絶賛大紛糾中の、保護猫を月額380円で飼ってもらおうという「ねこホーダイ」というサブスクシステムについて。
高須クリニックの高須幹弥先生のご意見が個人的には中立的で分かりやすいと思ったら、炎上してしまったとのこと
思い入れの強さは人それぞれなので仕方ないのですが…。
自分も数年前、猫を飼っていた(今は鳥さんだけ)ので、保護猫を取り巻く環境や活動に関心があります。
ねこホーダイに関して、高須先生だけではなく色々な方の、賛成反対それぞれの意見をピックアップしてみました。
【反対意見】
譲渡条件が特にないこと
猫が環境の変化に敏感な動物であること
命をモノ扱いし、軽視している
〇〇ホーダイという名称がそもそもモノ扱いしていることの表れ
【賛成意見】
殺処分を減らすための手段の一つ
保護団体からの譲渡条件が厳しいのに対して保護猫を飼うハードルが下がる
そもそも保護猫とはどういった存在なのでしょうか。
簡単に言うと、飼い主のいない様々な動物たち(主に犬猫)をお世話する団体及び個人が、保護した猫たちになります。
保護の場所や状況も猫によって色々なパターンがあります。
元々お外で暮らしていたり(いわゆる野良猫)、飼い主から遺棄されたり。
保健所から引き取るケースもあります。
なぜ保護しなければいけないのかについて、主な理由は3つあると自分は考えています。
①猫と人の共存
②殺処分を減らす
③猫が外で暮らすにはリスクが高い
①は、外で生活する猫を良く思う人と思わない人がいて、快く思わない人にとって猫は迷惑な存在にすぎないんですよね。
外にいる子たちをサポートする人を餌やりさん、サポートされている子を地域猫と呼び、可愛がってくれる人もいますが、それらを疎ましく思う人、虐待する人がいるのも事実です。
また、猫の繁殖能力は高く、年に2回、一匹で4~6匹ほど生むので、ただ可愛がっているだけだと、あっという間に大変な数になってしまいます。
そこで、Trap(つかまえて)、Neuter(不妊去勢手術をして)、Return(元の場所に戻す)、それらの頭文字を取ってTNRという活動が、地域によっては今、盛んに行われています。
地域猫にとっては人とのトラブルを防ぎ、一代限りの猫生を全うすることで、人と共存する道が開けるわけです。
なお、TNRされた猫はオスが右耳、メスが左耳を耳カットされ、見た目がさくらの花びらに似ていることから「さくらねこ」と呼ばれます。
次に、②の殺処分は現在どのくらいいるのでしょうか?
令和2年4月1日~令和3年3月31日調査分
全国の犬・猫の殺処分数の推移
(注)引取り数の所有者不明の成熟個体には、狂犬病予防法に基づく抑留が含まれる。引取り数の所有者不明には、一部、県・市条例に基づく収容を含む。幼齢の個体とは主に離乳していない個体を示す。成熟個体と幼齢の個体を区別していない自治体にあっては、すべて成熟個体として計上している。※令和元年度事務提要より犬及び猫の殺処分数を下記「動物愛護管理行政事務提要の殺処分数の分類」のとおり①~③に分けて集計した。動物愛護管理行政事務提要の「殺処分数」の分類[PDF 134KB]
2021年度で犬猫2万3764匹が殺処分され、そのほとんどが猫、そして半分以上が乳飲み子です。
減少傾向とはいえ、保護される方々は皆さん殺処分ゼロを目指して活動しています。
③のリスクについては、栄養が不十分だったり、熱中症や低体温で死んでしまったり、ロードキル(交通事故である轢死)で命を落とす猫が多いという事実があります。
“人と動物の共生センターによりますと、2019年に野外で死亡した猫の数について、推計で28万9,572匹であったことを報告しています。
この年は、猫殺処分が2万1,107匹なので、約10倍以上の猫が、ロードキルで命を落としているのです”
そのため、保護団体さんは保健所で殺処分されそうな子や、ロードキル等の危険がある過酷な外の生活を強いられている子を引き取っているわけです。
前述したTNR活動で地域猫として育てるケースは一見良さそうに思えますが、一番いいのはやはりお家の中で愛玩動物として暮らすことだと思います。
そんな保護猫たちですが、なぜ今回サブスクの対象となってしまったのでしょうか。
団体さんのほとんどがボランティアとして活動している際に発生する悩みに起因しているのかと。
・活動資金が必要
・キャパの問題
・譲渡会などを開催し、適切な里親を見つけるのはなかなか大変
高須先生も他に保護したい子がいるのに、保護された子がなかなか里親に繋げられない点について言及していました。
それでも、保護団体さんがなぜ譲渡に際し、一定の条件を必要とするのか。
賛成意見の中にもあった譲渡条件が厳しい件について考えてみます。
動画のコメントにもありますが、猫の飼育経験者でも譲渡を断られるのは日常茶飯事とのこと。
とある保護団体さんの譲渡条件がこちら
- 家族の一員として責任と愛情を持って育ててくださる方。
- 同居家族全員の同意を得られている方。
- 65歳以上の方は同居の後見人がいる方。(諸条件により譲渡可能な場合もあります。)
- 正式譲渡の際にワクチン接種代、不妊手術代、血液検査代等の譲渡金をご負担できる方。
- ペット可のご自宅を所有されている方。(集合住宅にお住まいの方は家主さんや不動産業者、管理事務所等のペット飼育許可書を提出していただきます。)
