君がために奏でる詩 -2ページ目

君がために奏でる詩

妄想とねつ造の二次創作サイトです( ´ー`人´ー` )

 

 

綺麗に染まった紅葉が、庭を赤色に染め尽くす秋。

その朱色が血のように見えてしまって、

思わず口から出ていた言葉。


「ごめんなさい・・・」


あの時、泣いて泣いて泣いて・・・。

涙は枯れ果てて、これ以上は出てこないかも・・・。

そう思っていたのに、やっぱり今でも目に溜まる涙。


来年の春も一緒に桜が見れると思っていたのに・・・。

満開の桜も、梅雨の長雨も、夏の暑さも、

あなたと過ごした一時は、とても穏やかで。


京の紅葉は見事だから、一緒に見に行こうと。

冬には雪が降るだろうから、一緒に雪遊びをしてみたい、と。

そして春には、庭の梅の木が咲き誇るだろうから。

梅が終われば、また桜の季節。

未桜と一緒に見たい、と。


その頃には家族が増えていたら良いな。

そう微笑んでいたあの夜に交わした口づけが

嶺羽様との最後の口づけになってしまうなんて思ってもみなかった。


あなたの声も、匂いも、抱きしめてくれる腕の強さも、

・・・たくさんの言葉と想いも、こんなにも覚えているのが

今は苦しくて、切なくて。


幸せな思い出と交互に訪れるのは、悲しい記憶。


箔晴の死を知らせられた時のこと。

嶺羽様の最期。

・・・そして、妖になった祇夕を私の舞いで苦しめて封印した時のこと。


今でも三人に対して申し訳ない気持ちがいっぱいで、

どれだけ謝っても足りないくらい。


私があの邸に行かなければ。

嶺羽様と出会わなければ。愛し合わなければ・・・。

嶺羽様も祇夕も箔晴も関係を壊さずいられたのに。


「ごめんなさい・・・」


秋の風が吹き抜けていく度に、

肩口で切りそろえた髪の毛を揺らしていて。

頬を撫でる風と髪の毛を手で抑えながら空を見上げると、

目に溜まっていた涙が頬を濡らしていく。


本当は今すぐにでも嶺羽様の元へと行きたいのに、

自害は仏の道に外れてしまうから、それも出来なくて。

・・・それに、理由はもう一つ。


出家して尼になったのに、毎日後悔して泣いてばかりで駄目ね。

祇夕ならきっと、「泣く暇があったら、念仏の一つでも唱えるんじゃ!」って怒るわね。

箔晴はどうなのかしら。仏教ではなく神道の道も薦めてくるかしら。

嶺羽様なら・・・。


まだ平べったいお腹を撫でながら空を見上げていると、

背後からおずおずとかけられた声。

振り向くと、尼装束に包まれた二人の女性が不安そうな顔で立っていて。


「未桜様、本当に行かれてしまうのですか・・・?」

「妓女様・・・。それに刀自様までそのようなお顔をされて・・・。

私なら大丈夫なので心配しないでください!」


祇夕の妹の妓女様は、祇夕とは別の華やかさがあって、とっても美人で。

妖になってしまった祇夕を弔いたいという理由だけで、出家してしまうんだもの。

それに祇夕の母君の刀自様まで一緒に出家をして・・・。


私が祇夕にしたことを知った上で、私のことまで気にかけて下さる二人だから、

これ以上、迷惑はかけたくないのに。

それなのに、やっぱり最後まで迷惑をかけてしまうのかしら・・・。


「心配しますよ。身重の体で故郷に帰るだなんて普通は心配しますよ?」

「でも尼寺で出産するわけにはいきませんし・・・」

「出家した後に身籠っていることが分かったんですから、

これも仏様のお導きだと思って、ここで出産されてはいかがですか?」


故郷に帰られても、ご家族もおられないのでしょう?

そう言われて、曖昧に笑うしかできなくて。


お父様もお母様も亡くしたから・・・。

だから京にいる叔父様の白河兵内の元へ身を寄せて、白拍子になって、、、。


確かに故郷には家族もいないし、

叔父様も戦に赴いている今、そちらに頼ることもできないし。

・・・何より、嶺羽様のお子を身籠っていると分かったら、

叔父様はこの子を私から奪ってしまいそうで。


この子がいるから、生きる希望を持てた。

あの時、思い余って自害をしなくて良かった、って思えた。


ねぇ嶺羽様。

自分が居なくなってもこの子がいるのだから泣くな。

私の分まで護ってやってくれ。そして、・・・護ってもらってくれ。

そう言っているように私は思えるんですよ・・・?


「・・・京の都にいれば、この子は色々な争いに巻き込まれてしまう気がするんです」

「そう、でしょうけれど、、、山奥にある尼寺ですし、人の目も届かないでしょうし、、、」

「でも尼寺で出産はさすがに憚れますし・・・。

この子を産んで、落ち着いた頃に、また顔を出しに来ますから」


それに私のせいで今度は妓女様や刀自様まで巻きこんでしまっては、

それこそ祇夕に顔向けできません!!

