6.からかいのまなざし | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

妄想とねつ造の二次創作サイトです( ´ー`人´ー` )

 

 


「・・・嶺羽様、あなた実は堪え性がないですね」
「・・・・・・・未桜相手だと自制ができぬ」


責めるような箔晴の視線から目を逸らしつつ
未桜に分けてもらった薬湯に口を付けると、
薬湯の味とは思えないくらいに飲みやすくて。
白湯と共に飲み干すと、隣に控えていた箔晴がはーっと
これ見よがしに溜め息をついた。


「どこから入手した薬湯ですか、それ・・・。
毒が入っていたらどうするんですか・・・?」
「未桜もこの薬湯で元気になった、と申しておったし
いつもの薬湯よりも効く気がするぞ?」
「・・・未桜はどこに行きました?」
「この薬湯を煎じてくれた尼少女にお礼がてら会いに行く、と」


本当は傍にいてほしかったし、離したくなかった。
だけどその尼少女は旅をしている途中で、
いつ居なくなるか分からないから、と未桜が懇願するから。
仕方なく外出を許可したら、・・・まだ帰ってこぬ。


「・・・途中で迷子に「どんな心配しているんですか」


未桜も子供ではないのですから。
そう箔晴は言うが、大人でも迷子になることもあるだろう?
未桜の場合、邸内で迷子になっていたし・・・。
釣り上げられた蔀の向こうを心配しながら見つめていると、
視界を遮るようにして飛んでいった白い鳥のようなもの。
式神、か・・・?


隣を見れば、箔晴が緋色の扇子を広げ
同じく飛んでいった白い鳥の姿を見送っていた。
やはり箔晴の式神か。


「出かけたという事は、未桜の風邪は治ったのですよね?
どうして舞ってもらわなかったのですか・・・」
「・・・風邪は治ったが、今朝は足取りがおかしくてな」
「それなのに外出したのですか・・・。あぁ、いました」


確かに少女なのに尼のようですね。
そう言いながら、箔晴は虚ろな瞳をそっと閉じ、
段々と苦々しい顔で笑い始めた。


「八百比丘尼・・・。未桜の縁はどうなっているのやら・・・」
「八百比丘尼というと、地方の民話か?」


確か人魚の肉を食べたせいで、歳をとることも、死ぬことも・・・
永遠に叶わなくなった少女の話。
民話だと思っていたが、まさか本当の話だったのか?
箔晴を見ると、うーんと唸りながらパチンッと緋扇を閉じ、
重々しい腰を上げて立ちあがった。


「確かに足取りがおかしいですし、迎えに行って参ります」
「すまぬな。・・・でも未桜に余計なことを言うでないぞ」
「具体的に『余計なこと』がどんな事か教えて頂けます?」
「・・・・・・・・早く行け」


からかうような眼差しでふふっと笑いながら
御簾を潜り、南廂の間へと出てゆく。
ただ妻戸の前で、何かを思い出したように「あ」と言いながら立ち止まった。


「未桜とどれだけ愛し合っていただいても結構ですが、
祇夕や家人達の前では控えてくださいね?」
「・・・お前は私をなんだと」
「祇夕の立場も考えてやってくださいよ?
自ら招き入れた白拍子に主の寵愛を奪われたと噂されれば、
祇夕も未桜も可哀想でしょうに」


祇夕を寵愛した覚えがないが、都ではそう噂されておるのか・・・?
白拍子として舞いや今様、それにその人柄を気に入り、
この邸で世話をしている内に、逆に世話をされているが。。。
祇夕をそのような対象として見たことは一度もなくて。


周りがどう思おうが、箔晴も祇夕も主従関係というよりも、
友であり、本当の家族よりも家族のような存在。
未桜を迎え入れたことで、祇夕を傷つけたくはないのだが・・・。


どう返事をすれば良いのか迷っている内に、
箔晴が困ったように笑った。


「星の位置が変わると良いのですが・・・」
「星占術か。何か悪い兆しでも見えたか?」
「それが悪いことかどうかは、
私ではなく嶺羽様が決めることですので。ただ・・・」


