(チョ・ソンジンの新譜 シューベルト さすらい人幻想曲 ベルク リスト ピアノ・ソナタ) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

好きなピアニスト、チョ・ソンジンの新譜が発売された(Apple MusicCD)。

曲目は、シューベルトの「さすらい人幻想曲」、ベルクのピアノ・ソナタ、リストのピアノ・ソナタである。

詳細は以下の通り。

 

 

 

 

 

 

 


研ぎ澄まされたタッチと卓越した感性が生み出す儚き美の世界!

ショパン・コンクールの覇者、チョ・ソンジン5枚目のアルバムは、2019年秋の東京でのリサイタルでも披露され、聴衆の度肝を抜いた3曲。研ぎ澄まされた美音と、抑制されるがゆえに危険さを孕む狂気。チョ・ソンジンの新たな一面を垣間見せる名盤の誕生です。
 シューベルトが自作の歌曲『さすらい人』を第2楽章の変奏主題に用いた『さすらい人幻想曲』。シューベルト自身が上手く弾けず「こんな曲は悪魔にでも弾かせてしまえ」と言ったと伝えられるほど高度な演奏技術が求められる作品で、リストがロ短調ソナタを作曲する上で大きな影響を与えたといわれています。そして、そのリストのロ短調ソナタから強い影響を受けたベルクのピアノ・ソナタをカップリング。(輸入元情報)

【収録情報】
1. シューベルト:幻想曲ハ長調 Op.15, D.760『さすらい人』
2. ベルク:ピアノ・ソナタ Op.1
3. リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178


 チョ・ソンジン(ピアノ)

 録音時期:2019年6月(1,2) 2019年10月(3)
 録音場所:ベルリン(1,2) ハンブルク(3)
 録音方式:ステレオ(デジタル)

 

 

 

 

 

以上、HMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

シューベルト→リスト→ベルクとつながる独墺系ピアノ・ソナタの単一楽章形式への道をたどった、興味深いプログラム構成。

 

 

シューベルトの「さすらい人幻想曲」で私の好きな録音は

 

●Ho Yel Lee (Pf) 2017年モントリオールコンクールライヴ(動画

 

あたりである。

ベートーヴェンにおける「ヴァルトシュタイン」ソナタと同様、シューベルトの中期様式の幕開けを高らかに告げるこの曲にふさわしい、端正ながら決然とした輝かしい演奏。

これに比べると、今回のチョ・ソンジンの演奏はややロマン的な印象を受ける。

この曲のロマン的な演奏というと、私は石井楓子によるドイツ・ロマン派風の憂いを湛えた名演を思い出すのだが(その記事はこちら)、チョ・ソンジンはそれともまた違った、ショパン寄りともいうべき洗練されたフランス風ロマンである。

ショパン寄りといっても、様式的な違和感が気になるわけではなく、これはこれで美しいし、完成度も高い。

「ベートーヴェンを意識したシューベルト」を思わせる上記Ho Yel Leeの演奏のほうがこの曲のイメージにより近い気はするけれど、そのあたりは好みの問題もあるだろう。

少なくとも、この曲のCD録音の中では第一に推せるかもしれない。

 

 

ベルクのピアノ・ソナタは、まだこれといった好きな録音を見つけていない。

きわめてゆっくり歌わせるグレン・グールド(ストックホルムライヴ盤)、サクサクしたイヴォンヌ・ロリオ、澄んだ音色の井上直幸あたりは個性が出ていて印象に残っているが、「これでなければ」というほどかといわれると難しいところ。

今回のチョ・ソンジンは、これらの個性的な演奏に比べるとすらりとスマート、スタンダードに美しく仕上がっており、これはこれで良い。

 

 

リストのピアノ・ソナタで私の好きな録音は

 

●ツィメルマン(Pf) 1990年セッション盤(NMLApple MusicCD

●デミジェンコ(Pf) 1992年セッション盤(CD

 

あたりである。

これらのどすの利いた演奏に比べると、今回のチョ・ソンジンの演奏はややおとなしい。

ゲーテの「ファウスト」を意識して作曲され、減七の和声をこれでもかと使用し、ヴァーグナーの「ラインの黄金」にさえ影響を与えたかもしれない、作曲当時最先端の前衛音楽だったこの曲。

その演奏はやはり、ヴァーグナーのように凄みをきかせてほしい。

チョ・ソンジンが弾くと品が良く、さらさらときれいに流れてしまう。

第2主題も、中期ロマン派特有の濃厚な憧憬をもっと感じさせてほしいところ。

逆に、ヴァーグナーらしさを排した、端正な古典的アプローチによる名演もあった(リード希亜奈の演奏会、その記事はこちら)。

チョ・ソンジンは、ツィメルマンやデミジェンコのやり方と、リード希亜奈のやり方の中間くらいで、ややどっちつかずの感がなくはない。

と色々文句を書いたものの、完成度はやはり高く、フガート部分など大変鮮やかで聴きごたえがある。

この曲はコンクールでよく演奏されるが、これだけの完成度で弾かれることはめったにない。

 

 

なお、チョ・ソンジンのこれまでのCDについての記事はこちら。

 

チョ・ソンジンの新譜 ドビュッシー ピアノ曲集

チョ・ソンジンの新譜 モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 ピアノ・ソナタ第3、12番

 

 


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