9.あのキスを忘れない | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

妄想とねつ造の二次創作サイトです( ´ー`人´ー` )

 

 

綺麗に染まった紅葉が、庭を赤色に染め尽くす秋。

その朱色が血のように見えてしまって、

思わず口から出ていた言葉。


「ごめんなさい・・・」


あの時、泣いて泣いて泣いて・・・。

涙は枯れ果てて、これ以上は出てこないかも・・・。

そう思っていたのに、やっぱり今でも目に溜まる涙。


来年の春も一緒に桜が見れると思っていたのに・・・。

満開の桜も、梅雨の長雨も、夏の暑さも、

あなたと過ごした一時は、とても穏やかで。


京の紅葉は見事だから、一緒に見に行こうと。

冬には雪が降るだろうから、一緒に雪遊びをしてみたい、と。

そして春には、庭の梅の木が咲き誇るだろうから。

梅が終われば、また桜の季節。

未桜と一緒に見たい、と。


その頃には家族が増えていたら良いな。

そう微笑んでいたあの夜に交わした口づけが

嶺羽様との最後の口づけになってしまうなんて思ってもみなかった。


あなたの声も、匂いも、抱きしめてくれる腕の強さも、

・・・たくさんの言葉と想いも、こんなにも覚えているのが

今は苦しくて、切なくて。


幸せな思い出と交互に訪れるのは、悲しい記憶。


箔晴の死を知らせられた時のこと。

嶺羽様の最期。

・・・そして、妖になった祇夕を私の舞いで苦しめて封印した時のこと。


今でも三人に対して申し訳ない気持ちがいっぱいで、

どれだけ謝っても足りないくらい。


私があの邸に行かなければ。

嶺羽様と出会わなければ。愛し合わなければ・・・。

嶺羽様も祇夕も箔晴も関係を壊さずいられたのに。


「ごめんなさい・・・」


秋の風が吹き抜けていく度に、

肩口で切りそろえた髪の毛を揺らしていて。

頬を撫でる風と髪の毛を手で抑えながら空を見上げると、

目に溜まっていた涙が頬を濡らしていく。


本当は今すぐにでも嶺羽様の元へと行きたいのに、

自害は仏の道に外れてしまうから、それも出来なくて。

・・・それに、理由はもう一つ。


出家して尼になったのに、毎日後悔して泣いてばかりで駄目ね。

祇夕ならきっと、「泣く暇があったら、念仏の一つでも唱えるんじゃ!」って怒るわね。

箔晴はどうなのかしら。仏教ではなく神道の道も薦めてくるかしら。

嶺羽様なら・・・。


まだ平べったいお腹を撫でながら空を見上げていると、

背後からおずおずとかけられた声。

振り向くと、尼装束に包まれた二人の女性が不安そうな顔で立っていて。


「未桜様、本当に行かれてしまうのですか・・・?」

「妓女様・・・。それに刀自様までそのようなお顔をされて・・・。

私なら大丈夫なので心配しないでください!」


祇夕の妹の妓女様は、祇夕とは別の華やかさがあって、とっても美人で。

妖になってしまった祇夕を弔いたいという理由だけで、出家してしまうんだもの。

それに祇夕の母君の刀自様まで一緒に出家をして・・・。


私が祇夕にしたことを知った上で、私のことまで気にかけて下さる二人だから、

これ以上、迷惑はかけたくないのに。

それなのに、やっぱり最後まで迷惑をかけてしまうのかしら・・・。


「心配しますよ。身重の体で故郷に帰るだなんて普通は心配しますよ?」

「でも尼寺で出産するわけにはいきませんし・・・」

「出家した後に身籠っていることが分かったんですから、

これも仏様のお導きだと思って、ここで出産されてはいかがですか?」


故郷に帰られても、ご家族もおられないのでしょう?

そう言われて、曖昧に笑うしかできなくて。


お父様もお母様も亡くしたから・・・。

だから京にいる叔父様の白河兵内の元へ身を寄せて、白拍子になって、、、。


確かに故郷には家族もいないし、

叔父様も戦に赴いている今、そちらに頼ることもできないし。

・・・何より、嶺羽様のお子を身籠っていると分かったら、

叔父様はこの子を私から奪ってしまいそうで。


この子がいるから、生きる希望を持てた。

あの時、思い余って自害をしなくて良かった、って思えた。


ねぇ嶺羽様。

自分が居なくなってもこの子がいるのだから泣くな。

私の分まで護ってやってくれ。そして、・・・護ってもらってくれ。

そう言っているように私は思えるんですよ・・・?