そう真剣に言えば、二人とも苦笑しながら私の手を握ってきて。

その温もりがとても優しくて、また泣いてしまいそう・・・。


「未桜様がご不在の間、この庵と祇夕お姉さまの墓石は私たちが守りますから」

「未桜様にご加護があらんことをお祈りしております」


この子は春頃に産まれるだろうから、

この子と共に訪れるのは、・・・二年後くらい?


「きっと、、、きっと、この子と一緒に逢いにきます」


最後に握られた手をギュッと握り返して、踵を返した。


綺麗に染まった紅葉。

竹林の間にある道をゆっくりと歩くと、開けた場所にある人影。

まるで私が今日、ここを通ることを知っていたみたい・・・。

大きな岩に腰かけながら、私に向かって手をヒラヒラと振っていて。


「・・・忠真。祇夕の墓参り?」

「・・・・・・・・・。故郷に帰るのか?」


質問を質問で返されても・・・。

えぇ、と頷くと、忠真は腰を上げて私の隣に。


相変わらず感情の読めない顔。

飄々とした顔を見せていたのは祇夕の前だけ。


「・・・祇夕が嶺羽様をお慕いしていたのは知っていたの?」

「あぁ。隠して、強がって、嫉んで、、、そうやって溜めこんで苦しんで。

そんな醜い自分が嫌で、最後には自暴自棄になっていた・・・。

だから俺が正直になれるように協力してやったが、      くそっ。後味悪ぃな」


何を協力したのかしら・・・?

でも、もしあの時、忠真が傍にいれば・・・。

箔晴と共に祇夕のことを鎮めてくれていれば、

もしかしたら箔晴も嶺羽様も、そして祇夕も・・・。


そう考えてしまう自分が嫌になる。

今更、取り返しなんてつかないのに。


「・・・それにしても、髪をばっさりと切ったものだな。白拍子は廃業したのか?」

「嶺羽様以外の方にお仕えするつもりもないから・・・」

「でも還俗するんだろ? あの尼寺を出てきた、ってことは」


どこまで見透かしているの?

じっと忠真を見るけれど、相変わらず考えが読めなくて。

むぅと口を噤むと、私に差し出してきた護符。

なにかしら・・・?


「お前を探している人がいるから、都の中は通らずに行けよ。

見つかったら、        そうだな。腹の子はまず取りあげられるだろうな」

「・・・・・・どうして忠真が・・・」

「気まぐれだ。あと女の一人旅だし、気休めだろうが護符も持っていけ」


この人が気まぐれなんて無いと思うけど・・・。

だけど理由を聞いても絶対に教えてくれないと思うから。


護符を受け取って懐にしまうと、忠真がほっと安堵した気がして・・・。

まるで私を通じて罪滅ぼしをしているみたい。

・・・でもよく分からない。

祇夕も箔晴も忠真にとっては大切な人だったはずなのに。

本当なら全ての元凶の私を憎いと思うはずではないの?


そんな私の考えを見透かしたみたいに、忠真はもう一度「気まぐれだ」と繰り返して、

都の方角へと足を向けた。


箔晴と同じように、この人も術者。

星の位置で、未来に起こることも分かっていたのかしら・・・。


去っていく背中を見送りながら、私の口から出た言葉。


「ごめんなさい・・・」


あの日から、何度この言葉を言ったのかしら・・・。


16年間生きてきた中で、一番だと言い切れるくらいに幸せだった。

初めて好きになった人に、好きだと言えて。

たくさんの優しさと愛しさを与えられて。


与えてもらう一方で、私からは何も渡せなくて。


もう一度・・・。

もう一度だけでもお逢いすることが叶うのであれば、

嶺羽様にお聞きしてみたい。


嶺羽様も幸せでしたか・・・?





 -





       ・・・おう。未桜! このような所で寝ると風邪をひくぞ」


・・・嶺羽様?

脇息に寄りかかりながら眠っていた私の身体を揺すり動かしていたのは、

やっぱりこの部屋の主の嶺羽様で。


・・・?? 

違和感を感じるのは、私がまだ寝ぼけているせい?


