5.今なら素直に好きといえる | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

妄想とねつ造の二次創作サイトです( ´ー`人´ー` )

 

 

 

静かに舞い散る桜。
その桜吹雪の舞いの中、優雅に舞う白拍子。
その凛とした性格を表すように、
凛々しく、勇ましく、そして毅然としていて。
祇夕の舞いと今様はいつ見ても素晴らしいと思う。
思うが、祇夕を通して思い浮かべてしまうのは、
あの少女の舞いと今様。


「心ここにあらずですね? 未桜のことが気になりますか?」
「大人しく寝ているとは思えないからな」
「ならぱ宴に出ず、ずっと隣で見張っておけば良かったものの」


せっかくご自分の寝所に連れて行かれたのですから。
そう言いながら、箔晴はニヤリとした笑みを浮かべていて。
確かに私の寝所に連れて行ったのは事実だが、
別にやましいことをした覚えはない。
・・・ないけれど、
口から出たのは言い訳のような言葉。


「未桜に風邪を移したのが私であったし、
未桜の局の場所を知らなかったのだから仕方なかろう」


祇夕に聞こうにも宴の準備と采配で忙しそうにしていたしな。
そう補足しながら酒を口に含むと
久しぶりの味に噎せそうになる。
薬湯ばかり飲んでいたせいか、酒なのに甘く感じる・・・。


酒の上に舞い落ちた桜の花弁。
祇夕の舞と今様。
家人達がワイワイと騒ぐ声。
酒も用意された膳も、全てが久しぶりなんだと気づく。


本音を言えば、この色付いた世界を見せてくれた少女も同席させたかった。
あの舞いと今様をもう一度見たかった。
       満開の桜の木の下で。


「あの治癒の力は、未桜自身には効かぬのだな・・・」
「ふむ・・・。というか嶺羽様が未桜に風邪を移したのですか?
・・・口吸いでもいたしましたか?」
「っ、ごほっ。は、箔晴! どうしてそれを・・・っ」


お前、実は千里眼の能力もあったのか!?
咳き込みながら問いただすと、箔晴はキョトンとした顔をしたあと、
ニヤリと微笑んだ。
・・・まさか、カマをかけたのか?


「そうなんですかー。意外と手が早かったんですねー」
「~っ、まだ手は出してない!」
「『まだ』という事はこれから「妾が舞っておるのに、そなた達~っ」
「「あ」」


気づけば祇夕が笑顔で私たちの前で仁王立ち。
・・・もっとも、目元が笑っていないが。


「箔晴もからかうでない! 嶺羽様はさっさと寝所にお戻りください!」
「ぎ、祇夕、落ち着いてください・・・。別に私はからかってなど・・・」
「お屋形を宴の途中で追いだすのか・・・?」


祇夕は元から迫力があるが、怒ると更に迫力が増すんだな・・・。
箔晴と二人で少しずつ後ずさるが、
祇夕も少しずつ前進をして距離を詰めてくる。
家人達も誰ひとりとして助けようとしないし、
むしろ祇夕を応援している節があるような。。。


これは逃げられそうにないな。
観念して「部屋に戻るから怒るな」と言うと
祇夕が満足げに微笑む。


「未桜のこと、存分に可愛がってあげてくださいね」
「?? 看病してやれ、の間違いであろう?」
「いいえ、あっております。
嶺羽様のご寵愛の白拍子だと周りに知らしめねば、
他の貴族に取られてしまいますよ。良いのですか?」


良くはないが・・・。
名ばかりとは言え貴族である私と、
白拍子を巡って争おうとする者は少ないはず。
私の寵姫だと周知させれば、
少なくとも未桜は他の貴族に奪われることはない。
だけど・・・。


目の前の二人を見つめる。
祇夕と箔晴の考えは一部分は同じだけれど、その後が違うはず。


「・・・祇夕。そなた、未桜を踏み台にするつもりであろう?
女人に慣れた頃に私に正室をあてがうつもりか?」
「・・・未桜は白拍子でございます」
「そうだな。お前と同じ白拍子だ」


