窓辺から夕焼けの陰影を付けた雲を眺めながらの
ティータイム。
暫くして見慣れた形の雲にハッとする。
日興じゃないか。
横向きに天を駆け昇っている。
元気そうな姿を見せてくれたに違いない。
止まっているかのような遅い雲も、
凝視する束の間に崩れていく。
もう行ってしまったのか。
名残惜しく眺めていると、再び見慣れた形に
変化して行くではないか。
今度は向きを変えて、首を少し傾けたお得意の
ポーズでこちらに鼻を向けている。
こんなことがあるのか。
驚いて嫁さんを呼ぼうと席を立ちドアノブに
手を掛け振り返ると、たちまち崩れはじめて
消えてしまった。
雲を見るのは好きだ。
中学の英語の時間、授業に退屈して窓の外、
空を見上げていたら、先生に優しく名前を
呼ばれた。
そしてゆっくりと話し始めた。
「河童君……。何を見ているんだい?」
「雲を見ていました」
「なに! 雲を見ていたと……」
先生は笑顔で何度も頷きながら言った。
「詩人だね~」
クラスは爆笑に包まれた。
私はこの上品な先生が大好きだった。
※ 少しほっこりして頂けたでしょうか。
すべて実話です。