東京で開催されている、2021年ピティナピアノコンペティション(公式サイトはこちら)。
7月31日、8月1日は、特級の2次予選の第1、2日。
結果については先日の記事に書いたが(その記事はこちら)、今回は備忘録として各演奏のごく簡単な感想を追記したい。
ちなみに、2021年ピティナピアノコンペティション特級についてのこれまでの記事はこちら。
(2021年ピティナ・ピアノコンペティション特級 1次予選通過者発表)
第1日(7月31日)
1.齋藤 陽花 (Saito Youka)
J.S.バッハ:トッカータ ホ短調 BWV914
ショパン:エチュード イ短調 Op.25-11 「木枯らし」
リスト:2つの伝説 S.175
推進力のあるバッハが良い。
ショパンやリストも誠実な感じのする丁寧な演奏だが、華麗さは(技巧面でも音色面でも)あまりないか。
2.山田 ありあ (Yamada Aria)
ショパン:エチュード ヘ長調 Op.25-3
D.スカルラッティ:ソナタ ホ長調 K.162/L.21
シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17 第1楽章
ラヴェル:夜のガスパール より 「オンディーヌ」
明るい音色によるスカルラッティが良い。
ショパンやシューマンも味があるがミスはややみられる。
ラヴェルは技巧的に苦しい印象(右手の和音連打にムラあり)。
3.藤澤 亜里紗 (Fujisawa Arisa)
D.スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27/L.449
D.スカルラッティ:ソナタ ト長調 K.427/L.286
ラヴェル:夜のガスパール
ショパン:エチュード イ短調 Op.10-2
こちらは技巧的により安定しており、スカルラッティなど鮮やかだが、ラヴェルは難曲のためか、「オンディーヌ」の右手和音や「スカルボ」の同音連打の音抜けが目立ってしまっている。
4.森永 冬香 (Morinaga Fuyuka)
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」 S.161 より 「ペトラルカのソネット 第104番」
ラヴェル:ラ・ヴァルス
バッハは素朴な味があり良いが、ショパンは技巧的にやや苦しいか。
リストやラヴェルも雰囲気は出せているが(ラヴェルのグリッサンドや終盤の追い込みはなかなか)、ミスはややあり、また強音が硬め。
5.嘉屋 翔太 (Kaya Shota)
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻 第16番 ト短調 BWV885
ショパン:エチュード 変イ長調 Op.10-10
プロコフィエフ:ピアノソナタ第9番 ハ長調 Op.103
技巧面で余裕があり、バッハはフーガで痛いミスはあったものの全体的には悪くなく、ショパンはかなりスムーズ。
プロコフィエフも雰囲気がある(終楽章はさらにキレが欲しかったが)。
6.山崎 佑麻 (Yamasaki Yuuma)
ショパン:エチュード ホ短調 Op.25-5
ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
ラフマニノフ:ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.36(1931年版)
こちらも技巧的に安定し(難しいショパンop.25-6も鮮やかとまでは言わないが弾けているほう)、またラフマニノフに合った力強い音を持つが、表現がやや直線的というか、陰影に乏しいきらいはある。
7.髙尾 真菜 (Takao Mana)
シューマン:謝肉祭 ~4つの音符による面白い情景~ Op.9
ショパン:エチュード 変ニ長調 Op.25-8
シューマン、全体的に生真面目というか、この曲らしい覇気や色気、登場人物のめくるめく変化といったところはあまり感じられない。
ショパンは、鮮やかとはいわないが弾けているほうか。
8.五条 玲緒 (Gojo Reo)
J.S.バッハ=リスト:オルガンの為のプレリュードとフーガ BWV543
ショパン:エチュード ロ短調 Op.25-10
スクリャービン:ピアノソナタ第5番 Op.53
弱音が美しく、独特の雰囲気を出せている。
ただ強音はやや力みがあるか(バッハよりリストらしさを重視?)。
テクはまずまずだが、スクリャービンなどさらにキレが欲しくはある。
9.千葉 まりん (Chiba Marin)
