7.上手なキスの仕方を教えて | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

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この邸に来て三か月。
加賀や叔父の元では学べなかったような勉学が、
嶺羽様の邸では自由に出来る事が嬉しくて。
最初は戸惑っていたけれど、
今ではすっかりお世話になっているし、
何より・・・。
学ぶことによって嶺羽様や周りの方たちに
認めてもらえることが幸せで。


それに白拍子としての目標も目の前にいるのだから、
私は今、とても恵まれた場所にいるのね。


「・・・なんじゃ、妾の顔に何かついておるか?」
「うぅん。祇夕には感謝してもしきれないな、と思って」
「?? 妾に、か? 嶺羽様にではなくて?」
「だって、邸に招いてくれたのは祇夕ですもの」


叔父に勧められるままにこの邸に来たけれど、
舞う事も叶わず門前払いになった私を、
祇夕が取りなしてくれたから。
だから私は今ここに居られるんだもの。


そう言えば、祇夕がクスクスと笑いながら、
嶺羽様からいただいた扇子をはらり...と開いた。


「妾は舞う場所を与えただけじゃ。そこで見事に舞いを披露し、
嶺羽様の目にとまったのはそなたの実力なのだから」


もっと自信を持つんじゃ!
そう言いながら、私の腕を引っ張って扇子で隣の部屋を指差した。
一緒に舞おう、かしら?
最近、祇夕は一緒に舞ってくれなかったから嬉しい!
顔を綻ばせると、反対に祇夕は苦笑顔。


「・・・すまぬ。そなたが舞う姿を見せてくれぬか?」
「?? 良い、けど。一緒に舞ってはくれないの?」
「気が向いたら、な・・・」


落ち込んでいるのかしら・・・?
それとも悩んでいる?
祇夕の笑顔が日ごとに無くなっていく気がする。


元気を出してほしい。
私の舞いで良いのなら、いくらでも舞うから。


・・・だけど祇夕の顔は中々、晴れなくて。
嶺羽様からいただいた扇子を握りしめながら、
泣きそうな顔で私の舞いをずっと見つめていた。




 -




「祇夕の様子がおかしい・・・?」
「何か悩みがあるのかと思って聞いたのですけれど、
『自分自身の問題じゃ』とだけ。
嶺羽様は何か知っております?」


参内用の直衣を綺麗に畳みながら聞くと、
着替え終わった嶺羽様も、うーんと唸りながら考え込んでいて。
嶺羽様も知らないのなら、箔晴に聞いても分からないかしら・・・。


「私が参内するようになってから、
祇夕と共に過ごしているのは未桜の方であるし・・・」
「そう、ですよね・・・。私の方、、、が? あ」


私以外にも最近、よく祇夕を訪ねてくる人がいます!
思い出してそう言えば、嶺羽様が眉を顰めて、「誰だ」と低い低い声。
・・・どうして一気に不機嫌そうになったんです?


「忠真ですけど・・・。よく祇夕を訪ねてきてますよ?」


そう素直に答えると、
驚いたように「忠真が?」と聞いてきたのは傍に控えていた箔晴。
箔晴と忠真は知己の仲なはずなのに、箔晴も知らなかったの?
首を傾げると、嶺羽様と箔晴が顔を見合わせて、
・・・お互いに微妙な顔。


「確かに忠真の好みではあるとは思いますが、何故、今になって・・・」
「祇夕を介して、未桜に・・・、ではないのだな?」
「嶺羽様が怒ることを知っていて、未桜に手を出そうと思う殿方は
この京で、もはや居ないのではないでしょうか」


嶺羽様と恋仲なのは邸中に知れ渡っているけれど、
まさか京の都まで噂が・・・?
身分違いの事で、嶺羽様に迷惑をかけていないかしら・・・。


心配になって嶺羽様を見れば、
私を安心させるように微笑みながら手招きをしてきた。
だから、おずおずと近寄ると
いきなり腕を引っ張られて、嶺羽様の胸の中へ。


「私が留守中、くれぐれも気を付けるのだぞ?」
「大丈夫です! 段差がある所は特に気を付けていますし、
最近は裾を踏んで転んだりしてません!」
「・・・・・・それも心配なのだが、私が言いたいのは」