「未桜、どうし           っ!?」


違和感も不安も何もかも吹き飛ばすように

冠と装束姿のままの嶺羽様の胸の中へ飛び込むと、

私の身体と共に傾いていく身体。


「・・・私は衾ではないぞ?」

「ご出仕、お疲れ様でございました。ただいま直衣をお持ち致ししますので、

ごゆるりとお休みくださいませ」

「棒読みではないか。どうしたのだ? 寂しかったのか・・・?」


頬を包んでくる掌が顔を持ち上げてくるから、

逆らわずに顔を上げると、

        嶺羽様が私の顔を見た途端にクスクスと笑いだして。


どうして笑うんですか。

口を尖らせて見せると、その唇に軽く触れてきた唇。

呆気にとられていると、後頭部と腰に置かれた掌が強く抱きしめてきて、

クルンと体勢が入れ替わっていて。


身体の下に感じる床。

嶺羽様の肩越しに見える天井。

目をパチクリとさせると、今度は隙間がない位に重ねられた唇。


「ん・・・っ、んん・・・、はっ、んんっ! んーっ」


前に上手な口づけの仕方を手解きしてもらったけど、今でも上手にできなくて。

息が続かなくて、苦しくて。

嶺羽様の装束を力いっぱい握ると、それに気づいてくれたのか

ようやく離れてくれた唇。


だけど袴の結び目を解く音。

装束同士が擦れあう音が耳に届いて、

下を見ようとするとまた重なってきた唇。


口づけの合間も動く掌が、どんどん熱を持ち出して、

私の身体も同じ体温の高さまで上げようとしていて。

肌同士が重なると安心するのに、

同時に緊張して、鼓動が早くなるのはいつまで経っても同じ。


「・・・未桜が一番、私を必要としてくれているのかもしれぬな」

「御所で・・・、お仕事で何か嫌なことでもありましたか?」

「その仕事をしたくても、させてもらえないのだ」


今まで床に伏していた期間が長く、出仕が出来なかったのだから

仕方がないと言えば仕方がないのだが・・・。

そう言いながら、堅苦しい装束と冠の紐を解いて、公から私の姿へと戻っていく。


確かに出会ったばかりの頃は、よく体調を崩しておられたけれど、

最近は邸におられる方が少ない気がするほど、出仕ばかりで。

おかげで嶺羽様に会えたのも幾日ぶり。


今まで溜まっていた仕事を片付けるのが忙しいのね。

そう思って、嶺羽様が居ない寂しさを我慢していたのに、、、。


「・・・では御所に何しに行かれているのですか?」

「異母兄弟の世話と、上の者たちの話し相手と、そなたの為の根回しと、

・・・本当に何しに出仕しているのだろうな」

「異母兄弟と言いますと、時雨様ですか・・・?」


何度か姿を拝見したことがあるけれど、忠真同様によく分からなくて。

顔は笑っていても、表面だけ。

ある意味、嶺羽様よりも貴族らしいけれど、私は少し苦手で・・・。


時雨様も人に世話をされるのは嫌う方だと思っていたのに、

兄君の嶺羽様の前では違う一面を持っているのかしら?


首を傾げると、嶺羽様は首を横に振って、苦笑顔。


「未桜は知らぬのだな。病弱で寝てばかりの私が、どうして貴族でいられたと思う?」

「それはお父君の官位が高いからなのでは・・・?」


貴族の息子は、元服すると御所に上がれる殿上人の官位を頂けるらしいから。

嶺羽様のお父君は、確か大臣様よね?


「表向きはそうだが・・・、私の本当の父上は上皇だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


上皇って、、、譲位により皇位を後継者に譲った元・帝様のことで。

その方が父上なら、嶺羽様は         皇族?

皇族・・・。

尊い血筋の方だから、と祇夕には教えられていたけれど、、、え? えぇっ!?


何て言えば良いのか分からなくて。

口をパクパクとさせていると、嶺羽様はクスクスと笑いながら

私の首筋に顔を埋めてきて。


「上皇が寵愛している女御の妹が私の母なのだが、身籠ってしまってな。

さすがに入内もさせられないし、困った上皇が臣下に嫁がせたのだ」


お腹にいる私ごと下げ渡されたのが、今の父君だ。

そうなんて事ない風に言われても、私にとっては衝撃の事実で。


嶺羽様が喋る度に、舐められた首筋がくすぐったいけど、

驚きすぎていつものような反応が出来ずにいると、下肢に触れてきた指先。

ビクンっと身体を揺らすと、ようやく満足する反応だったのか、

鎖骨にあった唇が笑みを作った気がして。


~っ、とっても大切な話なはずなのに。

だけど嶺羽様にとっては、どうでも良いのかしら・・・?


「本当の父君は表だっては名乗れないからな。

だから罪滅ぼしのつもりか、父君や私に官位だけは与えてくれたのだ」

「・・・・・・・・・えっと、もしお母君が入内していたら、嶺羽様は皇子様として、、、」

「血筋だけで言えばそうだろうが、皇位継承権には巻きこまれないから安心して良いぞ」


確かに嶺羽様は表立っては大臣様の息子だから、

皇位継承権には巻きこまれないだろうけれど。

だけど、この話は周知の事実みたいだし!?

他の貴族の方たちも知っているのならば、嶺羽様を・・・、と担ぎ出されたら、、、。


肌越しに伝わってくる鼓動の音。

その鼓動を、身体を巡っている血は、予想以上に尊くて。


「安心できませーんっ!!」

「それもそうだな。もし姫が産まれようものなら、そなたの身分はどうであれ、

入内だ何だと言われそうだな。あぁ、、、斎宮にも選ばれる可能性があるのか、、、」

「えぇっ!?」

「未桜には巫女としての力が備わっているから、斎宮の可能性の方が高いのか・・・?」

「さ、斎宮さまっ!? なななななな、何でそんな・・・っ!?」


卜定で選ばれてしまいそうだな・・・。

そうごちる嶺羽様は、私をじーっと見つめてきて。


「最初は男児を頼むぞ」


そう言われても、性別は神の領域ですし!?

