8.君に触れたがる手 | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

妄想とねつ造の二次創作サイトです( ´ー`人´ー` )

 

 

『あなめでたの祇夕御前の幸いや、
同じ遊女とならば、
誰も皆あの様でこそありたけれ』


誰もが羨むような名声を手に入れていたのに、
自分が招き入れた女に全てを奪われた。
・・・愛おしい男まで。
憐れで哀しい女だ。


そんな彼女を手に入れたいと思ったのはいつからだろう。
誰よりも気高く、美しい祇夕御前は高嶺の花。
だけど、こっちに振り向かせたくて。
嶺羽殿や箔晴に向ける笑顔を見せてほしくて。
その綺麗な花に触れたくて・・・。


滝のように緩やかに流れる黒髪を梳くいながら、
茵に横たわる白い身体を撫でると、
その手を容赦なく叩いてくる手。


「なんじゃ・・・。まだ帰っておらぬのか」
「冷たいな。俺はお気に召さなかったか?」
「ぬかせ。夜が明ける前までには帰るんじゃぞ」


俺に背を向け続ける背中。
恥ずかしくて俺の顔が見れないのか、
・・・後悔しているのか。どっちだ。


「明日も来ていいか?」
「・・・そなたも暇人じゃな。
一夜とて妾を手に入れたのだから満足したであろう?
二度とこの邸には来るな」


・・・後者か。


「俺との関係が嶺羽殿に知られるのが嫌なのか?
それとも・・・、自分の為に俺を利用したとか思っているのか?」


ビクッと揺れる、むきだしの肩。
そんな様子を見て思わず笑みを浮かべると、
俺が笑っていることが雰囲気で分かったのか、、、
ようやく怒り顔の祇夕がこっちを向いた。
だけど俺の顔を見ると、すぐに顔が泣きそうになる。


「・・・すまぬ。妾はそなたに恋情は抱いておらぬ」
「別にいい。祇夕の寂しさの隙間は、俺は埋めてやれたか?」
「・・・・・・・・・どうであろうな」


また朝になって、未桜と嶺羽様の姿を見たら、きっとまた・・・。
そう呟いた祇夕を抱きしめると、
今度は抵抗なく胸の中におさまった身体。


「寂しいのなら・・・、苦しいのなら、忘れさせてやるから」
「・・・未桜に嫉妬するような醜い妾でも、まだ好きか?」
「俺は未桜よりも祇夕の方が好きだ」


それに醜いと言うのならば、それはきっと俺の方だから。
もっと・・・。もっと醜い俺の場所まで堕ちてこい。


その言葉は外には出たのか・・・。
交わした口づけを合図に、また二人で茵の上に倒れると、
祇夕が縋るように抱きついてきた・・・。




 -




庭先から聞こえてくる主たちの声。
いつかは来るとは思っていたが、案外早かったな。


『・・・嶺羽。お前が取らぬのなら、
私がかわりに天下を取ってみせよう』


そんな言葉が聞こえてきた瞬間、
目の前に座って控えている箔晴が微妙な顔。


「時雨殿は相変わらずですね。野望をお持ちなのは良いが、
どうか一族を巻きこまないでくださいよ?」
「時雨様や嶺羽殿の一族のことか? それとも賀茂家の一族のことか?」
「両方ですよ。ついでに言うと、兄弟で争ってほしくないですし、
私も忠真と争いたくありません」


それは俺も同じ気持ちだが・・・。
俺の主の時雨様は、奪う事でしか満たされない。
力でねじ伏せることで安心するタイプだから。


主の言う事は絶対。
例えそれが間違ったことだと分かっていても、
命令されれば、やるしかない。


腕を組みながら、外の様子を見つめていると
夜空の星たちが瞬きだす。
星の位置が少しずつだが、動きだしている。


「・・・あの凶星に呑み込まれるのは誰なのでしょうね」
「誰だろうな・・・。何かが起きるのは秋、か・・・」


陰陽師って嫌なもんだな。
星の位置で、未来が読めてしまう。
どれだけ抗っても、きっと最後は・・・。


「・・・死ぬなよ」
「私に勝てる術者は忠真くらいですよ」


穏やかに微笑みながら緋色の扇子を広げる様子は
どう見ても全てを悟っていて。
あぁ・・・。本当に嫌になるな。
俺もお前も、祇夕も未桜も、・・・そして嶺羽殿も時雨様も
みんなが笑顔になれる未来は待っていない。
だからせめて来世では・・・。


目を閉じれば、祇夕の泣き顔が思い浮かんだ。




 -




「本当の本当に忠真に無理強いされたわけではないのね?」
「しつこいぞ、未桜・・・。大体そなた、勘違いしておらぬか?
白拍子は遊女。それが仕事なれば、相手が好き嫌いの問題では・・・」
「でもっ! 忠真とは仕事ではないじゃない!」


目を逸らす祇夕に詰め寄ると
ようやく私の顔を見てくれたけれど。
だけど祇夕の顔はどこか悲し気で。


頭が冷えて、「ごめんなさい・・・」と謝ると、
苦笑した祇夕が私の頭を撫でてきた。
でもその手が微かに震えている気がするのは気のせい?


