タイトルにあるこの言葉を初めて耳にしたのは、観光カリスマ山田桂一郎さんの著書ではなかったと思いますが、ふとその言葉を思い出しました。
ネットで検索すると、観光庁ビジョンが登場しました。
『住んでよし、訪れてよしの国づくり』
観光庁自らが、理念を策定しているというところが、他の省庁とは違う方向性を感じますね。
観光庁の設置は2008年で、観光カリスマの認定は、2002年~2005年にかけてということですから、観光庁のビジョン策定には、山田さんの言葉が大きく影響されているのではないかと思われます。
なぜ、ふとそんなことを思い出したのかということなのですが、先日のブログでも書いたように、私が住む大笹(世間一般にはハチ北地区と呼ばれています)が大きな転換を迎えようとしているからです。
私たちのムラは、スキー場として発展する前は、単なる一つの集落にすぎませんでした。
この地の先輩方が、意を決して、スキー場開設に踏み切り、私たちの集落はそれによっておおいに発展してきて、バブル期には隆盛を極めてきました。
今でも、関西随一のスキー場であると自負はしていますけど、私たちが住むハチ北は20年以上も止まったままになっています。
もし当時、先の10年、20年を考えて行動をしていたら、今はもっと違った形になっていたとは思います。
今、このような形で新たな資本が入り込んでしまったこと自体が、思考停止に陥っている結果でもあります。
私は、そのもっとも大きな原因の一つが、冒頭に述べた
『住んでよし…、訪れてよし…』の言葉の、特に『住んでよし…』の発想が欠落していたからだと思います。
私たちの先輩たちは、本当に頑張ってこられました。それは紛れのない事実です。
朝は4時5時におき、周囲の除雪からはじまり、食事の準備、館内清掃や接客、そして経理から、民宿ホテルのメンテナンスに至るまで、夜も遅く、寝る間も惜しんで働かれたという話はよく聞きますし、今でもあまりそれは変わっていない部分もあります。
しかし、私たち自身にとって豊かな生活とは何なのかということはあまり深く考えてこなかったと思います。
山奥のどんづまりで決して金銭的には豊かではなく、冬には出稼ぎに行くなど貧しかった時代を経験したけれど、自分たちもこの地に生きるものとして、どうしたら心地よく暮らせるかということにはあまり頓着してこなかったと思うのです。
敷地めいっぱいに建っている建物がある意味それを物語っていると思います。とにかく、自分がもっている土地に建てられる最大の箱を用意して、とにかくお客様を受け入れることそのことしか考えてこなかったのです。
私たちここに生きるものは、商売の場所=生活の場所です。
お客様を受け入れながら、自分たちもここで暮らしています。
だから、まずは自分たちが心地いいと思えるムラを作っていかない限りお客様に共感はしていただけないのです。
新しいプレイヤーがこの地でご商売を始められることになりますが、決定的に違うのは『私たちはここに住んでいる』ということです。
太陽が昇り、木々が芽吹き、川がせせらぎ、空が青く、風のにおいがし、そして満点の星がある…
自然の美しさ、土地がもつ力強さ、弱さ…そういったものを知り尽くしている私たちが住人であり、ホストなのです。
その強みを最大限に発揮するためには、もっと私たち自身が、この地で生きることを『実感』していかなくてはならないと思います。
お客様はある意味、田舎の日常の豊な暮らしを体験したいと考えておられます。自らがそれを実践しない限り、それはお客様には伝わらないのです。