3.まるで恋のように | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

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困った顔をされてしまった・・・。
そのことが悲しくて、切なくて。
でも・・・、そうよね。
今から仕える白拍子にこんな事を言われても困るわよね。
言わなければ良かった。
好きな人にこんな顔をさせるくらいなら、言わなければ良かった。


「・・・失礼なことを言いました。忘れてください」


膝の前に手をついて頭を垂れてお辞儀をした。
俯いた瞬間に零れ落ちた涙。
その涙が私の手の甲を濡らしていて。


「・・・未桜、顔をあげてくれ」
「ごめんなさい・・・。いいえ、申し訳ありませんでした。
身分も弁えず、私はお屋形様に「千歳っ!」


遮る声。
私の肩を掴んで、力尽くで顔を上げさせてくる腕。
涙で揺れた視界で見れば、
嶺羽様がさっきと同じように困った顔をしていて。
だけど瞳の奥は、悲しんでいる・・・?


「・・・嶺羽様・・・?」
「そなたの気持ちは嬉しい・・・。
だが、私は大切な人を作らぬと決めておるのだ」
「どうして・・・」


肩にあった手が、濡れた頬を包み込んでくる。
優しく触れてくる掌が、さっきよりも熱を持っているような気が・・・。
嶺羽様の呼気も段々と乱れてきているし、
もしかして体調を崩しているの・・・?


苦しそうなのに。
それなのに、自分の事に構わず私の涙を拭い続けていて。
その手に手を重ねると、逆に掴まれた私の手。
嶺羽様の左胸に押しつけられて、
着物越しに鼓動の音が伝わってくる。
それがとても、、、不規則な音を奏でていて。
顔を上げると、嶺羽様が苦笑した。


「この心の臓が、いつ止まるか分からぬからな。
私が逝った時、大切な人が泣き続けていては
心配で常世の国にも行けぬであろう?」
「・・・だから、大切な人を作らないんですか?」


貴族なのに、その歳で正室も側室も居ないのはその所為・・・?
自分のことで泣いてほしくないから?
悲しんでほしくないから?


全てを諦めたように、嶺羽様が笑う。
儚い笑顔。
今にも消えてしまいそうで。
・・・今消えても、構わない。
そんな気持ちが伝わってきて。
その事がとても悔しくて、気づけば嶺羽様の唇を奪っていた。


自分の為に生きてくれないのなら・・・
あなたが生きる理由を作ればいい。


「・・・未桜?」
「嶺羽様の体調のことはよく存じませんが、
病気は気からです!! 
それと私を悲しませない為にも、意地でも生きてください!」


そう言うと、妻戸の方からぷっと拭きだすような声。
視線をそちらに向けると、衣擦れの音がこちらに近づいてくる。
そして母屋にかかる御簾の前に座った二人。
1人は祇夕様。
もう1人の殿方は面識がなくて。


「嶺羽様の負けですね。白河の言う通り、
そろそろご自分の為に生きられてはどうですか?」
「箔晴と祇夕か・・・。
長年、私に仕えてくれていたそなた達には悪いが、
自分の体は自分が一番わかっておる」
「ふふ。案外、私たちよりも長生きできるかもしれませんよ?
白河が嶺羽様のお傍にいる限り、ですが」


私が嶺羽様の傍にいるかぎり?
やっぱり病気は気から、という意味で??
首を傾げると、箔晴と呼ばれた殿方が私をじっと見てきた。
御簾越しなのに。
それなのに視線を感じて、思わず嶺羽様の後ろに隠れると、
箔晴様がクスクスと笑いだした。