祇夕が言いたいことも分かる。
今までずっと体が弱かったせいで出来なかったことが、
未桜のおかげで出来るようになった。


普通の公達のように、御所に出仕をし政をすること。
正室を迎え、子をなすこと。
絢爛さを競うように宴を開くこと。


それが出来なかったばかりに、祇夕や箔晴、
それに家人達にも苦労をかけたと思うし、心配もさせたと思う。
貴族として、お屋形として、
自分がなすべきことをするのが義務だと思うが・・・


「すまぬ、祇夕。私は未桜を泣かせてまで、
普通の公達のような生活をしたいとは思わぬのだ」
「・・・困ったお人ですね。嶺羽様らしいですが」
「それに正室を迎えたとしても、子はなせぬと思うぞ・・・?」


何故でございますか?
そう首を傾げながら問う祇夕の頭からつま先までじっくりと見るが、
やはり・・・。


「祇夕も都で評判の白拍子で、美しい容姿だと思うが・・・、
そなたと子をなしたいと思わぬのだ。
祇夕に対してそう思うのであれば、きっと他の姫君もそうなんだろうな」


病弱な体で無理してまで姫君の元へ通いたいとも、迎え入れたいとも
一度も思ったことはない。
そう付け加えると、隣にいた箔晴が絶句していた。


「嶺羽様、むごい・・・」
「そうか・・・? 箔晴、お前は誰とでもそう思えるのか?」
「いえ、私にも好みはありますが・・・」
「好みか。お前は世話好きだし、手間のかかる子の方が可愛いんだろうな」
「そうですねー。そういう観点から見れば、
祇夕はしっかりし過ぎて「そなた達・・・」


・・・・・・・・・・・祇夕、また目元が笑ってないぞ?
雷が落ちる前に逃げるか。


「私は部屋に戻る。あとの事は祇夕と箔晴に任せたぞ」
「あ、嶺羽様! ずるいです!」
「夜風は病み上がりの体に良くないであろう? 
また風邪をひいてこじらせては大変だ」


治してくれる未桜も床に伏しておるしな。
そう言えば、箔晴がぐっと押し黙る。
それを横目で見て、私は宴の場を逃げるように後にした。




 -




嶺羽様のお部屋はどこだったかしら・・・。
邸の作りはどこも似たようなものだけれど、
これほど広くて立派な邸に出入りした事はなかったから。
キョロキョロとしながら歩いていると、
向こうの簀子をこちらへ歩いてくる人影。


灯篭の淡い光ではそれが誰か分からなかったけれど、
向こうからは私の姿が見えたのかしら?
何故か少しだけ怒った足取りでこちらに近づいてくる。


「未桜! そなた何で寝ておらぬ!」
「・・・嶺羽様? 宴は終わられたのですか?」
「いや、まだだが、途中で退席するように祇夕に言われたのだ」


それよりも!
そう言いながら、私の前まで来ると無遠慮に額に手を押し当ててくる。


「まだ熱い。・・・未桜、灯篭を落とすなよ」
「は・・・いっ!?? 嶺羽様っ!?」


ふわりと浮いた身体と、さっきよりも近くにある嶺羽様の顔。
横抱きで抱き上げられたと理解した頃には、
嶺羽様が迷いのない足取りで歩いていて。


「ああああああのっ、私、1人で歩けますし、重いので!」
「十二単ではないし、重くないから大丈夫だ。
体が弱いとは言え私も男なのだから、未桜くらい抱きながら歩けるぞ?」
「お屋形様にそのような事、させられませんから!」
「そのお屋形様である私の言いつけを破って
どこで何をしておったのだ?」


