2.どうしよう好きみたい | 君がために奏でる詩

君がために奏でる詩

妄想とねつ造の二次創作サイトです( ´ー`人´ー` )

 

どうして私はお屋形様と当たり前のように
同席しているのでしょう・・・。
普通は御簾で隔ててお話をするはずなのに・・・。
そういう作法には無頓着なのかしら。


せめて几帳でお顔を隠した方が良いのでは・・。
そう言ったけれど、
「姫君ではないのだから、御簾や几帳で隔てる意味が分からぬ。
顔も見れぬし、声もよく聞こえぬし、
何より同じ人である身なのに何故隔てるのだ?」
そう当たり前のように言われて。


貴族なのに、変わったお人・・・。
今まで傲慢で高圧的な人ばかり見てきたから。


とこしえの平安を願って作られた都。
だけど平安な都の外では、
貴族以外の人は人としては扱われなくて。


貴族の気まぐれや横暴で、私たちの生活は乱され、
動かなくなれば、簡単に捨てられる。
・・・私のお母様のように。
命は貴族も平民も平等なのに。
他にも色々と理由はあるけれど、
貴族の人達には良い思い出がなくて。


「・・・そうか。そなた、加賀から参ったのか」
「はい。唯一の家族の母が亡くなったので、叔父を頼って京へ参りました」


本当は仏門に入ろうと思っていたのだけれど・・・。
加賀では学べなかった医学を勉強をして、
救えなかった母と同じように苦しんでいる人達を
この手で助けたかった。
だけど白河の叔父が、それを赦してくれなくて。


舞う事は好き。
今様を考えるのも好き。
だけど白拍子になるつもりはなかった。


私が仕えたいのは、貴族ではないから。
だけど・・・。
目の前に座る嶺羽様は、貴族らしくなくて。
だからなのかしら。
白拍子として生きて、この方にお仕えしても良いかも。
そう思ってしまう自分もいて・・・。


「ところで名は何と申す? 白河は一族の名であろう?」
「千歳、と申します。ただ幼い頃から仏教を信仰していたせいか、
仏御前と呼ぶ方もおりますし・・・。
でも白河と呼ばれることが多いでしょうか」


貴族の姫君のように、名前を隠しているわけではないのだけれど。
それでも私の本当の名を呼んでくれたのは、お父様とお母様だけ。
・・・今では、誰も呼んでくれないけれど。


「・・・仏御前も白河も、そなたのイメージとは違うな」
「そうでございますか・・・?」


嶺羽様が手を伸ばして、私の髪に触れる。
桜色の髪の毛が嶺羽様の手の中で弄ばれている様子を見て、
何だか気恥ずかしくて。
口元を袖で隠しながら視線を逸らしていると、
嶺羽様がぽつりと呟いた。


「・・・未桜。未桜という名はどうだ?」


みおう?
その音を口ずさんでみるけれど、いまいちピンとこなくて。
首を傾げると、嶺羽様は苦笑しながら文机から墨を持ってきて、
懐から出した懐紙に、さらさらと文字を書きだした。
「未」「桜」の漢字。
みおう、はこう書くの?


「千歳と呼んでも良いのだが、そなたの大切な名だ。
そなたも大切な人にだけ呼んでもらいたいだろ?」
「・・・ですが唯一、千歳と呼んでくれた両親もおりませんので・・・」


『千歳』の名前はもう二度と呼ばれないかもしれない。
下を俯くと、頭の上にポンッと乗った掌。
顔を上げれば、嶺羽様が私の頭を撫でながら、
申し訳なさそうな眼差しと優しい声音で、「千歳」と呼んでいて。


「・・・すまなかった。私の我儘で、そなたを傷つけてしまったな」
「?? 我儘、ですか・・・?」


頭を撫でていた手が、髪の毛を梳くいながら下りてくる。


「そなたの本当の名を、軽々しく他の者が呼ぶと思ったら、
何となく許しがたく思えてな・・・。
呼ばせたくない、と・・・。そう思って、、、すまぬ」


気まずそうに謝る姿が、なんだか可愛く思えて。
くすりと笑うと、嶺羽様が私の名を呼んでくる。
「千歳!」と。
もう二度と、その名を呼ばれることはないと思っていた。
久しぶりに聞く自分の名は、とても綺麗に響いて
何だか、くすぐったいけど幸せ。
嶺羽様が呼んでくれたから?
・・・嶺羽様は私にとって、特別な存在なのかしら?


「・・・今後、『未桜』の名を名乗ったとして、、、
でも、嶺羽様だけは、たまにで良いのです。
『千歳』の名も呼んでくれますか?」


お父様とお母様がくれた最初の贈り物。
それが名前だから。
捨てることはできない。
それに大切だから。
だからこそ、大切な人にだけ呼んでもらいたい。


そう言えば、嶺羽様が優しい表情で頷く。


「私に『千歳』の名を私に捧げてくれるのだな」
「・・・・・・そういう事になります、よね?」
「なるな。なんだ、気づいてなかったのか」


『未桜』の名を名乗るのならば、
『千歳』の名を知る人は、嶺羽様だけになるだろうから。
それは私の本当の名前を捧げるということに・・・。


それは何だか・・・


「千歳の名を独り占めか。何だか姫君を妻に貰ったようだな」
「あぁぁぁっ、私も今それを・・・っ!
姫君でもない私がなんて大それた事を・・・っ」


ご迷惑でしょうかっ!?
そう泣きそうになりながら問えば、
嶺羽様が笑いながら、私の頭を撫でてくる。


「・・・初めてそなたを見た時、桜の精霊に見えたのだ。
五節の舞姫よりも、未桜の方が天女に相応しいと思うくらいに」


消えないか確かめるように触れてくる掌。
見つめてくる瞳。
それだけで、胸がドキドキして苦しくて。
苦しいけど、、、嫌な気持ちではなくて。
今まで会ったどの人にも感じなかった気持ち。


この気持ちはなに?
私、どうしてしまったの?