「・・・京の都にいれば、この子は色々な争いに巻き込まれてしまう気がするんです」

「そう、でしょうけれど、、、山奥にある尼寺ですし、人の目も届かないでしょうし、、、」

「でも尼寺で出産はさすがに憚れますし・・・。

この子を産んで、落ち着いた頃に、また顔を出しに来ますから」


それに私のせいで今度は妓女様や刀自様まで巻きこんでしまっては、

それこそ祇夕に顔向けできません!!

そう真剣に言えば、二人とも苦笑しながら私の手を握ってきて。

その温もりがとても優しくて、また泣いてしまいそう・・・。


「未桜様がご不在の間、この庵と祇夕お姉さまの墓石は私たちが守りますから」

「未桜様にご加護があらんことをお祈りしております」


この子は春頃に産まれるだろうから、

この子と共に訪れるのは、・・・二年後くらい?


「きっと、、、きっと、この子と一緒に逢いにきます」


最後に握られた手をギュッと握り返して、踵を返した。


綺麗に染まった紅葉。

竹林の間にある道をゆっくりと歩くと、開けた場所にある人影。

まるで私が今日、ここを通ることを知っていたみたい・・・。

大きな岩に腰かけながら、私に向かって手をヒラヒラと振っていて。


「・・・忠真。祇夕の墓参り?」

「・・・・・・・・・。故郷に帰るのか?」


質問を質問で返されても・・・。

えぇ、と頷くと、忠真は腰を上げて私の隣に。


相変わらず感情の読めない顔。

飄々とした顔を見せていたのは祇夕の前だけ。


「・・・祇夕が嶺羽様をお慕いしていたのは知っていたの?」

「あぁ。隠して、強がって、嫉んで、、、そうやって溜めこんで苦しんで。

そんな醜い自分が嫌で、最後には自暴自棄になっていた・・・。

だから俺が正直になれるように協力してやったが、      くそっ。後味悪ぃな」


何を協力したのかしら・・・?

でも、もしあの時、忠真が傍にいれば・・・。

箔晴と共に祇夕のことを鎮めてくれていれば、

もしかしたら箔晴も嶺羽様も、そして祇夕も・・・。


そう考えてしまう自分が嫌になる。

今更、取り返しなんてつかないのに。


「・・・それにしても、髪をばっさりと切ったものだな。白拍子は廃業したのか?」

「嶺羽様以外の方にお仕えするつもりもないから・・・」

「でも還俗するんだろ? あの尼寺を出てきた、ってことは」


どこまで見透かしているの?

じっと忠真を見るけれど、相変わらず考えが読めなくて。

むぅと口を噤むと、私に差し出してきた護符。

なにかしら・・・?


「お前を探している人がいるから、都の中は通らずに行けよ。

見つかったら、        そうだな。腹の子はまず取りあげられるだろうな」

「・・・・・・どうして忠真が・・・」

「気まぐれだ。あと女の一人旅だし、気休めだろうが護符も持っていけ」


この人が気まぐれなんて無いと思うけど・・・。

だけど理由を聞いても絶対に教えてくれないと思うから。


護符を受け取って懐にしまうと、忠真がほっと安堵した気がして・・・。

まるで私を通じて罪滅ぼしをしているみたい。

・・・でもよく分からない。

祇夕も箔晴も忠真にとっては大切な人だったはずなのに。

本当なら全ての元凶の私を憎いと思うはずではないの?


そんな私の考えを見透かしたみたいに、忠真はもう一度「気まぐれだ」と繰り返して、

都の方角へと足を向けた。


箔晴と同じように、この人も術者。

星の位置で、未来に起こることも分かっていたのかしら・・・。


去っていく背中を見送りながら、私の口から出た言葉。


「ごめんなさい・・・」


あの日から、何度この言葉を言ったのかしら・・・。


16年間生きてきた中で、一番だと言い切れるくらいに幸せだった。

初めて好きになった人に、好きだと言えて。

たくさんの優しさと愛しさを与えられて。


与えてもらう一方で、私からは何も渡せなくて。


もう一度・・・。

もう一度だけでもお逢いすることが叶うのであれば、

嶺羽様にお聞きしてみたい。


嶺羽様も幸せでしたか・・・?





 -





       ・・・おう。未桜! このような所で寝ると風邪をひくぞ」


・・・嶺羽様?