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻 第7番 変ホ長調 BWV876
ショパン:エチュード ハ長調 Op.10-1
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.760 「さすらい人幻想曲」 (全曲)
技巧的に安定感があり、ショパンop.10-1も危なげなく弾けている。
ただ音楽面はこれからといった印象で、渋いシューベルトの曲よりも(しっかり弾けてはいるのだが)他の華やかな曲のほうが良かったか。
10.石津 若葉 (Ishizu Wakaba)
ショパン:エチュード 変ト長調 Op.10-5 「黒鍵」
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16
こちらはより音楽的な演奏だが、技巧的には丁寧ではあるものの華麗さにはやや欠けるか(ショパンop.10-5やラフマニノフop.16-4ではもう少し攻めの姿勢があると良いかもしれない)。
11.浦野 未友花 (Urano Myuka)
J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911
ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
ラフマニノフ:ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.36(1931年版)
バッハのフーガ部分の急速な「タッタカ」のリズムや、ショパンの右手三度など、技巧的な苦しさがやや目立つか。
ラフマニノフでは痛い暗譜飛びもあった。
12.進藤 実優 (Shindo Miyu)
ショパン:バラード第3番 変イ長調 Op.47
ショパン:ノクターン第13番 ハ短調 Op.48-1
ショパン:エチュード ハ長調 Op.10-1
ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
例によって特別な集中力をみせる。
先日のショパンコンクール予備予選(その記事はこちら)に合わせたオール・ショパン・プログラムだが、エチュードなど少し曲を変えてきているのが意欲的で、演奏の質も高い。
13.岸本 隆之介 (Kishimoto Ryunosuke)
ショパン:エチュード イ短調 Op.25-11 「木枯らし」
チャイコフスキー:ドゥムカ Op.59
リスト:スペイン狂詩曲 S.254
鳴りっぷりのよい充実した強音が聴かれる。
しかし、ショパンやリストでは技巧的な苦しさが出てしまっている(チャイコフスキーではそれが目立たず好印象だが)。
第2日(8月1日)
14.岩井 亜咲 (Iwai Asaki)
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第11番 ヘ長調 BWV880
ショパン:エチュード ヘ長調 Op.10-8
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
ドビュッシー:前奏曲集 第2巻 より 「ヒースの茂る荒れ地」「花火」
ロマン的かつ端正な音楽性を持つ。
技巧的には、「花火」で多少のタッチムラもあるものの全体的には音楽性でカバーできている(と思ったが残念ながら落ちてしまった)。
15.山本 悠流 (Yamamoto Yuuri)
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
ショパン:エチュード 変ホ長調 Op.10-11
シマノフスキ:変奏曲 変ロ短調 Op.3
アンダンテ・スピアナートは先ほどの岩井亜咲に劣らず美しく、エチュードop.10-11やシマノフスキもロマン的で良い。
技巧的にも大きな問題なく、3次に進むと思ったが落ちてしまった。
16.眞鍋 杏梨 (Manabe Anri)
J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911
ショパン:エチュード 変イ長調 Op.10-10
三善晃:ピアノソナタ
弱音主体のロマンティックな独自の音楽性を確立している。
3次に進んでほしかったが、ショパンでミスがかなり多く(雰囲気は良いのだが)、これが響いたか残念ながら落ちてしまった。
17.古内 里英 (Furuuchi Rie)
J.S.バッハ:トッカータ ニ長調 BWV912
ショパン:エチュード 変イ長調 Op.10-10
ラヴェル:ラ・ヴァルス
明るく爽やかな情感に満ちた演奏。
