床と水平にキャンバスを貫く赤い線、あれはバーだったのか。
目の前に立ち現れた特大舞台サイズの絵。
次の瞬間、その絵が動いた。
動いては止まり、動いては止まる。
だるまさんがころんだ。
ダンサーが静止すると、また見知った絵に戻る。
画家ロバート・ハインデルが舞台美術を担当したビントレー作品『The Dance House』は、病死した親友のダンサーにささげられた作品でもあり、ダンサーの習性を表すとともに、中世の”死の舞踏”をモチーフとして随所に逃れられない死の存在が示される。
ロバート・ハインデルの絵を初めて見たのは2015年、横浜そごう美術館でのこと。
バレエのレッスンやリハーサル場面を題材にした作品の多くに、とてつもなく惹かれた。
これはそのとき買ったポスターを額装したもので、以来、展覧会があれば折に触れて観に行っている。
その絵が立体になって、しかも動くというのだから興奮する。
日本初演の『The Dance House』は息つく暇もないステップと軽快かつダイナミックな動き、アクロバティックなリフトの連続で、踊りこなすダンサーたちはつくづくかっこいい。
苦しそうでもなく、難なく踊っているように見せる。
死の恐怖を前に人々が半狂乱になって踊り続けるとも言われた死の舞踏のひとつの側面を観るようだ。
古典作品の中で観るダンサーと、コンテ寄りの作品の中で観るダンサーは、同じ人でもまるで別人だ。
テクニックが確立していて強いという前提の上に、生き生きとのびやかで、ダンサー自身の生きているさまがありありと舞台上に現れる。
特に第2楽章。
東さんと久野さんのパドドゥでは、人間はそんなふうに美しくかつ力強く動くことができるんだ、と息を飲んだ。
お二人の素晴らしさを飛び越えて、人間の普遍的な美しさを見た心地がする。
この公演を記念して、展覧会が開催中。
描かれたデヴィッド・ビントレーバレエ ロバート・ハインデル展
2024年3月18日(火)~30日(土)11:00~18:00 ※日曜日は休廊
THE OBSESSION GALLERY