だけど私の叫び声は嶺羽様の口の中に消えていって・・・。


喘ぐしかできない私の舌を絡めとって、甘噛みして。

深く重なる唇の隙間から洩れだす声。


思考も身体もとろとろに溶けてしまいそう。


激しい口づけも、

啄むような口づけも、

優しく触れるだけの口づけも、

全て刻み込むようにこの身に受けて、わななく身体。


未桜も、・・・もし授かることができるのならば、私たちの子も、

私の事情に巻き込むことになるかもしれないが、

それでも傍にいてほしい。


そう呟いた唇が、頬に柔らかな感触を残して・・・


 


             さま。たたさま、ちゅー」


・・・美羽?

小さな小さな掌で私の頬をペチペチと叩きながら、

涎たっぷりの唇で私の頬に口づけをしていて。


「ふふ、どうしたの? 起きたら母様も眠っていたから寂しかったの?」


小さな体を抱き寄せると、猫のようにすり寄ってきて。

嶺羽様と同じ黒の髪の毛。

目元もそっくりで、この子を見るたびに嶺羽様を思い出せるのが嬉しい。


桜が満開の頃に産まれた美羽。

もうすぐ、またその季節が巡ってくる。


満開の桜も、梅雨の長雨も、夏の暑さも、

今年からは嶺羽様の代わりに美羽と見ていくのね。


京の紅葉は見事だから、一緒に見に行こうと。

冬には雪が降るだろうから、一緒に雪遊びをしてみたい、と。

そして春には、庭の梅の木が咲き誇るだろうから。

梅が終われば、また桜の季節。

未桜と一緒に見たい、と。


その願いは嶺羽様とは叶わなかったけれど、

美羽とは叶うから。


「・・・美羽。そろそろ母様の大切な人達に逢いにいきましょうか?」


あっという間に寝息を立てて眠ってしまった美羽の額に、

一度だけ口づけをした           





~つづく~

 

 

 

 

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ほぼねつ造ですが、
一応は仏御前と平清盛をモデルに話は作ってあります(`・ω・´)
仏御前も本当に清盛の子供を産んだんですよね。
本当は男児でございました(´・ω・`)
そっちまでモデルにしちゃうと、美羽ちゃんと子孫の桜咲家の存在が危ういので、
そこは参考にしませんでしたが!w

 

ラスト1話です! 次は12/16(土) am7時です!

ちなみに内容がちょっとあれなので、アメ記事にしてあります。

この話もアメ記事にしようか迷ってはいるんですけど、、、

削除されたらゴメンナサイ(*ノωノ)

 

 

 

 

『あなめでたの祇夕御前の幸いや、
同じ遊女とならば、
誰も皆あの様でこそありたけれ』


誰もが羨むような名声を手に入れていたのに、
自分が招き入れた女に全てを奪われた。
・・・愛おしい男まで。
憐れで哀しい女だ。


そんな彼女を手に入れたいと思ったのはいつからだろう。
誰よりも気高く、美しい祇夕御前は高嶺の花。
だけど、こっちに振り向かせたくて。
嶺羽殿や箔晴に向ける笑顔を見せてほしくて。
その綺麗な花に触れたくて・・・。


滝のように緩やかに流れる黒髪を梳くいながら、
茵に横たわる白い身体を撫でると、
その手を容赦なく叩いてくる手。


「なんじゃ・・・。まだ帰っておらぬのか」
「冷たいな。俺はお気に召さなかったか?」
「ぬかせ。夜が明ける前までには帰るんじゃぞ」


俺に背を向け続ける背中。
恥ずかしくて俺の顔が見れないのか、
・・・後悔しているのか。どっちだ。


「明日も来ていいか?」
「・・・そなたも暇人じゃな。
一夜とて妾を手に入れたのだから満足したであろう?
二度とこの邸には来るな」


・・・後者か。


「俺との関係が嶺羽殿に知られるのが嫌なのか?
それとも・・・、自分の為に俺を利用したとか思っているのか?」


ビクッと揺れる、むきだしの肩。
そんな様子を見て思わず笑みを浮かべると、
俺が笑っていることが雰囲気で分かったのか、、、
ようやく怒り顔の祇夕がこっちを向いた。
だけど俺の顔を見ると、すぐに顔が泣きそうになる。