「別に取って食べたりしませんよ。白河、でしたよね。
先ほど舞った今様を、もう一度見せてもらっても良いですか?」
「今様・・・ですか?」


母屋の御簾を潜って廂に出ると、
二人が脇に寄って、舞う場所を作ってくれた。


「・・・そういえば。私、未桜という名を嶺羽様からいただきました。
今後、私のことは未桜とお呼びくださいね」


御簾越しにいる嶺羽様の正面に立ち、
舞い始める前の礼をゆっくりとした。


初めてあなたの姿を見た時、
私は千年も命が延びそうな気がした。
嶺羽様も。
私の舞いを見て、
そんな気持ちになってくれたら嬉しい。


「君をはじめて、見る折りは・・・」


扇をゆったりと動かし、手足を動かした。
桜色の髪が、舞うたびに揺れる。
袖が翻り、今様に音を飾る。


「千代も経ぬべし、姫子松・・・」


・・・思えば、初めてあなたを見た時から、
私は一目で恋に堕ちたのかもしれない。
好き、です。
初めての恋は、どうすれば良いのか分からないけれど。


「御前の池なる、亀岡に・・・」


いつまでもお傍にいたい。
自分の為に生きられないのなら、
私の為に生きてほしい。
あなたが生きる理由が、私であってほしい・・・。


「鶴こそ群れ居て、遊ぶめれ・・・」


・・・でもこれは、一方的な私の気持ち。
まるで恋のよう。
愛に変わる時は、嶺羽様が思い返してくれた時?


ゆったりとした動作で舞い終わり、床に伏して礼をすると、
部屋はものすごく静寂に包まれていて。
不思議に思って顔を上げると、嶺羽様と箔晴様、
それに祇夕様が驚いた顔で私を見ている。


「・・・やはり未桜殿は巫女としての素質があったのですね。
見事に治癒の力が開花したようです」
「驚いた・・・。先ほどまでの胸の苦しみが無くなったぞ・・・」
「そなた、、、箔晴と同じように術者であったのか・・・」


?? 三人の言葉の意味が分からない。
首を傾げると、箔晴様が嬉しそうに微笑んだ。


「きっと御仏のお導きですね。
だから嶺羽様? 下手に背くと、罰が当たりますよ」
「・・・・・・御仏、か。
祇夕、未桜に局の案内をしてやってくれ」


御簾の中におられる嶺羽様の表情は分からないけれど、
声音は困惑している様子。
それでも、私と祇夕が退出する時に、
「未桜、ありがとう」とお礼を言ってくれて。
それが何のお礼か分からなかったけれど。
でも嬉しくて。


「未桜、妾からも礼を申す。ありがとう」
「えっ!? な、何故、祇夕様までお礼を!?」
「そなたが嶺羽様の生きる希望になりそうだから、じゃ。
あと妾のこと、祇夕で良いぞ? 敬語もいらぬ」


そなたの面倒は妾が見るから、何でも申すのじゃぞ。
そう言ってくれて。
私よりも年上で、白拍子として先輩で、
呼び捨てなんてとんでもないのだけれど・・・。


「ぎ、祇夕・・・、と呼んでも本当に良いの?」
「ふふ。そなたを見ておると、故郷に残してきた妹を思い出す」


妹・・・。
確かに祇夕はしっかり者のお姉様、よね。
私には上にも下にも姉妹はいなかったけれど、
もし居たら・・・。


「祇夕! これからよろしくねっ!」


祇夕の片腕に抱き着いて、ニッコリと微笑むと
祇夕も微笑みながら、私の頭を撫でてくれた。


この邸に来て良かった。
嶺羽様に出逢えたし、
姉のように思える祇夕にも出逢えた。
仏様のお導きが何かは分からないけれど、
今、とても感謝したい気持ちでいっぱい。


局に着くまで、
祇夕が邸の案内もしてくれて、
私の家は今日からここになった。




~つづく~

 

 

 

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2話から一か月以上空いてました、、、すみません、、、。

普段ログアウトをしているせいか、どうもアメブロの更新を忘れるので

毎週土曜日のam7時に投稿するように設定しておきます(>_<)

そうなると、いよいよアメブロも覗かなくなる気がするので

お急ぎの方はTwitterの方にお声をかけてください。

または、コメント&メッセージをいれてくださると、

メールチェックしている時に「あ。アメブロにメッセージきてる」と気づくので。

ご面倒だとは思いますが、よろしくお願いしますm(__)m

 

とりあえず、次の更新は11/4(土) am7時です(*^^*)