「春の高瀬舟 御宿かわせみ24」 平岩弓枝 | らんまるの街道歩きブログ

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春の高瀬舟―御宿かわせみ〈24〉 (文春文庫)/平岩 弓枝
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御宿かわせみシリーズ第24巻です。この巻ももちろん、色々優れた
お話が満載なのですが、個人的には、東吾の隠し子である麻太郎を、
東吾の兄嫁である香苗が助け、その夫=東吾の兄である通之進と香苗の
夫妻が養子として引き取るという筋立ての『紅葉散る』が、物語全体の
方向に関するお話なのと、平岩先生の充実した筆が文字通り炸裂した
感があり、この単行本中どころが全シリーズの中でも出色の出来だと
思います。

東吾と、その親友(東吾の隠し子である麻太郎の事を知っている方の
親友)である麻生宗太郎が、それぞれの義姉にあたる香苗(東吾の兄嫁、
宗太郎の嫁である七重の姉)のお伴をして品川に向かうところから話は
始まります。

やがて訪問先の近所で斬り合いがあるとの話を聞いて東吾が駆け付けると
武士が3人がかりで女性を追い詰めている場面。たちまち3人を、殺さぬ様に
圧倒的力量の差で倒す東吾でしたが、既に女性は瀕死の状態。
しかし事態はそれだけでは済みません。東吾が助けた女性はくしくも、東吾の
隠し子の母親(はかりごとをして東吾と契った)である清水琴江でした。

東吾は、自分の実の息子である麻太郎も追手に狙われていることを悟り、
すぐに探しに出ますが

このお話で感動したポイントを纏めると箇条書きになりますが:
・麻太郎が自分の膝を握りしめて泣くのを我慢している様子を
 宗太郎が東吾に話している場面。麻太郎は泣きませんでした。
 ただ、両手で自分の両膝を握りしめて・・・・・こんな時になんですが、
 わたしは誰かさんがそうやって涙をこらえているのをみたことが
 ありましたから
』のところで、涙がこぼれました。
・麻太郎と香苗の縁(えにし)を感じさせる、二人の邂逅場面。
 宗太郎がやはり涙をこらえながら『麻太郎がこういいましたよ。
 母上の声のように思えた、と・・・・・。
』 涙腺の堤防はもう
 修復ができないほどになりました。この東吾と同じ性質を持った
 麻太郎という子はどんな気持ちで、それを言ったのでしょう?
 そしてその前に香苗は初対面である(しかし東吾の言葉で麻太郎が
 東吾の隠し子である事は知っている←宗太郎が通之進夫妻に
 打ち明けたはず)麻太郎に対して『お助けします。私を信じて、申し上げる
 通りになさい
』と、言った時、どんな縁を感じて、どんな気持ちだったで
 しょうか?

それにしても、源さんといい宗太郎といい、この東吾という男、何とまあ友達に
恵まれていることでしょうか。自分もこの二人の様な友人が欲しいです。
全て分かりあっていて、好きな事を言いあえてでも、出すぎず、困っていれば
さりげなく助ける、、、、素晴らしいです。
この二人の(東吾は源さんが真実を知っているという事に思い当たりません。
他の事では察しの良い東吾が、麻太郎に関してはかなり鈍感です)
東吾に対する献身と言ったら、なかなかまねのできるものではありません。
「漢」と書いて「おとこ」と読む感じですね。

そしてまた、御兄さんの通之進、何という大人の対応、何という男ぶり
でしょうか。この方、作中の設定では私より年下な筈ですが私よりも70倍くらい
オトナだと思います。ぜひこうありたいものです。

この後、麻太郎は兄の子供=甥ということになり、今後も東吾と接して
いく訳ですが、この大きな根幹の流れ、ますます見逃せません。
それにしても今作での平岩先生の筆の力はすごいと思います。

ここまで思える本があるっていうのも幸せな事ですね。

2012年4月30日アップ