「・・・すまぬ。妾はそなたに恋情は抱いておらぬ」
「別にいい。祇夕の寂しさの隙間は、俺は埋めてやれたか?」
「・・・・・・・・・どうであろうな」


また朝になって、未桜と嶺羽様の姿を見たら、きっとまた・・・。
そう呟いた祇夕を抱きしめると、
今度は抵抗なく胸の中におさまった身体。


「寂しいのなら・・・、苦しいのなら、忘れさせてやるから」
「・・・未桜に嫉妬するような醜い妾でも、まだ好きか?」
「俺は未桜よりも祇夕の方が好きだ」


それに醜いと言うのならば、それはきっと俺の方だから。
もっと・・・。もっと醜い俺の場所まで堕ちてこい。


その言葉は外には出たのか・・・。
交わした口づけを合図に、また二人で茵の上に倒れると、
祇夕が縋るように抱きついてきた・・・。




 -




庭先から聞こえてくる主たちの声。
いつかは来るとは思っていたが、案外早かったな。


『・・・嶺羽。お前が取らぬのなら、
私がかわりに天下を取ってみせよう』


そんな言葉が聞こえてきた瞬間、
目の前に座って控えている箔晴が微妙な顔。


「時雨殿は相変わらずですね。野望をお持ちなのは良いが、
どうか一族を巻きこまないでくださいよ?」
「時雨様や嶺羽殿の一族のことか? それとも賀茂家の一族のことか?」
「両方ですよ。ついでに言うと、兄弟で争ってほしくないですし、
私も忠真と争いたくありません」


それは俺も同じ気持ちだが・・・。
俺の主の時雨様は、奪う事でしか満たされない。
力でねじ伏せることで安心するタイプだから。


主の言う事は絶対。
例えそれが間違ったことだと分かっていても、
命令されれば、やるしかない。


腕を組みながら、外の様子を見つめていると
夜空の星たちが瞬きだす。
星の位置が少しずつだが、動きだしている。


「・・・あの凶星に呑み込まれるのは誰なのでしょうね」
「誰だろうな・・・。何かが起きるのは秋、か・・・」


陰陽師って嫌なもんだな。
星の位置で、未来が読めてしまう。
どれだけ抗っても、きっと最後は・・・。


「・・・死ぬなよ」
「私に勝てる術者は忠真くらいですよ」


穏やかに微笑みながら緋色の扇子を広げる様子は
どう見ても全てを悟っていて。
あぁ・・・。本当に嫌になるな。
俺もお前も、祇夕も未桜も、・・・そして嶺羽殿も時雨様も
みんなが笑顔になれる未来は待っていない。
だからせめて来世では・・・。


目を閉じれば、祇夕の泣き顔が思い浮かんだ。




 -




「本当の本当に忠真に無理強いされたわけではないのね?」
「しつこいぞ、未桜・・・。大体そなた、勘違いしておらぬか?
白拍子は遊女。それが仕事なれば、相手が好き嫌いの問題では・・・」
「でもっ! 忠真とは仕事ではないじゃない!」


目を逸らす祇夕に詰め寄ると
ようやく私の顔を見てくれたけれど。
だけど祇夕の顔はどこか悲し気で。


頭が冷えて、「ごめんなさい・・・」と謝ると、
苦笑した祇夕が私の頭を撫でてきた。
でもその手が微かに震えている気がするのは気のせい?


「・・・もし、もしもじゃぞ・・・。私が、、、いや、
他の白拍子が嶺羽様と共寝する事になったら、
そなたはどう思う?」


祇夕や他の白拍子が嶺羽様と・・・?


「それに、そなたとて白拍子。この先、
嶺羽様以外の貴族から召されることもあるであろう?」


私が嶺羽様以外の貴族と・・・。


そうね。
これから先、そんな状況はいくらでもあるかもしれない。
だけどきっと嶺羽様なら・・・。


「そんな状況になったとしても、きっと指一本触らないと思うわ。
女性だけ茵で寝かせて、ご自分は離れた場所で
夜通し勉強でもするのではないかしら?」
「・・・・・・・そうじゃな」
「私も嶺羽様以外に仕える気はないから、
召された場合は白拍子は廃業するつもりよ」
「・・・・・・・そう、、、じゃな」
「・・・ねぇ。どうしたの、祇夕?」


私の答えは、祇夕を傷つけた?
祇夕の顔がますます泣きそうに変わっていく。
手の震えは身体全体に広がって、今にも泣き崩れそう。
そんな祇夕に触れようと手を伸ばすと、
私の手が触れる前に攫われていく祇夕の身体。


「悪いな、未桜。祇夕は俺が借りていく」


いつの間に忠真が・・・。
呆然としていると、ニヤリと笑いながら
袖の中に隠した祇夕ごと立ち去っていく。


祇夕が今まで通り、嫌がる素振りを見せれば
何が何でも引き剥がそうと思っていたのに・・・。
いつの間に二人は恋仲になったの?


「失恋の痛みは、新しい恋で治ると良いのですが」
「・・・箔晴?」
「祇夕も水くさい。
通う男が居るのであれば教えてくれれば良いのに」
「・・・嶺羽様も、いつお戻りに?」


家族をとられた気分なのか、
嶺羽様は複雑そうに笑いながら私の隣へ。
箔晴は苦笑しながら、退出の礼をとっていて。


「では私は、ここで失礼つかまつります」
「あぁ、ご苦労であったな。ゆっくり休め」
「嶺羽様もご無理はなさらぬように」


その一言に、カァと赤く染まりだす嶺羽様のお顔。
そんな嶺羽様を見て満足したのか、
箔晴は楽しそうに笑いながら立ち去っていくし・・・。
あっちもこっちも分からない事ばかり。


「・・・私は未桜に関しては、存外と心が狭いらしい」
「そうなのですか・・・?」
「そなたを、、、時雨にも、誰にも渡したくないのだ」


時雨様?
今日会いに行かれた時に何か言われたのかしら?


