
2023シーズンに入ってはじめて氷ノ山に行った。
氷ノ山はご存じのとおり、兵庫県最高峰なのだが、私の家からは、12キロほどのところにある。
鉢伏山にあがり、そこから『ぶん回し』と呼ばれる登山コースで氷ノ山まで行くのが、私の定番コースだ。
途中ハチ高原のところに高丸山という標高860m地点を通過するのだが、そこはしばらく草原環境が美しい場所で、私もお気に入りのところである。
そこには、ウスイロヒョウモンモドキという絶滅危惧種が生息している。
実は、全国でも数カ所にしか生息が確認されていない本当に貴重なチョウだ。
かつては、中国山地のいたるところにいたそうなのだが、自然環境の変化で、絶滅危惧種となってしまった。
以前、ウスイロヒョウモンモドキの保護にあたっている近藤さんにお話を伺ったことがある。
ウスイロヒョウモンモドキは、幼虫の時期に、オミナエシを餌としている。
オミナエシは、盆花でさして珍しい花ではないのだが、ウスイロヒョウモンモドキは、いわゆる園芸種ではなく、自生種しか食べない。
自生のオミナエシは、草原環境の中で育つ花である。
で、その草原環境は実は、但馬牛と深い関係がある。
但馬牛はもともと農耕用として、飼育されている牛、つまりは耕運機としてどの家でも飼われていた。
地域の人は、農地以外を切り開き、そこを牧場として、牛を放牧していた。
なので、草原環境は山間部にいけばいたるところにあったのだ。
牛が農耕で使われなくなったのは、昭和30年代の後半ごろからである。
世の中にトラクターなどの機械が入り込んできたからだ。
牛が農耕用として使われなくなると、牧場も不要となり、そういう場所が少なくなっていったのだ。
日本は温暖な気候なので、草原環境を放置しているとやがて灌木が生え、森に戻ってしまうらしい。
ただ、そんな中でも草原環境が維持されている場所、それがスキー場である。
スキー場として維持するために、地元の人が草原環境を守ってきたので、ハチ高原からウスイロヒョウモンモドキがいなくならなかったのである。
生物多様性が言われるようになって久しい。
ハチ高原でも、ウスイロヒョウモンモドキを守るために、草原環境に柵をして、シカなどに、自生のオミナエシが食べられないような保護活動が続けられている。
生物の多様性が失われると、その便益を受けている我々人間は、さまざまな不利益を被ると言われている。
だからゆえに、保護活動をしているわけだけれど、根本的なところは、人間の生活が大きく変化してしまったことによる。
生物の多様性を守るための活動は、ある意味、腫瘍の切除に似ている。
人間の体に腫瘍ができるのは、さまざまな理由があるのだろうが、根本的には、健康が失われるからだ。
日々、健康が維持されていれば、腫瘍などが出ることもない。
ただ、出た腫瘍は切除することで、人はその命を長らえさせることができるのだ。
それは、対処療法にすぎない。
やはり食事、運動、睡眠など基本的な生活習慣を良好に保つことがもっとも心がけなければいけないことだ。
それは地球環境も同じだ。
局所的に対応するのではなく、環境を負荷を減らし、自然の営みが健全に営まれることが、もっとも大事なことだ。
高丸山の草原で走りながら考えていたことは概ねそんなことだった。