4.この熱は誰の所為? | 君がために奏でる詩

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御仏に愛された少女。
純真無垢で、素直で、愛らしくて。
治癒の力を使ったのは驚いたが、
同時に『未桜らしい』と思ってしまう。


「仏御前と呼ばれていた意味が、分かった気がする」
「白河・・・、ではなく、未桜ですか?」
「故郷の方ではそう呼ばれていたらしい。
だが白河も仏御前も似合わぬから名を授けたが・・・」


箔晴の顔が楽しそうに笑みを作っていて、
何となく居心地が悪い。


「なんだ・・・?」
「いいえー。早く蕾の桜が満開になると良いですね?
嶺羽様が丹念に愛でれば、それだけ早く花開くと思いますがー」
「さっきから何が言いたい?」
「主にようやく訪れた春ですしねー。今日は祝宴でもしましょうか」


まるで自分のことのように喜んでくれる箔晴には悪いが、
私はまだ決めかねていて。
未桜が私のことを想ってくれているのは、十二分に伝わってきた。


今まで灰色に包まれていた世界。
そこに優しい光を照らしてくれたのは、未桜。
桜が舞うように、ひらりひらり...と少しずつ世界が煌めいて見えた。
一年のほとんどを病床で過ごす内に、
外の景色など感じなくなっていた。
だけど今、目の前にある艶やかな世界。


「諦めることに慣れ過ぎたのであろうな・・・」


開け放ったままの格子から、桜の花弁が入り込んでくる。
手を伸ばして、その花弁に触れると、
ふわりふわり...と床に舞い落ちた。
ただそれだけなのに、綺麗だと思える。
そして同時に、未桜の舞い姿が思い浮かんだ。


「・・・未桜はまだ若い。
私のような名ばかりの貴族に縛り付けては可哀想であろう」
「またそうやって諦めるのですか・・・?」
「なんだ。身分違いの恋をするなと言ってくるかと思ったが、良いのか?」


本当は身分など関係ない。
神々の子孫であらせられる帝以外は、皆おなじ『人』である身。
そう思うけれど、・・・周りはそうは思っていない。
身分で縛られたこの時代では、
どんなに素晴らしい貴人であろうとも、身分の前では意味がなくて。
未桜もきっと、『白拍子』として見られるだけ・・・。


「嶺羽様は真面目ですね。身分違いの恋ではなく、
世の貴族同様、未桜に白拍子として仕事を命じれば良いのでは?」
「箔晴。。。白拍子は遊女ではないのだぞ」
「では身分違いの恋をしちゃってください。私は応援しますよー」


そんな軽い感じで良いのか・・・?
自分で言うのも何だが。。。四方八方に迷惑がかかると思うぞ?
それに、、、脆く儚い関係に未桜を傷つけてしまいそうで。
未桜を泣かせたくない。
・・・そして多分。自分も傷つきたくない。
そんな臆病な気持ちがあって。


もしも、こんな病弱な身体でなければ。
もしも、貴族としての務めを立派に果たせていたのであれば。
箔晴や祇夕に迷惑をかけずに過ごせていたのであれば。
今よりももっと自信を持てたのであろうか・・・。


考え込む私に、箔晴は溜め息をつきながら、
「やっぱり真面目ですね・・・」と言って立ちあがった。


「急に答えを出さずとも良いのですから、ゆっくり考えてください。
・・・でも知恵熱は出さないでくださいね?」
「知恵熱を出すのは赤子だけだ!」
「色恋に関しては、赤子のようですが」


・・・・・・ならば知恵熱を出すこともあるのか?
いや、あるはずがない。
箔晴を睨むが、楽しそうに微笑む箔晴の顔は変わることがなく
飄々とした態度で退出しようとしていた。
だけど妻戸に向かう途中、
何かを思いだしたように、「そうだ」と。なんだ?


「未桜は本当の名前ではないのですよね? 
名を与えた事は、未桜の身を護る為にも良かったかもしれません」
「?? どういうことだ?」
「名前は呪詛に使えますから。嶺羽様の寵姫ともなれば、
嫉妬した姫君が未桜を呪うかもしれないですし」


本当の名では無いので、呪詛されても効果はそんなに出ないでしょう。
そう言いながら、箔晴は今度こそ退出していった。


姫君が名前を明かさないのは、呪詛に使われる恐れがあるから。
それは知っていたが、それが理由で未桜に名を与えたわけではなくて。
それでも・・・。
私が名を与えた事によって、
少しでも未桜を護れたのであれば良かった。


千歳。私だけが呼ぶことを許された本当の名前。
その名を心の中で呟くと、
また心の臓が不規則な音を奏でだす。
だけど、いつものように苦しくなくて。
・・・いや、やっぱり苦しいか?
切なさで締め付けられる胸。


目を閉じれば、未桜の姿が思い浮かぶ。
触れたくなって、触れてしまった唇。
それに悔しそうに怒りながら、未桜は唇を重ねてきた。
その感触を思い出して、じわじわと顔に熱が集まりだす。
病気ではないのに、顔が熱い。
この熱は誰のせいだ・・・。