覗き込むように嶺羽様を見ると、
切なそうに私を見る瞳とぶつかる。
だけど近づいてきた顔と、閉じられた瞳によって、
すぐにその瞳を見ることはできなくなったけれど。


外から帰ってきたせいなのか、
嶺羽様の唇はひんやりとしていて。
私の熱を分け与えるように唇を強く押しつけると、
角度を変えて深くなっていく。


思わず着物を握った手の上に重なってくる掌。
そして滑るように、
腕、肩、首元、耳、頬にと触れてきて。
唇の冷たさと対照的な掌の熱。


「・・・未桜。そなた、子は欲しくないか?」


子。子供。という事は赤ちゃん?
誰が? 誰の? 私と嶺羽様の・・・?
・・・・・・・・・。


「欲しいですっ! 嶺羽様に似た赤ちゃんが欲しいです!」
「いや、私は未桜に似た子が・・・」
「むぅ・・・。では両方、ですね♡」


頑張りますね♡
そう意気込んで言うと、嶺羽様が愛おしそうに微笑んで
私の背中と脚の裏に手を差し込んで、一気に持ち上げてきて。
ふわりと浮かんだ身体が不安定で、
思わず嶺羽様の首元に手を回して抱き着くと、
一度だけ・・・ギュッと強く抱きしめられた。


「箔晴が言うには、今日は『執』と言って、
婚姻と物作りには良いそうだ」
「ふふ。なら来年の春かしら。
きっと嶺羽様に似た子が産まれますね♡」


春は私たちが出会った季節。
今でもあの時の事は覚えている。


君を初めて見る折は千代も経ぬべし姫小松
御前の池なる亀岡に鶴こそ群れいて遊ぶめれ


嶺羽様を一目見て想いが溢れてきて。
いつの間にか口ずさんでいた。
観てもらえることが嬉しくて、身体は勝手に舞っていた。
きっと春が来るたびに。
桜を見るたびに、あの時の事を思い出すはず。


嶺羽様の寝所に移動する間、
緑に生い茂った庭の木。
それに夏の夜空を見上げていた。
眩く光る星たちの傍にある、鈍く光る星。
その星が何故か怖くて・・・、
気づけば自分から嶺羽様に強く強く抱き着いていた。




~つづく~

 

 

 

 

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前世組は結果ありきで書いているので、
この続きは書きたくない、というか、筆がのらない、というか、、、

結果ありきです;つД`)

二次創作とはいえ、根本から話を変えちゃうのはさすがに嫌なので

もうすぐあれです、、、

 

そんな次の話は、12/9(土) am7時です!

 

 


 

 

 

この邸に来て三か月。
加賀や叔父の元では学べなかったような勉学が、
嶺羽様の邸では自由に出来る事が嬉しくて。
最初は戸惑っていたけれど、
今ではすっかりお世話になっているし、
何より・・・。
学ぶことによって嶺羽様や周りの方たちに
認めてもらえることが幸せで。


それに白拍子としての目標も目の前にいるのだから、
私は今、とても恵まれた場所にいるのね。


「・・・なんじゃ、妾の顔に何かついておるか?」
「うぅん。祇夕には感謝してもしきれないな、と思って」
「?? 妾に、か? 嶺羽様にではなくて?」
「だって、邸に招いてくれたのは祇夕ですもの」


叔父に勧められるままにこの邸に来たけれど、
舞う事も叶わず門前払いになった私を、
祇夕が取りなしてくれたから。
だから私は今ここに居られるんだもの。


そう言えば、祇夕がクスクスと笑いながら、
嶺羽様からいただいた扇子をはらり...と開いた。


「妾は舞う場所を与えただけじゃ。そこで見事に舞いを披露し、
嶺羽様の目にとまったのはそなたの実力なのだから」


もっと自信を持つんじゃ!
そう言いながら、私の腕を引っ張って扇子で隣の部屋を指差した。
一緒に舞おう、かしら?
最近、祇夕は一緒に舞ってくれなかったから嬉しい!
顔を綻ばせると、反対に祇夕は苦笑顔。


「・・・すまぬ。そなたが舞う姿を見せてくれぬか?」
「?? 良い、けど。一緒に舞ってはくれないの?」
「気が向いたら、な・・・」


落ち込んでいるのかしら・・・?
それとも悩んでいる?
祇夕の笑顔が日ごとに無くなっていく気がする。


元気を出してほしい。
私の舞いで良いのなら、いくらでも舞うから。


・・・だけど祇夕の顔は中々、晴れなくて。
嶺羽様からいただいた扇子を握りしめながら、
泣きそうな顔で私の舞いをずっと見つめていた。




 -




「祇夕の様子がおかしい・・・?」
「何か悩みがあるのかと思って聞いたのですけれど、
『自分自身の問題じゃ』とだけ。
嶺羽様は何か知っております?」


参内用の直衣を綺麗に畳みながら聞くと、
着替え終わった嶺羽様も、うーんと唸りながら考え込んでいて。
嶺羽様も知らないのなら、箔晴に聞いても分からないかしら・・・。


「私が参内するようになってから、
祇夕と共に過ごしているのは未桜の方であるし・・・」
「そう、ですよね・・・。私の方、、、が? あ」


私以外にも最近、よく祇夕を訪ねてくる人がいます!
思い出してそう言えば、嶺羽様が眉を顰めて、「誰だ」と低い低い声。
・・・どうして一気に不機嫌そうになったんです?