「・・・わ、私など、まだまだ祇夕様の足元にも及ばなくて」


勝手に動いた口。
だけどどうして私は祇夕様の名を出してしまったの。
祇夕様は京の都でも名高い白拍子。
そんな方と比べられたら・・・。
自分で言った言葉に、ズキン...と痛む胸。


でも嶺羽様が、ますます私の頭を強く撫でるから。
落ち込んだままの顔を上げれば、
嶺羽様は楽しそうに笑っていて。


「祇夕はすでに完成しておるからな。
だが未桜は今からであろう?
艶やかに満開の桜を咲かせる日が楽しみだ」
「だから『未』なのですか・・・?」
「・・・・・・どうであろうな?」


正解ではないのかしら?
でも『未』に他の意味はあったかと考えるけれど
全然頭に思い浮かばなくて。
むぅと口を尖らせると、嶺羽様がますます笑みを深めて
私の頬をつついてくる。


「その内教えてやるから拗ねるな。千歳は子供みたいだな」
「~っ、私もぉ16歳です! 子供じゃないですっ」
「笑ったり、拗ねたり、怒ったり、泣きそうだったり・・・
未桜ならば、どれだけでも見てられそうだ」
「・・・それは私がやはり子供のようだ、と」
「その無邪気さと素直さで、よく今まで無事であったな」


否定しない、ということは・・・やっぱり私のこと子供扱い?
ひどいです・・・。


「私のことは両親も、そして御仏も護ってくれましたし、
私、こう見えてもしっかり者なんですよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「その疑いの眼差しは止めてください!
今までちゃんと自分の身は自分で護ってきました!」


襲われそうになったこともあったけれど。
その度に邪魔が入ったり、
助けてくれる人がいたり。
・・・自分で護ってきた、とは言えないかもしれないけど、
それでも今までちゃんと無事でした!


そう熱弁すれば、頬をつついていた手が頬を撫ではじめ、
親指が唇の上を這う。


「・・・ここに触れた者はいないのだな?」
「唇・・・ですか? おりませんが・・・」


口づけをしてこようとする人もいたけれど、
私が何もない所で躓いて頭突きしたり、
後ろに倒れ込んで尻餅をついたり・・・。
・・・あと転んだ拍子に急所を蹴ったこともあった気が。


そう思い出しながら震える声で言えば、
唇を撫でる親指がピタリと止まる。
だけど頬に置かれた手も、指を撫でていた親指もそのまま。
じわじわと顔が熱を持ち出すし、
声を紡げば、私の息がその指先にかかりそうで恥ずかしい。
でも離れて欲しくなくて。


・・・このまま触れていてほしい。
嶺羽様の手の上に手を重ねると、温もりが伝わってきて、
ますます鼓動は早まるけれど、
それとは逆に温かな気持ちが胸の中を占めていく。
何だかとても幸せで、・・・泣いてしまいそう。


目を閉じてその温もりを感じていると、
嶺羽様の優しい声音が耳に届いた。


「・・・未桜には強力な御仏の加護があるのだな。
そなたに不埒な真似をすると、災いがおきそうだ」
「どうでしょう? お試しになってみますか?」


触れられれば、これも御仏のお導きでしょうし。
そう告げると、顔に近づいてくる気配・・・


唇に感じる柔らかな感触。
私以外の熱が唇を温めていて。
息をするのも忘れて、
閉じていた瞳を開ければ、目の前にある嶺羽様の顔。


目を見開いて固まっていると、
嶺羽様の顔が段々と遠ざかる。
その瞳に映る私の姿は、間抜けなくらいに呆けていて。


「・・・何も起きぬではないか」
「起きない、ですね・・・」
「それとも私は御仏に認められたのか?」


どうしよう。
気づいてしまった自分の心。
口づけられて、嬉しいと思った。
でも離れられると、寂しくて、、、切なくて。
ドキドキするこの気持ちは、きっと・・・。


だけど私は白拍子で、嶺羽様は貴族だから・・・。
この気持ちを告げても良いのか迷ってしまう。


「未桜?」


だけど、だけど・・・。
もしこれが本当に御仏のお導きなら?
こうして出会えた事にきっと意味があるはず。
嶺羽様の傍で愛を学べ、ということなの?
それとも私が嶺羽様に必要とされていたの?


・・・今はまだ導かれた意味が分からないけれど、
この気持ちは間違ってないから。
隠すものではないはず。


「私、嶺羽様が好きみたいです」


そう告げれば、
嶺羽様は嬉しそうに微笑んだけれど、
・・・すぐに困ったような表情になってしまった。




~つづく~
 

 

 

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これを書いていた時は、チビ1号は幼稚園児でしたが

今では小学3年生です(;・∀・)

チビ2号にいたっては産まれてもいない☆

月日が流れるのは早いですね…。

チビ2号が幼稚園に入れば、アメブロも再開したい気もしますが

あと約1年半は自宅保育なので、まだまだです_(:3 」∠)_

ちなみにこのお題小説は、FC2ブログからの転載です。