嶺羽様が言いたいのは?
言いにくそうに苦笑する嶺羽様を見て、
今度は箔晴がクスクスと笑った。
そして静かに立ちあがりながら、退出するのか妻戸の方へ。


「嶺羽様は、誰かに手引きをされて
未桜が夜這いをされないか心配なんですよ。
だけどそれは、この邸に仕える者を疑う事」


なので嶺羽様も言いだせなかったのでしょう。
そう箔晴が言うと、嶺羽様が小さな声で、「すまぬ・・・」って。
なるほど。
お目当ての姫君に近づくためには、まずは女房を買収。
そうして姫君の元へ手引きを・・・、が当たり前ですものね。


だけど嶺羽様も心配性だわ。
私は姫君ではないし、祇夕はもちろん、この邸に住む人達は
みんな嶺羽様を慕っているのだから、そんな事をしたりしないもの。


箔晴も同じ気持ちなのか、心配性の嶺羽様をからかうように笑いながら、
出ていく前に最後の忠告。


「まぁ中には、誰も介さずに邸に不法侵入してくる者もいますしね。
未桜も気を付けるのですよ?」
「わかりました。気を付けます」
「嶺羽様も気を付けるのですよー? 薬を盛られて起きたら裸の姫君が隣に、
という既成事実を作ら「今日もご苦労だったな! さっさと下がれっ」


・・・なるほど。
意中の殿方を射止めたい場合は、そうするのですね・・・。
幼い頃から飲み続けていたせいか、薬には耐性があるらしいけれど、
それでももし・・・。


心配の眼差しで見上げれば、閉まる妻戸を睨んでいた嶺羽様も
ようやくこちらを見て、いつものように目を細めて微笑んでくれた。
抱きしめる腕に力をこめられると、ますます密着する身体。


「・・・本当にそなた宛てに文や贈り物は来てないのだな?」
「ふふ。来ておりませんし、文も贈り物も全て嶺羽様が下さるので・・・」


他の殿方からは必要ありません。
そう呟いた唇の上にそっと重ねられた唇。


嶺羽様の庇護の元、私はとても恵まれた生活をしているんですもの。
貴族の理不尽な暴力や言動に怯えることもない。
衣食住にも問題がないどころか、加賀に居た頃よりもずっと豊かで。
それに医学の勉強も、白拍子としての勉強も自由に学ぶことが出来る。
それだけでもありがたいのに、
好きな方も私が好きでいてくれて、傍にいられるから。


これ以上ないくらいの幸せを与えてくれたのは、嶺羽様。
そして、キッカケを与えてくれたのは、祇夕。


「・・・祇夕にも幸せになってもらいたいです」
「そうだな。相手が忠真なのは・・・、微妙であるが」


嶺羽様の傍に控えている時に何度か見かけた事はあったけれど、
本家の・・・、嶺羽様の弟君の話をする時は
笑っていても目元が笑っていなくて。
ゾクリ...とするくらい冷たい眼差しをしていたのをよく覚えている。
箔晴と共に居る時も、楽しそうだけれど本性は見えない感じだし。
何より、祇夕に何度も何度も怒られて追いだされても
翌日には飄々として会いにくるから・・・。


「もしかして忠真がしつこいから、祇夕が悩んでいるんでしょうか?」
「・・・・・・今度、時雨と忠真に会ってくる」
「よろしくお願いします!!」


例えお節介だとしても、
祇夕は私にとっても嶺羽様にとっても大切な存在だもの!
本気かどうかも分からない人に祇夕は渡せない!!
握りこぶしを作って意気込んでいると、
嶺羽様がその拳を包み込むように握ってきて。


「それにしても未桜は、私以上に祇夕のことを好いておらぬか」
「姉のようで母のようで友人で・・・、あと白拍子のお師匠様ですし♡
祇夕はある意味、恩人ですし大好きです♡」
「・・・・・・わたしのことは?」
「愛しております♡」