- トライアル・正式譲渡の際には必ずご自宅に上げていただき、飼育環境の確認をさせていただける方。
- トライアル期間中の病院代、飼育費等をご負担できる方。
- 完全室内飼いができる方。(猫エイズや白血病、交通事故や虐待から猫を守る為。)
- 脱走防止対策ができる方。
- 必ず不妊手術を行ってくださる方。
- 毎年の3種混合ワクチン、白血病予防ワクチン、定期健診などを行ってくださる方。
- ペット保険にご加入できる方。
- 先住犬・猫は、病気や高齢といった特別な事情がない限り、ワクチン接種、血液検査、避妊・去勢されていること。
- お子様のいるご家庭は、子猫は4歳以上、成猫は1歳以上とさせていただきます。
NGなケース
- 一人暮らし、ご高齢の方、同棲中のカップル、未成年への譲渡は不可
- 猫たちの個別の性質により条件が異なる場合があります。
- 譲渡はお申し入れの順番ではありません。里親様の適正と条件を十分に考慮させていただいた上で譲渡させていただきます。
かなり厳密です。
ペットショップで買って、すぐ連れてこられるのとは訳が違います。
しかも、トライアル期間中、飼う側の環境や気持ちが整っていなければ、保護猫のことも考え、団体側の判断で連れて帰ることも止むなしのようです。
(ちゅー猫さんのよいちくんとタケコちゃん。一度トライアルから戻りましたが、再び譲渡され、今はずっとのお家で幸せに過ごしています)
以前、見たテレビ番組で保護犬の譲渡が成立した際、涙した女の子がいました。
本当に家族に迎え入れられるのか、緊張や不安もあって、その姿を見た時は正直可哀想に感じましたが、今思うと保護犬を家族の一員として受け入れる覚悟と責任が十分あることの表れでした。
トライアルは、愛情を持って育てられるかはもちろん、飼い主としての責任や適正を保護団体と飼い主とで互いに見極めるための期間でもあります。
だから、ずっとのお家でその子だけに愛情を注いでくれるのが一番なのは分かっていても、譲れない条件があるのは団体さんごとに考えがあるので、引き取る側もそれを受け入れなくてはなりません。
保護してから大事に育ててきた子たちですし、特に乳飲み子は本当に生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨い続けますからね
ましてや元の飼い主に捨てられた子たちは、心に傷を負っている子たちが多い
幸せになって欲しい気持ちが誰よりも強いからこそ、保護団体さんも慎重にならざるを得ない。
そのことを飼い主側も理解した上で引き取りたいと申請すれば、厳しい条件下だとしても、品定めされたというより、単にご縁がなかった思えるでしょうか⁉(それでも、気持ち十分で申請して断られると悲しい気持ちになりますが…)
また、条件はクリアできても、人気の子は抽選というケースもあります。
実際に受け入れる用意は万端だったのに、抽選で外れ、次の譲渡会まで待てず、ブリーダーさんから購入した人の話も聞いたことがあります。
抽選に外れた時は、とてもガッカリしたそうです。
そこで、実際に保護猫を受け入れようとしても抽選でダメだった場合や、条件が合わない場合に応じて、保護団体さん側にも受け入れ先をなるべく増やすための方法を考える必要があるのではないでしょうか。
自分が以前から注目していたのが、ツキネコ北海道さんの永年預かり制度です。
ツキネコ北海道が考案した【保護猫の永年預かり制度】は、高齢や持病など様々な理由により飼育をあきらめてしまった方に、
猫を「飼う」のではなく、しかるべき準備をしていただいたうえで、お世話が出来なくなるその時まで、猫を「預かる」という新しいシステムです。
預かっていただく猫は選ぶことは出来ませんが、ご自身に合った猫をマッチングいたしますのでご安心ください。
※通常の飼育と変わりなく、預かる期限は決まっていません。
万が一、ご自身に何かあり飼育困難になった際は再度引き取りいたします。
条件が合わないからNGではなく、お互いの条件を擦り合わせていくことでうまく行く可能性を見出していくためのシステムもあります。
特にツキネコさんの場合、「レンタル」ではなく「永年預かり」という言葉も、きちんと選んでいるところが好感を持てます
さて、以上のことを踏まえ今回話題になった「ねこホーダイ」を考えるに、自分は「猫側の気持ちに全く立っていない」ということが問題だと思いました。
・月額(サブスク)という中途半端な有料制にすることで飼い主としての責任の所在をどこに置くのか
・保護猫をお金目的(?)に使っている
・サブスクがトライアル期間だと考えても、例えば子猫の可愛い時期だけを繰り返し搾取する狙いの人や、気分で保護猫をとっかえひっかえする人など、結果モノ扱いされる危険性がある
・猫を欲しいと言う人の中には虐待目的の人もいるので無条件譲渡は猫にとってリスク大
などなど、サブスクにすることで他にも色々問題点は出てくると思います。
保護団体さんが日々行っている命をつなぐことの難しさを「サブスク」のようなシステムで解決したいと考えたのであれば、以上のような問題点を踏まえ、もっと慎重に検討すべきだったと思います。
というわけで、今回は「ねこホーダイ」に関して、保護活動の現状も含め、思うことや問題点を自分なりにまとめてみました。
殺処分やロードキルで亡くなる不幸な子が減って、人と猫が共生できる優しい社会が今後ますます広がっていくことを祈っています