脇息に寄りかかりながら眠っていた私の身体を揺すり動かしていたのは、

やっぱりこの部屋の主の嶺羽様で。


・・・?? 

違和感を感じるのは、私がまだ寝ぼけているせい?


「未桜、どうし           っ!?」


違和感も不安も何もかも吹き飛ばすように

冠と装束姿のままの嶺羽様の胸の中へ飛び込むと、

私の身体と共に傾いていく身体。


「・・・私は衾ではないぞ?」

「ご出仕、お疲れ様でございました。ただいま直衣をお持ち致ししますので、

ごゆるりとお休みくださいませ」

「棒読みではないか。どうしたのだ? 寂しかったのか・・・?」


頬を包んでくる掌が顔を持ち上げてくるから、

逆らわずに顔を上げると、

        嶺羽様が私の顔を見た途端にクスクスと笑いだして。


どうして笑うんですか。

口を尖らせて見せると、その唇に軽く触れてきた唇。

呆気にとられていると、後頭部と腰に置かれた掌が強く抱きしめてきて、

クルンと体勢が入れ替わっていて。


身体の下に感じる床。

嶺羽様の肩越しに見える天井。

目をパチクリとさせると、今度は隙間がない位に重ねられた唇。


「ん・・・っ、んん・・・、はっ、んんっ! んーっ」


前に上手な口づけの仕方を手解きしてもらったけど、今でも上手にできなくて。

息が続かなくて、苦しくて。

嶺羽様の装束を力いっぱい握ると、それに気づいてくれたのか

ようやく離れてくれた唇。


だけど袴の結び目を解く音。

装束同士が擦れあう音が耳に届いて、

下を見ようとするとまた重なってきた唇。


口づけの合間も動く掌が、どんどん熱を持ち出して、

私の身体も同じ体温の高さまで上げようとしていて。

肌同士が重なると安心するのに、

同時に緊張して、鼓動が早くなるのはいつまで経っても同じ。


「・・・未桜が一番、私を必要としてくれているのかもしれぬな」

「御所で・・・、お仕事で何か嫌なことでもありましたか?」

「その仕事をしたくても、させてもらえないのだ」


今まで床に伏していた期間が長く、出仕が出来なかったのだから

仕方がないと言えば仕方がないのだが・・・。

そう言いながら、堅苦しい装束と冠の紐を解いて、公から私の姿へと戻っていく。


確かに出会ったばかりの頃は、よく体調を崩しておられたけれど、

最近は邸におられる方が少ない気がするほど、出仕ばかりで。

おかげで嶺羽様に会えたのも幾日ぶり。


今まで溜まっていた仕事を片付けるのが忙しいのね。

そう思って、嶺羽様が居ない寂しさを我慢していたのに、、、。


「・・・では御所に何しに行かれているのですか?」

「異母兄弟の世話と、上の者たちの話し相手と、そなたの為の根回しと、

・・・本当に何しに出仕しているのだろうな」

「異母兄弟と言いますと、時雨様ですか・・・?」


何度か姿を拝見したことがあるけれど、忠真同様によく分からなくて。

顔は笑っていても、表面だけ。

ある意味、嶺羽様よりも貴族らしいけれど、私は少し苦手で・・・。


時雨様も人に世話をされるのは嫌う方だと思っていたのに、

兄君の嶺羽様の前では違う一面を持っているのかしら?


首を傾げると、嶺羽様は首を横に振って、苦笑顔。


「未桜は知らぬのだな。病弱で寝てばかりの私が、どうして貴族でいられたと思う?」

「それはお父君の官位が高いからなのでは・・・?」


貴族の息子は、元服すると御所に上がれる殿上人の官位を頂けるらしいから。

嶺羽様のお父君は、確か大臣様よね?


「表向きはそうだが・・・、私の本当の父上は上皇だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


上皇って、、、譲位により皇位を後継者に譲った元・帝様のことで。

その方が父上なら、嶺羽様は         皇族?

皇族・・・。

尊い血筋の方だから、と祇夕には教えられていたけれど、、、え? えぇっ!?