返答次第では説教だぞ。
そう言われてしまっては返答しにくくて・・・。
これはお説教かしら。お説教よね。
16歳にもなってお説教されるなんて・・・。
でも嶺羽様の言いつけを破って、勝手に寝所を抜け出したのは私。
叱られても仕方ないわよね・・・。


「・・・祇夕がいつまでも来ないので、薬湯を貰いに台盤所に」
「あー・・・祇夕は宴の準備で忙しそうだったしな」
「行こうとしたのですが、邸内で迷ってしまって・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「そうしたら、桜の木の下で黒髪の尼少女を見つけまして」
「?? 少女なのに尼なのか・・・?」


私がこくん...と頷くと、嶺羽様がますます訝し気に私を見る。
でも確かに少女の姿だったから。
肩口で切り添えた綺麗な黒髪に、雪のような真っ白な肌。
黒曜石のような大きな瞳をもった少女は、
桜の木の下で、死んだように眠っていて。


私が近寄ると、少女は急に起きだして逃げようとしたけど
何故か呼び止めてしまった。
戸惑う彼女と話をしている内に話が弾んで、
彼女も警戒心をといて、色々と話してくれて。


「私と同じ名前でしたし、不思議な力と知識を持っていたので、
その少女に薬湯を煎じていただいたのです」
「・・・煎じてもらった、、、のか? 出会ったばかりの者に?」
「はい! 熱はまだ下がりませんが、元気になった気がします!」
「・・・・・・ならば良かったが」


?? どうして嶺羽様は呆れた表情で私を見ているのかしら?
しかもさっきよりも重たげな溜め息をついておられるし。
首を傾げると、嶺羽様が「本当にそなたは目が離せぬな・・・」って。
その表情と言葉に、お父様の苦笑顔が重なる。


「・・・子供扱いしましたね、今」
「そなたは疑うとかしないのだな。無邪気と言うか素直と言うか・・・」


複雑そうに笑いながら、語尾を濁したのは何故ですか・・・。
むぅとむくれる私を抱きかかえながら妻戸を開け、
見覚えのある部屋にゆっくりとした足取りで入っていく。
灯篭の灯りだけでは、部屋の中を照らすには心もとなくて。
それでも迷うことなく真っ暗な塗り込めの中へ。


肩に触れたままの嶺羽様の鼓動の音が、どんどんと高鳴っていく。
抱きしめる腕に力が込められた気がするのは何故・・・?


「・・・今まではそれで無事だったのかもしれぬが、
これからは少しは疑うことを覚えた方が良いぞ?」
「何故でございますか・・・?」
「もし私がこのまま・・・、風邪で弱ったそなたを襲ったらどうする?」


嶺羽様が私を襲う・・・?
御帳台の中に降ろされ、私の手元から灯篭を奪い取っていく手。
ゆらりゆらりと揺れる灯りが、嶺羽様の顔を薄っすらと照らし出す。
迷うような・・・、何かを堪えるような顔で私を見つめていて。
その頬に手を伸ばすと、重ねられた掌。


嶺羽様の風邪は治ったはずなのに。
なのにどうしてこんなに火照っているの・・・?


「私は・・・、嶺羽様をお慕いしておりますので、
何をされても構いません。それに・・・」


手で触れていない方の頬に顔を近づけると、
白檀の香りとお酒の匂い。
それに肌から香る匂いがより一層香ってくる。
お酒の匂いは苦手だけれど、
それが嶺羽様からするのなら気にならないから不思議。


「願ったり叶ったりです♡」


嶺羽様の頬に唇で触れると、強張った手と、大きく揺れた肩。
するり...と重ねた手を抜き取って、
その揺れた肩に手を回して抱き着くと、段々と傾いていく身体。
一緒に茵の上に倒れて、折り重なった身体。
その胸の上に耳を寄せると、
私と同じくらいにドキドキしている鼓動の音が響いてくる。


