2010年9月19日(日) - 2 -


結局、弐号、参号の勢いのままに1階の掃除をすることになった。私と父は、リビングにある重たい荷物などを2階に運び、弐号、参号、妻は台所の掃除をすることに。


どうやらここからが本番だった。


私は台所にいなかったので、後から妻から聞いたはなしだが、それは壮絶だったという。


弐号と参号が掃除をしながら、使えそうなもの、持って帰れそうなものを見つけては、「あ、これ私持っていく」、「あ、これいいね」、「これ私いらないけど、あなたいる?」のオンパレード。途中まで手伝っていた妻も、手伝っていること自体がバカバカしく思えてきたと。


特に弐号がすごかった。たしかに、帰るときには弐号ひとりで大き目の袋3つぐらい車に運んでいた。


妻が言うには、都心と田舎ではゴミの分別が違うから、そこらへんをやってくれてたし、掃除してキレイになったし、そのまま置いといても腐ってしまうような野菜とか食べ物もあったから、結果として助かった面も多々ある。


けれども、あまりにもヒドイと。


そもそも、私達だってあと1日滞在予定で、その中で使うものもあるかもしれないし、別に生ものでも腐るものでもないような、日常生活で普通に使える大量の袋、タッパまでもっていってしまう始末。
食器とか調味料とかの配置も全部変えてしまっているし、同じ台所に立つ人間なら、自分で配置したものが、いつの間にか変えられていて、どこに何があるかわからない状況がどれだけストレスになるのかわかるものではないのか?と。


だいたい、「あ、これ私持っていく」って何?って。


掃除する泥棒ではないか。


結局のところ、掃除兼略奪行為は朝の9時頃から3時近くまで続いた。
2010年9月19日(日) - 1 -


母が倒れてから 48 時間経過している。
意識がないため、付き添っていても意味もなく、ただ様子を見ることぐらいしかできないため、本日は午後から病院に行くことにしていた。午前中は隣町の魚市場までお寿司を食べにいこうかと。約半年前に、母と妻と3人で食べに行った思い出がある。


電車の本数が少ないため、何時の電車で向かうかスケジュールをたてていたところで、携帯が鳴った。まだ9時前でだる。電話は妹参号からだ。


『今から妹弐号を連れて1階のお片づけの手伝いに行きます』そんな内容だった。


ほんとになんなんだ?別にお願いしてないし、まだ片づけるには早いだろ?
妻も予定していたスケジュールをつぶされて不機嫌だ。


数分して、弐号と参号が車で到着した。玄関に入ってくるなり2人は驚きの行動にでた。
玄関を見渡すなり、玄関から棺を入れることができるか、幅と高さを手で作って弐号と話し合いを始めたのだ。そして言い放った言葉。


「この棚が邪魔だね、この棚がなければ大丈夫。入れられるね」
「そうだね」


驚いた。
母はまだ病院で闘っている。生きている。
なのになんなんだ?
なんていう会話をするんだこの人達は。しかも、実の息子の目の前でだ。非常識にもほどがある。


しばらくして妹参号から連絡を受けて片づけの手伝いをするよう言われた父も到着した。


妹参号は私に、葬儀屋とお寺はどこにするかあらかじめ決めておけという。
ほんとになんなんだ。まだ亡くなってないし。
しかも、長年東京に住んでいる私に地元の葬儀屋の善し悪しなんてわかるはずもない。


言いかえれば、妹参号の言うがままにするしか選択肢がないというのが実情。
父がまともな人であればどんだけ助かったことか。


ただ、いざ、なにかあったとき、東京にいる私に代ってすべての段取りをできるのは妹参号をおいて他にはいない。ここがまた口惜しい。しつこいが、父がまともな人であればどんだけ助かったことか…


父が、そんなに急いで片づけなくても、ちょこちょこ片づけておくから大丈夫。帰っていいよということを柔らかく伝えると、弐号と参号の反撃がすごかった。


「そんなこと言って、病院から今連絡があったらどうするの?」、「夜中だったらどうするの?」、「すぐにここに連れてこなきゃいけないから掃除なんてしてられないんだよ!?」


ものすごい剣幕である。
ここまでくると、掃除して片づけたい別の理由があるとしか思いえない。
2010年9月18日(土) - 3 -


病院を後にしたときには、お昼ご飯の時間になっていた。
たしかにおなかもすいているのだけども、私は少し前からひどい頭痛に襲われていた。もともと頭痛持ちということもあるが、昨日からのストレスと睡眠不足と、極めつけは新幹線の中で無理な体勢で寝ていたことだと思う。


頭痛薬を飲むにもとりあえず何か食べたほうが良いと思い、学生時代によく行っていた定食屋に向かった。過去に妻も1度来たことがあり、妻もお気に入りの店である。父も一緒に食べると思いこんでいたけども、食べたばかりだから車の中で待っているという。きっと、3人で食べるのが気恥ずかしいのだと思う。そーいうところがある人だから。


病院から、定食屋までは車で5分もかからない距離なのだが、その車中で父はひっきりなしに「オレは大丈夫だと思うよ。元気になると思うよ。もちろん退院するまでには時間かかると思うけど」ということを繰り返していた。父が痴ほう症になったんじゃ?ってぐらい同じことを繰り返していた。言い聞かせているのか?