ただ・・・?
箔晴がそこで一度区切り、表情をころりと変える。
食えない笑顔に。。。


「今はどちらかと言うと、女難の相が出ておりますよ。
気を付けてくださいねー」
「・・・・・・未桜に振り回される、ということか?」
「どうでしょう? でもその相手が未桜ならば、
あなたにとっては楽しいんでしょうね」


・・・楽しいかどうかは、事によると思うが。
未桜の場合、心配ごとが増えそうだ。
そう思いながら苦笑すると、箔晴が今度こそ妻戸を開け出て行った。


未桜の縁に私が引き寄せられたのか、
私の縁に未桜を引き寄せたのか・・・。
私たちの出会いによって、星の位置が変わってしまったのだろうか。
この先に待ち受けるのは吉か凶か。


熱で気だるい身体を衾の上に投げ出し、熱い息をはーっと吐き出した。
私のせいで、誰も不幸にならぬと良いが・・・。
未桜も、箔晴も祇夕も、私に仕えてくれている者たちも。


未桜の治癒の力が無ければ、すぐに悲鳴をあげる身体。
私に残された時間はどれくらいなのか・・・。
私ができることは。残してやれることは。
・・・私がしたいことは。


「・・・未桜、早く帰ってこい」


呟きは静寂な部屋にすぐに溶け込んでいく。
孤独に慣れていたはずなのに、今更寂しいと感じるとは・・・。
子供のようだと自嘲気味に笑いながら瞳をそっと閉じ、
孤独の時間を少しでも誤魔化すように眠りについた。




 -




汗で張り付いた前の毛。
白檀の香りと身体の匂い、それに汗が混じった匂いが
どんなお香よりも官能的に思えてしまう。
それはきっと、昨日の夜にずっと・・・。


昨晩の契りを思い出して、カァァァァと顔を染めながら
嶺羽様の寝顔を見つめていると、まつ毛がふるりと震えた。
目を覚ましました・・・?


「・・・未桜、か?」
「お身体は辛くありませんか?
喉が乾いたのなら、白湯をお持ちいたしますが」
「白湯よりもこちらが良い・・・」


添い寝をしていた私の身体を抱き寄せて、
緩慢な動作で顔を近づけてきて。
触れた唇は熱くて、乾いていたけれど、
すぐに湿りを帯びていく。
差し入れられた舌が絡みついてきて、
唇も舌も息も、何もかも奪われてしまいそう。


「・・・ん・・・っ、んぅ・・・っ」


昨日、初めて聞いた自分の甘い声。
激しい口づけも、身体を交わらせることも、
恥ずかしさも、愛おしさも、
痛みも、快楽も、
全て嶺羽様に教えてもらった。


出会ったその日に、って思われるかもしれないけれど、
私の初めてを嶺羽様に貰ってもらえて嬉しかった。
それは後悔していないし、これかもきっとしないと言い切れるから。


応えるように嶺羽様の首に手を回して抱き着くと、
腰を抱く腕に力を込められて、ますます密着する身体。
互いの心臓の音が重なって、
耳に届くのは鼓動の音と口づけを繰り返す度にする水音。
ただ・・・


「・・・・・・っしい・・です・・・っ」


息が出来なくて、苦しくて苦しくて。
もう無理だと嶺羽様の背中を叩くと、ようやく解放された私の唇。


「夢だと思ったら、現実だったか。いつ帰ったのだ?」
「つい先ほどですが。嶺羽様、・・・寝ぼけて私に口づけをしたのですか?」
「・・・仕方なかろう。そなたの夢を見ておったのだから」


それは素直に嬉しいので怒れなくなってしまいます。
ずるいです・・・。
そう拗ねるように呟けば、嶺羽様がははっと笑いながら、
幼子をあやすように頭を撫でてきて。
何だかまた子供扱いをされている気がするけれど・・・。
これはこれで嬉しいから、やっぱり怒れない。


腕枕されながら抱きしめられると、
さっきよりも一層匂ってくる嶺羽様の香り。
包み込む温もりも、腕の強さも、
何もかもがドキドキしてしまう。


「・・・千歳。そなたこそ、身体は大丈夫か?」
「私、でございますか? 風邪もすっかり治って元気です!」
「いや、そうではなくて・・・。歩き方がおかしかったし、まだ痛むのかと」


痛くはないけれど、違和感があるのは確かで・・・。
でも箔晴様が助言をしてくださったし、きっとこれからは大丈夫なはず!