何て言えば良いのか分からなくて。

口をパクパクとさせていると、嶺羽様はクスクスと笑いながら

私の首筋に顔を埋めてきて。


「上皇が寵愛している女御の妹が私の母なのだが、身籠ってしまってな。

さすがに入内もさせられないし、困った上皇が臣下に嫁がせたのだ」


お腹にいる私ごと下げ渡されたのが、今の父君だ。

そうなんて事ない風に言われても、私にとっては衝撃の事実で。


嶺羽様が喋る度に、舐められた首筋がくすぐったいけど、

驚きすぎていつものような反応が出来ずにいると、下肢に触れてきた指先。

ビクンっと身体を揺らすと、ようやく満足する反応だったのか、

鎖骨にあった唇が笑みを作った気がして。


~っ、とっても大切な話なはずなのに。

だけど嶺羽様にとっては、どうでも良いのかしら・・・?


「本当の父君は表だっては名乗れないからな。

だから罪滅ぼしのつもりか、父君や私に官位だけは与えてくれたのだ」

「・・・・・・・・・えっと、もしお母君が入内していたら、嶺羽様は皇子様として、、、」

「血筋だけで言えばそうだろうが、皇位継承権には巻きこまれないから安心して良いぞ」


確かに嶺羽様は表立っては大臣様の息子だから、

皇位継承権には巻きこまれないだろうけれど。

だけど、この話は周知の事実みたいだし!?

他の貴族の方たちも知っているのならば、嶺羽様を・・・、と担ぎ出されたら、、、。


肌越しに伝わってくる鼓動の音。

その鼓動を、身体を巡っている血は、予想以上に尊くて。


「安心できませーんっ!!」

「それもそうだな。もし姫が産まれようものなら、そなたの身分はどうであれ、

入内だ何だと言われそうだな。あぁ、、、斎宮にも選ばれる可能性があるのか、、、」

「えぇっ!?」

「未桜には巫女としての力が備わっているから、斎宮の可能性の方が高いのか・・・?」

「さ、斎宮さまっ!? なななななな、何でそんな・・・っ!?」


卜定で選ばれてしまいそうだな・・・。

そうごちる嶺羽様は、私をじーっと見つめてきて。


「最初は男児を頼むぞ」


そう言われても、性別は神の領域ですし!?

だけど私の叫び声は嶺羽様の口の中に消えていって・・・。


喘ぐしかできない私の舌を絡めとって、甘噛みして。

深く重なる唇の隙間から洩れだす声。


思考も身体もとろとろに溶けてしまいそう。


激しい口づけも、

啄むような口づけも、

優しく触れるだけの口づけも、

全て刻み込むようにこの身に受けて、わななく身体。


未桜も、・・・もし授かることができるのならば、私たちの子も、

私の事情に巻き込むことになるかもしれないが、

それでも傍にいてほしい。


そう呟いた唇が、頬に柔らかな感触を残して・・・


 


             さま。たたさま、ちゅー」


・・・美羽?

小さな小さな掌で私の頬をペチペチと叩きながら、

涎たっぷりの唇で私の頬に口づけをしていて。


「ふふ、どうしたの? 起きたら母様も眠っていたから寂しかったの?」


小さな体を抱き寄せると、猫のようにすり寄ってきて。

嶺羽様と同じ黒の髪の毛。

目元もそっくりで、この子を見るたびに嶺羽様を思い出せるのが嬉しい。


桜が満開の頃に産まれた美羽。

もうすぐ、またその季節が巡ってくる。


満開の桜も、梅雨の長雨も、夏の暑さも、

今年からは嶺羽様の代わりに美羽と見ていくのね。


京の紅葉は見事だから、一緒に見に行こうと。

冬には雪が降るだろうから、一緒に雪遊びをしてみたい、と。

そして春には、庭の梅の木が咲き誇るだろうから。

梅が終われば、また桜の季節。

未桜と一緒に見たい、と。


その願いは嶺羽様とは叶わなかったけれど、

美羽とは叶うから。


「・・・美羽。そろそろ母様の大切な人達に逢いにいきましょうか?」


あっという間に寝息を立てて眠ってしまった美羽の額に、

一度だけ口づけをした           





~つづく~

 

 

 

 

*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 

 

 

 

ほぼねつ造ですが、
一応は仏御前と平清盛をモデルに話は作ってあります(`・ω・´)
仏御前も本当に清盛の子供を産んだんですよね。
本当は男児でございました(´・ω・`)
そっちまでモデルにしちゃうと、美羽ちゃんと子孫の桜咲家の存在が危ういので、
そこは参考にしませんでしたが!w

 

ラスト1話です! 次は12/16(土) am7時です!

ちなみに内容がちょっとあれなので、アメ記事にしてあります。

この話もアメ記事にしようか迷ってはいるんですけど、、、

削除されたらゴメンナサイ(*ノωノ)