ならば良いが・・・。
そう言いながらも、何だか納得してない様子の嶺羽様。
その様子がおかしくて、クスクスと笑いながら
嶺羽様の胸の中に再び身を沈めた。
視線だけで上を向くと、着物越しに伝わってくる早鐘の鼓動の音。


「・・・嶺羽様にも教えてもらいたいことがあるんですけど、
教えてくださいますか?」
「祇夕ではなく、私にか?」
「祇夕も他の誰かでも駄目なんです。
嶺羽様に教えてもらいたいのです」


嶺羽様と恋仲になって三か月。
未だに上手に出来ないんですもの。


「上手な口づけの仕方を教えてください」


そう言えば、嶺羽様が虚を衝かれたような顔になった後、
すぐに納得したように、ははっと笑いだした。


「未桜は息継ぎをしないから、いつも酸欠で最後は叩いてくるからな」
「うぅぅ。どこで息継ぎをしろと言うのですぅ。
口が離れた瞬間に思いっきり吸い込めば良いのですか?」
「いや、だから口ではなく鼻でするのだ。息を止めるでないぞ」


両頬を包み込んできた掌。
傾きながら近づいてくる顔。
何度も何度も重なってくる唇。


唇が離れても、すぐに角度を変えて重なってくるから
やっぱり口から息継ぎはできなくて。
熱くなった吐息も、鼻にかかったような声も洩れだす一方。
苦しくて苦しくて。
でも止めてほしくなくて。
私も応えようと頑張ってはみるけれど、
・・・やっぱり上手くできなくて。


静かな部屋に響くリップ音。
口づけに夢中になっていた私達は、
格子の向こうの人影に気が付かなかった・・・。




 -




二人が恋仲だとは頭では理解していた。
そもそも未桜を嶺羽様に勧めたのは妾。
ご自分の身体の弱さを理由に、色々と諦めておったから。
せめて愛する人が出来れば。
子が出来れば、生きる希望にもなるであろう、と考えていた。


だけど、実際に二人が愛し合う姿をこの目で見てしまえば、
目の前が真っ暗になっていく。


私に向けたことのないような笑顔。
未桜よりもずっとずっと傍にいたのは私なのに。
どうして・・・。どうして、私には・・・。


「・・・祇夕?」


声がした方を振り向けば、庭先から駆けてくる忠真。
勝手に邸内に侵入してくるでない!
いつもならそう怒鳴るのに、今、頭を過ったのは別のこと。


「・・・そなた、妾の事が好きとか申しておったな」
「なんだ。ようやく俺の求婚を受け入れる気になったか?」


この男、本当に妾のことが好きなのか?
時雨殿の命令で、妾を足掛かりにして嶺羽様を陥れ、
未桜を手に入れたいだけではないのか?


勘ぐるように忠真を見つめていると、
履物を脱ぎ捨てて勾欄の上までヒョイっと上ってきおった。
そして無遠慮に妾の髪に触れてくる。


「俺を嶺羽殿だと思っても構わない。祇夕の望み通りに慰めてやるから」
「・・・・・・妾は身代わりで満足するような女ではない」


どれだけ想っても、嶺羽様は貴族。
妾も未桜も白拍子。
身分違いの恋など、苦しいだけ。
ならば・・・。


「忠真として愛してみせるのであれば、相手くらいはしてやる」
「祇夕の強がりは嫌いじゃないぜ」


妾とは違う香りが包み込む。
いつの間にか抱きしめられ、殿方の腕の強さにおののいたが、
・・・そのまま、されるがままでいた。


他の誰かに愛されれば・・・、
他の誰かを愛することができれば、
こんな黒い感情から逃げ出せることができるのであろうか・・・。


持て余した黒い感情が、頬を流れ続ける。
そんな妾を、忠真は黙って抱きしめ続けてくれていた・・・。




~つづく~

 

 

 

 

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未桜のモデルの仏御前の出身地は小松市。石川県です(*^^*)

仏御前像安置所もあるのですが個人宅らしいので
事前に予約しなきゃ行けないらしいんですけどね(;'∀')
いつか行ってみたいです!

そして段々と前世組の雲行きが…

 

8話は12/2(土)am7時に更新です!