- 小さいおうち (文春文庫)/文藝春秋
- ¥570
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- 2、3年前の直木賞受賞作品の文庫化です。
- ともかくも素晴らく、素敵な一冊でした、が感想です。
- 物語の大半は、戦前から戦中の時代を東京で過ごした
- 女中、主人公のタキちゃんの回想録の形式で進みます。
- 時折、タキの妹の孫である健史が、本で読んだ歴史観を
- 振りかざし、タキの首記の内容に茶々を入れて来ます。
- 赤い屋根の、素敵なポーチとステンドグラスが自慢の家の
- 時子奥様にタキは仕えています。奥様はタキを可愛がり、
- タキもまた誰の目にも美しく、少女の無邪気さを残したままの
- この奥様をとても慕っており、二人はそれこそ時には姉妹の
- 様に仲良く暮らします。
- ご主人は玩具会社に勤めていて、常務まで出世しており、
- 穏やかで幸せな生活が続きますが、そんな中、ご主人の
- 会社にデザイン担当で入手してきた若者、板倉がそんな
- 生活に波紋を引き起こします。互いに惹かれあってゆく
- 時子奥様と板倉。
- (この先はそこそこネタバレになりますのでご注意を)
- やがて戦争がはげしくなり、板倉も戦争に召集されます。
- 召集される前日、タキの勧めで奥様は「午後一時に家に
- 来てほしい」という手紙をタキに託します。
- タキの手記では、板倉がやってきて奥様と時間を過ごし、
- 二人の恋がそこで終わったとつづられています。
- やがてタキも田舎の東北に疎開することになり、長く暮らした
- 東京の奥様の元を離れる事になります。一度だけ疎開先から
- 東京に戻る子供を連れてタキは東京に出向き、奥様と会う事が
- でき、戦争が終わったらまた家に戻ってくる約束をし、また
- 東北に帰りますが、そのあたりでタキの手記は、「そうだ、ブリキの
- ジープの話をしよう」という言葉を最後に急に途切れてしまいます。
- 物語の謎を提起し、且つ後始末をするのは手記の内容に
- 茶々を入れていた、健史の役目となります。ここでは既に
- タキは亡くなっていますが、健史は「ブリキのジープの話とは
- どういう話だったのか」、そして「最晩年のタキが顔をくしゃくしゃに
- してあんなに泣いていたのはなぜなのか」が気になっており、
- その謎を少しずつ解いてゆきます(その中で、「小さいおうち」
- の意味も明らかになります)。
- 最後までネタバレをするにはもったいない作品なので、どんな
- 謎があったのかをここに書くのは差し控えますが、手記を通して
- ずっとタキの心を見守ってきた読者としては、最晩年に悲しい
- 涙を流していたタキの心情が分かる気がして、涙が流れます。
- ほぼ全編がタキの首記によって語られているため、謎のまま
- 残っている事柄も多いですし、タキはこう書いているけれども
- 本当はどうだったんだろうか?と思わせる部分もあり、色んな
- 意味でとても多くの余韻を残す作品で、読後数日経った今でも
- 未だに色々考えてしまいます。
- そして、この物語同様に、戦争や時代の流れが、どれだけ
- たくさんの人の大切なものを追い越してしまったのか、
- どれだけ多くの物や人をこわしてしまったのかを考えると
- 非常に胸が痛くなります。
- 久しぶりに非常に深いお話を読んだ気がします。
- 余韻の深いお話を読まれたい方はぜひご一読を。
- 因みに 作中にも出て来る、バージニア・リー・バートンの
- 『ちいさいおうち』という絵本は実在するんですね。
- ちいさいおうち (岩波の子どもの本)/岩波書店
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2013年2月15日(金)アップ