さぶるかもしれない。

 この政策転換は必要ではあるが、リスクもはらんでいる。少なくとも短期的には、経済を不安定にする要因になりそうだ。手綱さばきを誤れば、この大変革は悲惨な結末を迎えかねない。

 とはいえ、惨禍は既に迫りつつあった。今ギャンブルに打って出るか、後で没落するか――。これが日本の選択肢だった。

<紛れもなく重要な日銀のトップ交代>

 今回の日銀のトップ交代は紛れもなく重要だ。黒田氏は、日銀が独立性を獲得した1998年以降では初の財務省出身の総裁になる。同氏はかつて財務省の国際畑に身を置き、英語が堪能で、デフレは構造的な問題だという日銀の信念がいかに特異なものであるかを十分認識している。

 特に重要なのは、同氏がかなり前から日銀のデフレ容認姿勢を批判してきたことだ。実際、1999~2003年に財務省で財務官を務めていた時に、インフレターゲット導入論者の伊藤隆敏・東京大学教授を同省に招き入れたのはそのためでもあった。

 黒田氏は2人の副総裁候補――日銀を長らく批判してきた岩田規久男氏と、現日銀理事の中曽宏氏――とともに、日本政府が求めるもの、つまり、年率2%のインフレを実現することを期待されることになる。

 これを適切な文脈に沿って説明するなら、仮に日本の消費者物価指数が1997年から年率2%のペースで上昇し続けていたとすれば、現在の物価水準は実際のそれよりも40%高くなっていた。

 最初に思い浮かぶ疑問は、緩やかなデフレ期待が根強い国であっても金融政策によってインフレ率を引き上げることができるのか、というものだ。日銀はこれについて悲観的な立場を取っているが、この問いの答えはイエスだ

 ただ、この目標達成に必要な政策は極めて急進的なものになるかもしれない。無制限の外貨購入、今よりも大きな財政赤字のマネタイゼーション(貨幣化)、あるいはリスクのある国内債券などの直接購入などがその主なところだ。

 現実には、こうした施策は政府との緊密な協力がなければ着手できない。しかしその政府自身がインフレを望んでいるのだから、政府は恐らく協力するだろう。あるいは、政府が商業銀行から直接資金を借り入れてマネタイゼーションを行うこともできる。

 第2の疑問は、実際のインフレ率と期待インフレ率を引き上げることができれば日本経済の長期低迷に終止符が打たれるのか、というものだ。この問いには、「恐らく」としか答えられない。

<決して確実ではないインフレの好影響>

 まず、インフレ率の上昇によって実質金利がマイナスになり、現金を退蔵せずに使うよう促す力が働けば、低迷は終わるかもしれない。またインフレ率が上昇すれば、この30年間に積み上げられてきた公的部門と民間部門の過大な債務が軽減されるかもしれない。さらに、それが引き金になって次の景気拡大局面が始まるかもしれない。

 ただ、これらの好影響は実現する可能性こそあるものの、確実にそうなるとはとても言えない。例えば、実質金利がマイナスになったら、預金者や債権者は財産の目減りを埋めようと、さらに貯蓄に励むかもしれない。

 また、期待インフレ率の上昇は金利――特に長期の金利――を押し上げる可能性がある。もしそうなれば、インフレ率の上昇が債務の実質的な水準にもたらす好影響は、ほとんど帳消しになるだろう。

 第3の疑問は、この新しい政策が間接的にどんな影響を及ぼすのか、というものだ。

 期待インフレ率が上昇すれば、特にそれが実質金利をマイナスにするものだった場合、外国人投資家だけでなく国内居住者の間でも日本円からの逃避が引き起こされる恐れがある。そのような円急落が生じれば、短期的な輸出ブームが起こるかもしれない。

 もっとも、ほかの国々の中央銀行が急進的な金融緩和に取り組んでいることから、その影響は弱められる可能性がある。

 また、日本の新しい金融政策は、世界各国の経済政策がさらに拡張的なものにシフトする引き金になるかもしれない。だが、ほかの国々は日本の政策を近隣窮乏化政策だと批判することにもなるだろう。

 日本円から資金が逃避するリスクには注意しておかねばならない。

 もし資金逃避が過度に進んだら、日本政府は為替管理を導入したくなるかもしれない。しかし、規模の大きな債権国が為替管理を導入すれば、重い負債を抱えるほかの債務国が真似をするのではないかという、経済をかなり不安定にする恐怖心が生まれかねない。

<現状のままの方がリスクは大きい>

 要するに、デフレを終わらせることはリスクを伴う。しかし、現状のままでいることの方がリスクは大きい。今のままでは、日本の公的債務はいずれ手に負えないものになるだろう。デフレを続けていても、いずれもっとひどい災いに見舞われることが確実になるだけだ

 日本はそちらの方向に進むのではなく、経済をバランスの取れた状態に戻さなければならないし、過大な債務を減らさなければならない。

 それに向けた施策を15年前に講じていればはるかに良かったが、愚かなことに、日銀は時宜を得た行動を取らなかった。遅きに失したことは良くないが、少なくとも、何もしないよりはましだ。

 民間主導の支出と経済成長の促進を目指す一連の政策において、プラスのインフレ率には担うべき役割が確かにある。インフレ率を引き上げようとギャンブルに出た安倍氏の判断は正しい。しかし、これは明らかにギャンブルだ。