定食屋で昼食をすませ、薬局で頭痛薬を購入してから自宅に戻った。
とりえあず、近所の温泉に行くことにしたが、気がかりなのは外食予定であった外人さんである。
名前は母から聞いていたが、連絡先は知らないので連絡のとりようがない。でも、外人さんは今の状況を知るよしもないので、豪勢な食事を準備して待っているに違いない。外人さんが私達の家を知っていて訪ねてきてくれたり、電話で連絡してくれればいいのだけど…


温泉に向かう途中、昨日からの状況、現在の状況、自分の目で見た母の姿、自分の想い、さまざま感情が一気に襲ってきて、妻と会話することができなかった。ただ無言で歩いた。なんか言葉を発したら言葉をつまらせそうだったので。ここも変なプライドである。


温泉から戻り、自宅で一休みしているところで携帯が鳴った。正直、携帯が鳴るのは自分の心臓に悪い。
電話は父からで、なんでも今から母の妹が私達の家を訪ねるということだ。


母は5人姉妹で、母を壱号とすると、弐号と参号が地元に残っている。四号と伍号は東京近郊にいる。今から訪れるのは妹参号。


妹参号は、まず最初に、この家の1階を片づけて掃除しろということ。
私の母はいつ亡くなってもおかしくない状態なんだから、すぐに運び込んで準備、対応できるように片づけろと。退院してきたとしても今までのようには動けないと思うからとりあえず片づけろと。
あとは、母が倒れてから今までの経過を教えて頂き、妹参号の息子自慢をして、ほとんど一人で1時間強話し続けて帰って行った。


言っていることは間違っていない。


最悪の事態を想定して動くことは大切だし、正直、最悪の事態が発生する確率が50%と言われているらしいし。
ただ、どうしても妹参号の口ぶり、言い回し全てが亡くなること前提に聞こえるのが癪にさわる。
母が倒れてからいろいろ面倒見てもらっているのは感謝だし、妹参号の息子さん達が立派なのはわかる。
けど、母が生きるか死ぬかの瀬戸際のときに、その息子に取る態度ではないと思えた。


母を、そして私を、気遣うでも、心配するでもなく、何かあったら困るから片づけておいてと。
その態度はなんなんだ?
そう思ってしまうのは私がまだ子供だからなのだろうか・・・?


私は当事者だから、卑屈になってしまうのか?
とも思い、横で話しを聞いていた(ある意味)第三者である妻に話を聞いてみたところ、普通にヒドイと。とても退院を願っている態度ではないと。亡くなること前提の言い回しにしか聞こえないと・・・。


いつまでもそんなことを話し合っていても仕方ないし、そろそろおなかもすいてきたので晩御飯を食べたい。
が、しかし、今晩会食を予定していた外人さんが気がかりだ。ご飯を食べにでかけてから電話がかかってきたりしたら大変。
先日の母からのメールでは、こちらの外人さんはとっても料理が上手で、たくさんのご馳走を準備してくれる約束をしてくれたって言ってた。きっと、当初の予定どおりご飯を作ってくれているんだろうな・・・。状況が状況とはいえ申し訳ない気分になる。


すると、来客のチャイムが鳴った!外人さんかもしれない!
そして、その予想は当然のごとく的中した。
とりあえず、相手の名前を確かめて、母は入院している旨伝えて、お家の中にあがって頂いた。
私と妻のつたない英語で、状況を説明し、ネイティブの英語を必死でヒアリングして、受け答えする。
明日の17時に今日作った料理を持ってきてくれるというので、とりあえず、今日のところはここでバイバイ。


外人さんとコンタクトがとれたことで私達は安心で晩御飯を食べに出かけることができた。
家から約10分ぐらいのところにオイシイカレー屋さんがあるのでここで晩御飯を食べることにした。


意思の疎通が上手にできないのに、心配しているのが伝わってくる外人さんと、意思の疎通がとれる上、血のつながりがあるのに事務的な妹。外人がオーバーアクションであることを差し引いても、なんだかなぁ…という感じ。
まぁ、血がつながっている故に。という考え方もできなくはないが。


カレーを食べて終えて家に戻ってみると、玄関の前に何やら荷物が置いてあった。
玄関の前で妻とコレなんだろうね?みたいなハナシをしていると、隣のお家のおじさんとおばさんがでてきて、なんでも外人さんが荷物を持ってずーっと立ってたから、身振り手振りで玄関に置いておくように言っておいたのよ。とのこと。


さっき来た外人さんがわざわざ一旦戻って、今晩作ったご馳走を持ってまた来てくれたのだ!
明日の17時って言ってたのに!決して聞き間違いはないぞ。お互い時計を見て認識合わせもしたし。
カレーを食べてきてしまったから、とてもじゃないが全部は食べれないが、と、いうか仮にカレーを食べていなくても、全部食べれる量じゃない。


しかも涙が出るぐらいオイシイ…。感謝の言葉もない。
明日17時に来るっていうから、外人さんの連絡先を聞いてなかった…。今日ご飯を持ってきてくれたけど、明日の17時にも来てくれるだろうか・・・。もしも来てくれなかったらお礼が言えない。


明日も外人さんが来てくれることを節に願う。