『それと私を悲しませない為にも、意地でも生きてください!』


未桜の言葉が頭を過る。
望んでも良いのだろうか・・・。
自然と手を伸ばした先に、桜の花弁が触れた気がした。




 -




「・・・はさま。嶺羽様! 起きてくださいっ」
「・・・・・・未桜、か? どうした??」


ようやく目を覚ましてくださった嶺羽様。
だけど目を何度か瞬きしたあと、自分が膝枕されていると分かったのか
慌てた様子で起き上がろうとしていて。
それを押し留めながら、片手は嶺羽様の額に触れた。


「このような所で寝ると、風邪を召されてしまいますよ?」
「・・・気のせいかもしれぬが、未桜の手の方が熱くないか?」
「?? そうでございますか?」


訝し気に私を見ながら、後頭部に延ばされた手。
そして身を屈めさせるように、手は私の後頭部を押してくる。
重なる額。
嶺羽様の顔が近くて、思わず赤面すると、
「・・・熱が上がったか?」って真面目な顔で言ってくるんですもの!


「嶺羽様にドキドキしているんですっ!」
「・・・ありがとう、と言うべきか?」
「存じ上げません・・・。それに私、別に体調は悪くありません」
「それならば良いが・・・」


納得してないような顔だったけれど、
それでも後頭部にあった掌が移動して
私の頬を撫ではじめる。
それに嶺羽様の表情が、とても艶めいていて・・・。
甘く細められた瞳。
愛おしそうに私を見ているのに気が付いて、
ドキドキする鼓動の音がどんどんと大きくなっていく。


「・・・あの、祇夕が嶺羽様を呼んでくるように、と・・・」
「?? 夕餉ならば部屋に運ぶだろう?」
「いえ。。。よく分からないのですが、祝宴だとか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」


外堀を埋められている気がする・・・。
そんな呟き声が聞こえてきたけど、どういうことかしら?
嶺羽様は苦笑しながら、ゆっくりと起き上がって
私に手を差し出してきた。


「・・・そなたの舞いが見たい。舞ってくれるか?」
「もちろんです! 祇夕と共に心ゆくまで舞い続けます!」


舞いと今様で貴人を楽しませるのが白拍子の役目だから。
嶺羽様に所望されたのが嬉しくて、
つい張り切って返事をすると、苦笑する表情が返された。


「張り切りすぎて転ぶなよ。そなた、そそっかしいであろう?」
「大丈夫ですぅ。いくら私でも、そんなに転びま・・・きゃっ!?」


畳と床との少しの段差なのに、どうして転ぶの私っ!?
袴の裾を踏んづけたまま、前のめりに倒れそうになって。
だけど転ぶ前に嶺羽様が身体を支えてくれた。


鼻梁をくすぐる白檀の香り。
爽やかで甘い香りをもっと嗅ぎたくて、
嶺羽様の胸の中にすり寄ると、
恐る恐るだけど背中に回された手。
その温もりを感じて、
顔どころか身体中、じわじわと火照りだして。


「千歳・・・。千歳? そなた、本当に熱いぞ?」
「だからそれは、嶺羽様にドキドキして・・・っ」
「そうではなくて・・・。口づけした時に、私の風邪がうつったのでは、、、」
「・・・・・・・・・・はい?」


風邪・・・。
そういえば特に足元がふらついているような。
自覚した途端、ふらり...と力を無くす足。


「治癒の力は自分には作用せぬのだな・・・。
緊張疲れもあるだろうし、今日は大人しく寝ていろ」
「えっ、えっ!? で、でも私は舞うお約束を!」
「今日からこの邸に住むのであろう? ならぱ明日でも明後日でも、
いくらで機会があるのだから、今日は諦めろ」


私を抱きかかえて、御帳台に移動。
そしてそっと降ろされたけど、ここは嶺羽様の寝所なのでは・・・っ。


「自分の局で寝ますから!」
「そなたの局の場所を知らぬのだから、仕方なかろう。
薬湯をあとで祇夕に持たせるから、そこで大人しく寝ているんだぞ?」


そう念を押して出ていった嶺羽様・・・。
主の寝所で大人しく寝ていろ、って。
しかも好きな人の寝所ですよ!?
熱もドキドキする鼓動も急上昇して、
大人しく寝てなんていられない。


祇夕が同じ状況でも、嶺羽様はこうしたのかしら?
他の人でも??
それとも・・・私だけ?
真っ赤に染まった顔を両手で包み込みながら、
「勘違いしてしまいそう・・・」と呟いていた。




~つづく~

 

 

 

 

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段々と砂糖に蜜をかける如くに甘くなっていく前世組・・・。
もはや私が砂吐き・・・否、砂糖を吐きそうです(;'∀')
お題の題名を見るだけで、、、、シクシクシク(ノД`)・゜・。 ←

 

と、この小説の転載場所に書いてありましたが、今読んでも本当にそうで(笑)

昔の自分、よく頑張ったなぁ、と(´▽`;)

 

次の更新は、11/11(土) am7時です!