「忠真ですけど・・・。よく祇夕を訪ねてきてますよ?」


そう素直に答えると、
驚いたように「忠真が?」と聞いてきたのは傍に控えていた箔晴。
箔晴と忠真は知己の仲なはずなのに、箔晴も知らなかったの?
首を傾げると、嶺羽様と箔晴が顔を見合わせて、
・・・お互いに微妙な顔。


「確かに忠真の好みではあるとは思いますが、何故、今になって・・・」
「祇夕を介して、未桜に・・・、ではないのだな?」
「嶺羽様が怒ることを知っていて、未桜に手を出そうと思う殿方は
この京で、もはや居ないのではないでしょうか」


嶺羽様と恋仲なのは邸中に知れ渡っているけれど、
まさか京の都まで噂が・・・?
身分違いの事で、嶺羽様に迷惑をかけていないかしら・・・。


心配になって嶺羽様を見れば、
私を安心させるように微笑みながら手招きをしてきた。
だから、おずおずと近寄ると
いきなり腕を引っ張られて、嶺羽様の胸の中へ。


「私が留守中、くれぐれも気を付けるのだぞ?」
「大丈夫です! 段差がある所は特に気を付けていますし、
最近は裾を踏んで転んだりしてません!」
「・・・・・・それも心配なのだが、私が言いたいのは」


嶺羽様が言いたいのは?
言いにくそうに苦笑する嶺羽様を見て、
今度は箔晴がクスクスと笑った。
そして静かに立ちあがりながら、退出するのか妻戸の方へ。


「嶺羽様は、誰かに手引きをされて
未桜が夜這いをされないか心配なんですよ。
だけどそれは、この邸に仕える者を疑う事」


なので嶺羽様も言いだせなかったのでしょう。
そう箔晴が言うと、嶺羽様が小さな声で、「すまぬ・・・」って。
なるほど。
お目当ての姫君に近づくためには、まずは女房を買収。
そうして姫君の元へ手引きを・・・、が当たり前ですものね。


だけど嶺羽様も心配性だわ。
私は姫君ではないし、祇夕はもちろん、この邸に住む人達は
みんな嶺羽様を慕っているのだから、そんな事をしたりしないもの。


箔晴も同じ気持ちなのか、心配性の嶺羽様をからかうように笑いながら、
出ていく前に最後の忠告。


「まぁ中には、誰も介さずに邸に不法侵入してくる者もいますしね。
未桜も気を付けるのですよ?」
「わかりました。気を付けます」
「嶺羽様も気を付けるのですよー? 薬を盛られて起きたら裸の姫君が隣に、
という既成事実を作ら「今日もご苦労だったな! さっさと下がれっ」


・・・なるほど。
意中の殿方を射止めたい場合は、そうするのですね・・・。
幼い頃から飲み続けていたせいか、薬には耐性があるらしいけれど、
それでももし・・・。


心配の眼差しで見上げれば、閉まる妻戸を睨んでいた嶺羽様も
ようやくこちらを見て、いつものように目を細めて微笑んでくれた。
抱きしめる腕に力をこめられると、ますます密着する身体。


「・・・本当にそなた宛てに文や贈り物は来てないのだな?」
「ふふ。来ておりませんし、文も贈り物も全て嶺羽様が下さるので・・・」


他の殿方からは必要ありません。
そう呟いた唇の上にそっと重ねられた唇。


嶺羽様の庇護の元、私はとても恵まれた生活をしているんですもの。
貴族の理不尽な暴力や言動に怯えることもない。
衣食住にも問題がないどころか、加賀に居た頃よりもずっと豊かで。
それに医学の勉強も、白拍子としての勉強も自由に学ぶことが出来る。
それだけでもありがたいのに、
好きな方も私が好きでいてくれて、傍にいられるから。


これ以上ないくらいの幸せを与えてくれたのは、嶺羽様。
そして、キッカケを与えてくれたのは、祇夕。


「・・・祇夕にも幸せになってもらいたいです」
「そうだな。相手が忠真なのは・・・、微妙であるが」


嶺羽様の傍に控えている時に何度か見かけた事はあったけれど、
本家の・・・、嶺羽様の弟君の話をする時は
笑っていても目元が笑っていなくて。
ゾクリ...とするくらい冷たい眼差しをしていたのをよく覚えている。
箔晴と共に居る時も、楽しそうだけれど本性は見えない感じだし。
何より、祇夕に何度も何度も怒られて追いだされても
翌日には飄々として会いにくるから・・・。