「・・・愛されたいのならば、まず自分から愛しなさい」
「未桜・・・?」
「優しくされたいのならば、まずは自分から優しくしなさい」


幼い頃からお父様とお母さんに言われた言葉。
まずは自分から行動しなさい。
それはいつか自分に返ってくるから。
その言葉は、今でも私の中に残っているから。


「私は嶺羽様に愛されたいと願っています。なので、
まずは私からたくさんの愛を嶺羽様にお伝えしていこうと思います!」
「・・・・・・・その理論から言うと、
襲われたいから自分から襲う、ということか?」
「そうです♡ ご迷惑でしょうか・・・?」


経験が無いのだから、上手くできるか分からないけれど・・・。
でも白拍子としての意地もあるし、
何より好きな人が相手だから、ただ頑張るのみ!


意気込んで嶺羽様の着物を触れようと手を伸ばすと、
その手を掴まれたと同時に腰に回された腕。
そして、        くるんと回転した身体。
嶺羽様の肩越しに天井が見える・・・。あれ?


「では、私がそなたを愛せば、
そなたも今よりももっと愛し返してくれるのか?」
「今でも十分に愛おしいのですが、これ以上だとどうなるのでしょう?」


私の全てを嶺羽様に捧げたくなるのかしら・・・。
顔を上げて視線があうと、嶺羽様が困ったように微笑んでいて。
だけど何かが吹っ切れたのかしら?
さっき見た、迷うような、何かを堪えるような顔はしていないから。


「嶺羽様・・・?」
「そうだな・・・。愛されたいのならば、まずは自分から愛さねばいけないな」


私がしたように頬に口づけてきた唇。
だけどそれだけでは終わらなくて、
嶺羽様の唇は移動を繰り返しながら顔中に口づけてきて。
柔らかな感触と唇の熱さが顔中に刻まれていく。
えっと・・・。え・・・?


「私もそなたが好きだ」


嶺羽様も私が好き・・・。
好き? 嶺羽様が私を・・・?


呆然としていると、口づけを止めた嶺羽様が私の顔を覗きこんでくる。
だけど愛おしそうに私の頬を撫でていて。


「そなたを初めて見た時から気にはなっていたのだが、
色々と言い訳をして・・・、素直に認めることが出来なかった」
「・・・どうして今・・・」
「そなたが素直だから・・・。真剣に想いを伝えてくれたから、
同じ分だけ、、、いや、それ以上に返したくなった」


私は今、夢を見ているのかしら・・・。
嶺羽様も私と同じように、一目惚れを・・・?
呆然としていると、傾きながら近づいてくる顔。
唇に触れる息に、はっと気が付いてその顔を押しかえそうとすると、
その手を掴まれて衾の上に縫いとめられて。
邪魔をしたのを咎めるように、強く掴まれたままの腕。


「嫌なのか・・・?」
「いえ、嫌ではないのですが、
せっかく治ったお風邪が移ってしまいます・・・っ」


私もまだ舞えそうにないから、もし嶺羽様がまた風邪を召されたら・・・。
二人して寝込むことになってしまう気が。
そう恐る恐る言うと、嶺羽様が納得したように「あぁ・・・」と。
でも・・・


「尼に煎じてもらった薬があるのだから、大丈夫であろう?」
「えっ!? あ、ありますけど・・・で、でも・・・っ」
「未桜・・・、いや、千歳。さっきは自分で襲ってきたのだぞ?」
「あ、あれは・・・っ、ん・・・っ」


灯篭の灯りで出来た影は重なったまま、
ゆらりゆらり...と揺れていた。




~つづく~

 

 

 

 

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この5話と、来週更新の6話はジュニア文庫を読んでいる方は

「あー!」と思われるはず。

ジュニア文庫の「八百比丘尼 永遠の涙」の話が一部出てきます(`・ω・´)
『千歳』って偶然なのか仏御前の本名と同じ名前だなー、
いつか出したいなぁー、
と思っていたので、念願がかなって良かったです♡(笑)

 

次の更新は、11/18(土) am7時です!