技巧的にも安定しており(バッハの終盤の急速アルペッジョはやや危ういが)、3次に進みそうかと思ったが残念。
18.野村 友里愛 (Nomura Yuria)
J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911
ショパン:エチュード ホ短調 Op.25-5
ベッリーニ=リスト:「ノルマ」の回想 S.394
やや直線的な音楽ではあるが、しっかりした力強い音を持つ。
技巧面もなかなかのもの(リストは左手連続オクターヴや跳躍和音などもう少し華麗に決めてほしいが、充実した音は出ている)。
19.福田 優花 (Fukuda Yuuka)
J.S.バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911
ショパン:エチュード 変イ長調 Op.10-10
リスト:メフィストワルツ第1番 「村の居酒屋での踊り」 S.514
スクリャービン:ピアノソナタ第9番 Op.68 「黒ミサ」
そつなく仕上げた、安定感のある演奏。
強音が硬めなのと、全体的にやや安全運転気味なのが気にはなるが(リストなどもっと勢いが欲しい)、攻めすぎて崩壊するよりは良い。
20.遠藤 詩子 (Endo Utako)
シューベルト:ピアノソナタ第7番 変ホ長調 D.568 第1楽章
シューベルト=リスト:セレナード「聞け、聞け、ひばり」
シューベルト=リスト:糸を紡ぐグレートヒェン
ショパン:エチュード ハ長調 Op.10-1
プロコフィエフ:ピアノソナタ第4番 ハ短調 Op.29 「古い手帳から」
軽めのはきはきしたタッチによる、趣味の良い演奏。
彼女に合った選曲と思われ、ショパンやプロコフィエフでは技巧面もアピールできており、3次に進むかと思ったが残念。
21.大野 謙 (Ohno Ken)
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻 第12番 ヘ短調 BWV881
ショパン:エチュード 変イ長調 Op.10-10
スクリャービン:ピアノソナタ第5番 Op.53
リスト:巡礼の年第1年「スイス」 S.160 より 「オーベルマンの谷」
リストらしい力強い音を持つが、表現の陰影には乏しいか。
技巧面でも、スクリャービンなどややぼてっとしており、もう少し和音のスタッカートの粒の揃え方やペダリングにキレが欲しい。
22.原田 莉奈 (Harada Rina)
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」 S.161 より 「ダンテを読んで -ソナタ風幻想曲-」
指回り、音の充実、音楽性いずれも水準以上のバランス型の好演。
妙なクセもなく、完成度高く仕上げてきている。
順当にいけば上位に進みそう。
23.村上 智則 (Murakami Tomonori)
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
ショパン:エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
ベッリーニ=リスト:「ノルマ」の回想 S.394
バッハ、先ほどの原田莉奈とはまた違った味があり甲乙つけがたい(原田莉奈を無地とするとこちらは木目調のイメージか)。
ただ、他の曲では技巧面の弱さがみられる(リストの跳躍部分など)。
24.今泉 響平 (Imaizumi Kyohei)
D.スカルラッティ:ソナタ ヘ短調 K.466/L.118
ショパン:エチュード ハ短調 Op.10-12 「革命」
ショパン:ピアノソナタ第3番 ロ短調 Op.58
グールドのように低い椅子、薄いペダリングによる音の明瞭度の高い個性的な演奏で、ショパン第1楽章の対位法的処理など聴き物。
風変わりだがグールドよりは常識的な解釈でとっつきやすい。
25.佐藤 祐希 (Sato Yuuki)
クープラン:クラヴサン曲集 第4巻 第25組曲 より 「幻影」「彷徨う亡霊たち」
ショパン:エチュード ロ短調 Op.25-10
スクリャービン:ピアノソナタ第10番 Op.70
スクリャービン:詩曲「焔に向かって」 Op.72
こちらも負けず劣らず個性的な演奏で(服装も)、同じように柔らかで明瞭度の高い歌を持ち、バロック音楽によく合うし、スクリャービンも瞑想的でありながらペダルを濁さず響きの明快さをよく保っている。
なお、結果については先日の記事(その記事はこちら)を参照されたい。
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