「もしかして忠真がしつこいから、祇夕が悩んでいるんでしょうか?」
「・・・・・・今度、時雨と忠真に会ってくる」
「よろしくお願いします!!」


例えお節介だとしても、
祇夕は私にとっても嶺羽様にとっても大切な存在だもの!
本気かどうかも分からない人に祇夕は渡せない!!
握りこぶしを作って意気込んでいると、
嶺羽様がその拳を包み込むように握ってきて。


「それにしても未桜は、私以上に祇夕のことを好いておらぬか」
「姉のようで母のようで友人で・・・、あと白拍子のお師匠様ですし♡
祇夕はある意味、恩人ですし大好きです♡」
「・・・・・・わたしのことは?」
「愛しております♡」


ならば良いが・・・。
そう言いながらも、何だか納得してない様子の嶺羽様。
その様子がおかしくて、クスクスと笑いながら
嶺羽様の胸の中に再び身を沈めた。
視線だけで上を向くと、着物越しに伝わってくる早鐘の鼓動の音。


「・・・嶺羽様にも教えてもらいたいことがあるんですけど、
教えてくださいますか?」
「祇夕ではなく、私にか?」
「祇夕も他の誰かでも駄目なんです。
嶺羽様に教えてもらいたいのです」


嶺羽様と恋仲になって三か月。
未だに上手に出来ないんですもの。


「上手な口づけの仕方を教えてください」


そう言えば、嶺羽様が虚を衝かれたような顔になった後、
すぐに納得したように、ははっと笑いだした。


「未桜は息継ぎをしないから、いつも酸欠で最後は叩いてくるからな」
「うぅぅ。どこで息継ぎをしろと言うのですぅ。
口が離れた瞬間に思いっきり吸い込めば良いのですか?」
「いや、だから口ではなく鼻でするのだ。息を止めるでないぞ」


両頬を包み込んできた掌。
傾きながら近づいてくる顔。
何度も何度も重なってくる唇。


唇が離れても、すぐに角度を変えて重なってくるから
やっぱり口から息継ぎはできなくて。
熱くなった吐息も、鼻にかかったような声も洩れだす一方。
苦しくて苦しくて。
でも止めてほしくなくて。
私も応えようと頑張ってはみるけれど、
・・・やっぱり上手くできなくて。


静かな部屋に響くリップ音。
口づけに夢中になっていた私達は、
格子の向こうの人影に気が付かなかった・・・。




 -




二人が恋仲だとは頭では理解していた。
そもそも未桜を嶺羽様に勧めたのは妾。
ご自分の身体の弱さを理由に、色々と諦めておったから。
せめて愛する人が出来れば。
子が出来れば、生きる希望にもなるであろう、と考えていた。


だけど、実際に二人が愛し合う姿をこの目で見てしまえば、
目の前が真っ暗になっていく。


私に向けたことのないような笑顔。
未桜よりもずっとずっと傍にいたのは私なのに。
どうして・・・。どうして、私には・・・。


「・・・祇夕?」


声がした方を振り向けば、庭先から駆けてくる忠真。
勝手に邸内に侵入してくるでない!
いつもならそう怒鳴るのに、今、頭を過ったのは別のこと。


「・・・そなた、妾の事が好きとか申しておったな」
「なんだ。ようやく俺の求婚を受け入れる気になったか?」


この男、本当に妾のことが好きなのか?
時雨殿の命令で、妾を足掛かりにして嶺羽様を陥れ、
未桜を手に入れたいだけではないのか?


勘ぐるように忠真を見つめていると、
履物を脱ぎ捨てて勾欄の上までヒョイっと上ってきおった。
そして無遠慮に妾の髪に触れてくる。


「俺を嶺羽殿だと思っても構わない。祇夕の望み通りに慰めてやるから」
「・・・・・・妾は身代わりで満足するような女ではない」


どれだけ想っても、嶺羽様は貴族。
妾も未桜も白拍子。
身分違いの恋など、苦しいだけ。
ならば・・・。


「忠真として愛してみせるのであれば、相手くらいはしてやる」
「祇夕の強がりは嫌いじゃないぜ」


妾とは違う香りが包み込む。
いつの間にか抱きしめられ、殿方の腕の強さにおののいたが、
・・・そのまま、されるがままでいた。


他の誰かに愛されれば・・・、
他の誰かを愛することができれば、
こんな黒い感情から逃げ出せることができるのであろうか・・・。


持て余した黒い感情が、頬を流れ続ける。
そんな妾を、忠真は黙って抱きしめ続けてくれていた・・・。




~つづく~

 

 

 

 

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未桜のモデルの仏御前の出身地は小松市。石川県です(*^^*)

仏御前像安置所もあるのですが個人宅らしいので
事前に予約しなきゃ行けないらしいんですけどね(;'∀')
いつか行ってみたいです!

そして段々と前世組の雲行きが…

 

8話は12/2(土)am7時に更新です!