松井今朝子「辰巳屋疑獄」 | らんまるの街道歩き・暗渠散歩ブログ

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辰巳屋疑獄 (ちくま文庫)/松井 今朝子

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前回の「そろそろ旅に」に続いて、松井今朝子さんの作品です。
やはりこの方の作品は内容はギッシリ、時代小説であるかどうかと
全く離れたところでただひたすらに面白く完読できると感じました。
(面白いものはどうあれ面白い、という事が言いたい訳です)
読者ごとの好き好きは当然あるものですが、自分としては読んで
面白く、「しっくり」くるものが多い様です。

さてこの「辰巳屋疑獄」ですが、元文5年(1740)に起きた、いわゆる
辰巳屋騒動を題材にしたものです。大坂の炭問屋の大店の辰巳屋をめぐって
起きる大掛かりな収賄事件を縦糸に、それをめぐって動き回る人々を
横糸に物語は進行し、田舎から出てきた辰巳屋奉公人の「元助」の目を通して
この一大事件を描いた大作です。

ここに簡単な紹介があります。

大坂の商家、辰巳屋の跡継ぎ騒動が発端で、大坂だけでは収まらず
最後はお江戸の評定所にまで持ち込まれる一大事件だったんですね。
辰巳屋から賂(まいない)を受けた大坂町奉行所の町奉行は罷免、
その手下も含め何人もの人が死罪や遠島送りになるという、
稀な事件であった様です(大身とは言え、たかだか町人の継嗣問題で
仮にも武士が死罪になるという意味で)

最後は、事件から何年か経ったところで、主人公の元助と、彼が子供の頃から
仕えた主(疑獄の張本人)が静かに語る場面で、穏やかにしかし万感の思いを
込めてお話は終わって行きます。

メインのストーリーラインも面白いのですが、自分としての一押しは
江戸の場面で大岡忠相=かつての名町奉行、大岡越前忠相その人が
出てくるところです。
かつて権力(幕府上層部)と豪商の癒着に破れて町奉行の座から
降ろされ、今は寺社奉行ではありながら事実上は閑職に近い立場にある
大岡越前が登場し、辰巳屋騒動を裁く立場で最後の(?)活躍を見せる場面が、
自分なりの感動ポイントでした。

ストーリーの末尾近くで、かつての名町奉行が最後の意地をかけて
幕府上層部に対しても一歩も譲らないその姿に、男の意地と迫力を
感じ、胸が熱くなりました。

歴史小説に於いて、知識というか時代考証的なものにおいても
この松井今朝子さんは極めて卓越されているのですが、特に
それがすさまじく優れた作品で、文字通り圧巻でした。

2011年8月5日アップ