「舞いや今様の練習と同じで、数をこなせば上手に出来るようになるし、
どんな状態でも舞えるようになってこその一人前だと言われましたから!」


なので頑張ります!
そう宣言すれば、嶺羽様は微妙な顔で苦笑い。


「・・・箔晴にもそう答えたのか?」
「はい! ・・・あ、でも箔晴様も微妙な顔で苦笑してました」
「そうであろうな・・・。からかい甲斐がない、とボヤいておっただろう」
「そういえば、そう言っておりました・・・?」


最も、私ではなく嶺羽様をからかった方が楽しいです。
とか言っていた気がするけれど・・・。
ただその言葉とは裏腹に眼差しは優しくて。
嶺羽様を心配して見守っている。
そんな印象を受けて、箔晴様との帰り道は楽しかった。
たくさん嶺羽様のお話を聞けたし。


そのことを思い出して、ふふっと笑うと、
何故か逆に嶺羽様がムッとして。


「?? どうかしましたか?」
「そんなに一人前になりたいのなら、私も協力してやろう」
「ありがとうございます・・・?」


でもどうして後頭部を優しく撫でていた手が、
固定するように掴まれたの?
それは腰を抱く腕も。
まるで私が逃げないように・・・。え?


「嶺羽様・・・?」
「私といる時間よりも、箔晴と共にいた時間の方が楽しいのか?」
「?? そう、ですね。祇夕と箔晴様と共に過ごす時間は楽しいです」
「・・・・・・未桜、しばらく二人に会えぬと思え」
「えっ!? 何でですかっ」


祇夕には舞いや今様、
箔晴様には安定しない治癒の力のことを学ぼうと思っていたのに。
それに嶺羽様と共に過ごす時間は、
楽しいというよりもドキドキして落ち着かなくて。
・・・でも同時に愛おしくて、切なくて。


そう言おうとしたのに、
紡ごうとした言葉は塞がれた唇の中に消えていってしまう。


『当たり前のように愛する人のそばにいられるあなたが、
心からうらやましいわ・・・』
そう泣きながら言った『千歳』。


そうだね。
身分が違って、脆くて儚い関係だとしても、
私はこうして愛おしい人の傍にいられるから。
楽しい時間だけではなくて、傷みも悲しみも、
嶺羽様の傍で感じていきたい。
共に過ごせる時間を大切にしたい。
そう改め思えたのは、千歳のおかげだから。


あなたが祈ってくれたように、私も祈るから。
きっとまたいつか、『千歳』が愛する人と出会えるように。


『またお前を愛するために生まれ変わってくるから』


生まれ変わっても、また出逢えるように。
愛し合えるように。
私も祈るから、どうか泣かないで。


また愛する人を探す旅に旅立っていった少女。
八百年、うぅん、千年かかったとしても、
絶対に逢えるから、諦めないで。


そう応援したのは、どちらの『千歳』なのか・・・。
同じ名前を持つ少女に自分が重なって見えて、
無意識に嶺羽様の背中に回した手。
触れる熱が夢ではないと教えてくれるのに、
何故か不安な気持ちは消えてくれなくて。


『千歳』を想いながら、そっと心の中で涙した。




~つづく~

 

 

 

 

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このお話は、お題配布のHP「確かに恋だった」からいただいてきたお題です。

甘い恋10題( 2 )

10話まで更新した後にINDEXに書き足します。

お題で、だいたいどんな話か分かっちゃいますものね(´▽`;)

ただ「甘い恋」なので砂糖吐きそうなくらいに甘々です…

蜜月ですもの…甘々です…

 

次の更新は、11/25(土) am7時です!