「・・・もし、もしもじゃぞ・・・。私が、、、いや、
他の白拍子が嶺羽様と共寝する事になったら、
そなたはどう思う?」


祇夕や他の白拍子が嶺羽様と・・・?


「それに、そなたとて白拍子。この先、
嶺羽様以外の貴族から召されることもあるであろう?」


私が嶺羽様以外の貴族と・・・。


そうね。
これから先、そんな状況はいくらでもあるかもしれない。
だけどきっと嶺羽様なら・・・。


「そんな状況になったとしても、きっと指一本触らないと思うわ。
女性だけ茵で寝かせて、ご自分は離れた場所で
夜通し勉強でもするのではないかしら?」
「・・・・・・・そうじゃな」
「私も嶺羽様以外に仕える気はないから、
召された場合は白拍子は廃業するつもりよ」
「・・・・・・・そう、、、じゃな」
「・・・ねぇ。どうしたの、祇夕?」


私の答えは、祇夕を傷つけた?
祇夕の顔がますます泣きそうに変わっていく。
手の震えは身体全体に広がって、今にも泣き崩れそう。
そんな祇夕に触れようと手を伸ばすと、
私の手が触れる前に攫われていく祇夕の身体。


「悪いな、未桜。祇夕は俺が借りていく」


いつの間に忠真が・・・。
呆然としていると、ニヤリと笑いながら
袖の中に隠した祇夕ごと立ち去っていく。


祇夕が今まで通り、嫌がる素振りを見せれば
何が何でも引き剥がそうと思っていたのに・・・。
いつの間に二人は恋仲になったの?


「失恋の痛みは、新しい恋で治ると良いのですが」
「・・・箔晴?」
「祇夕も水くさい。
通う男が居るのであれば教えてくれれば良いのに」
「・・・嶺羽様も、いつお戻りに?」


家族をとられた気分なのか、
嶺羽様は複雑そうに笑いながら私の隣へ。
箔晴は苦笑しながら、退出の礼をとっていて。


「では私は、ここで失礼つかまつります」
「あぁ、ご苦労であったな。ゆっくり休め」
「嶺羽様もご無理はなさらぬように」


その一言に、カァと赤く染まりだす嶺羽様のお顔。
そんな嶺羽様を見て満足したのか、
箔晴は楽しそうに笑いながら立ち去っていくし・・・。
あっちもこっちも分からない事ばかり。


「・・・私は未桜に関しては、存外と心が狭いらしい」
「そうなのですか・・・?」
「そなたを、、、時雨にも、誰にも渡したくないのだ」


時雨様?
今日会いに行かれた時に何か言われたのかしら?


覗き込むように嶺羽様を見ると、
切なそうに私を見る瞳とぶつかる。
だけど近づいてきた顔と、閉じられた瞳によって、
すぐにその瞳を見ることはできなくなったけれど。


外から帰ってきたせいなのか、
嶺羽様の唇はひんやりとしていて。
私の熱を分け与えるように唇を強く押しつけると、
角度を変えて深くなっていく。


思わず着物を握った手の上に重なってくる掌。
そして滑るように、
腕、肩、首元、耳、頬にと触れてきて。
唇の冷たさと対照的な掌の熱。


「・・・未桜。そなた、子は欲しくないか?」


子。子供。という事は赤ちゃん?
誰が? 誰の? 私と嶺羽様の・・・?
・・・・・・・・・。


「欲しいですっ! 嶺羽様に似た赤ちゃんが欲しいです!」
「いや、私は未桜に似た子が・・・」
「むぅ・・・。では両方、ですね♡」


頑張りますね♡
そう意気込んで言うと、嶺羽様が愛おしそうに微笑んで
私の背中と脚の裏に手を差し込んで、一気に持ち上げてきて。
ふわりと浮かんだ身体が不安定で、
思わず嶺羽様の首元に手を回して抱き着くと、
一度だけ・・・ギュッと強く抱きしめられた。


「箔晴が言うには、今日は『執』と言って、
婚姻と物作りには良いそうだ」
「ふふ。なら来年の春かしら。
きっと嶺羽様に似た子が産まれますね♡」


春は私たちが出会った季節。
今でもあの時の事は覚えている。


君を初めて見る折は千代も経ぬべし姫小松
御前の池なる亀岡に鶴こそ群れいて遊ぶめれ


嶺羽様を一目見て想いが溢れてきて。
いつの間にか口ずさんでいた。
観てもらえることが嬉しくて、身体は勝手に舞っていた。
きっと春が来るたびに。
桜を見るたびに、あの時の事を思い出すはず。


嶺羽様の寝所に移動する間、
緑に生い茂った庭の木。
それに夏の夜空を見上げていた。
眩く光る星たちの傍にある、鈍く光る星。
その星が何故か怖くて・・・、
気づけば自分から嶺羽様に強く強く抱き着いていた。




~つづく~

 

 

 

 

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前世組は結果ありきで書いているので、
この続きは書きたくない、というか、筆がのらない、というか、、、

結果ありきです;つД`)

二次創作とはいえ、根本から話を変えちゃうのはさすがに嫌なので

もうすぐあれです、、、

 

そんな次の話は、12/9(土) am7時です!