小林愛実 ピアノリサイタル
~巡る季節に聴く未来の音粒 Ⅱ~
【日時】
2018年11月18日(日) 開演 14:00 (開場 13:30)
【会場】
音楽サロン「A・PIACERE in 豊田」 (愛知)
【演奏】
ピアノ:小林愛実
※使用楽器 スタインウェイD-274
【プログラム】
ショパン: 華麗なる変奏曲 変ロ長調 op.12
ショパン:ノクターン 第17番 ロ長調 op.62-1
ショパン:マズルカ 第13番 イ短調 op.17-4
ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 op.54
ブラームス:4つの小品 op.119
シューマン: 謝肉祭「4つの音符による面白い情景」 op.9
※アンコール
ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調 (遺作)
小林愛実のピアノリサイタルを聴きに行った。
彼女の演奏は、これまで中ホール以上の規模の会場でしか聴いたことがなく、今回のような約50名収容の小ホールで聴いたのは初めてである。
彼女自身、こういったホームコンサート風の規模の演奏会は、これまでほとんどしたことがないとのことであった。
何とも贅沢な会である。
聴いてみると、やっぱり彼女は山本貴志などと同様、大ホールにも耐えうる大きな音を持ったコンサートピアニストであり(もっと音が小さいイメージだったが)、小ホールで聴くと音が鳴りすぎてもったいないくらいに感じた。
もちろん、演奏自体は素晴らしいものだった。
最初は、ショパンの華麗なる変奏曲。
この曲で私の好きな録音は、
●プーン(Pf) 2013年1月19日モントリオールライヴ(動画)
あたりである。
今回の小林愛実の演奏は、音楽性という点ではプーンに全く劣らず、さらにヴィルトゥオーゾ的な華やかさ、きらびやかさの付与された、最高の名演だった。
彼女はショパンコンクールで「序奏とロンド」op.16を弾き、これがまた大変な名演だったけれど、こうしたショパン初期特有のセンチメンタリズムとヴィルトゥオーゾ風センスを要するコンサート・ピースを演奏して、彼女の右に出る者はそう多くあるまい。
次は、ショパンのノクターン第17番。
この曲で私の好きな録音は、
●トリフォノフ(Pf) 2010年ショパンコンクールライヴ盤(CD)
●ケイト・リウ(Pf) 2015年ショパンコンクールライヴ盤(CD)
あたりである。
今回の小林愛実の演奏は、彼女ならではの耽美的な音楽性が存分に発揮された美しいものだった。
音楽の流れがやや滞りがちな面はあったけれど、それでも例えば再現部冒頭の、連続トリルおよび音階上行装飾音型の流麗かつ繊細な美しさ(強音に始まり、徐々にデリケートな弱音へとディミヌエンドしていく…)など、印象的な箇所が多々あった。
次は、ショパンのマズルカ第13番 イ短調 op.17-4。
この曲で私の好きな録音は、
●ホロヴィッツ(Pf) 1971年4月14日セッション盤(CD)
●小林愛実(Pf) 2015年ショパンコンクールライヴ盤(CD)
あたりである。
つまり、彼女の得意曲。
この曲に込められた、ショパン特有の果てしない孤独、寂莫、不安感を洗練された妖艶さをもって表現しえた演奏を、上記2盤以外に私は知らない。
今回の実演も期待通りの名演で、生演奏だとCDで聴く以上に細かなニュアンスがよく伝わってくる。
次は、ショパンのスケルツォ第4番。
この曲で私の好きな録音は、
●山本貴志(Pf) 2005年ショパンコンクールライヴ盤(CD)
●チョ・ソンジン(Pf) 2009年浜コンライヴ盤(CD)
あたりである。
この2つのあまりにも流麗な演奏に比べると、今回の小林愛実の演奏はやや分が悪いかもしれない。
彼女らしく、この曲のデモーニッシュな側面を強調した演奏だったが、やや重い印象を受けた。
ショパン円熟期の傑作であるこの曲では、そうした「陰」の面はほのめかす程度にとどめ、あくまで「陽」の面、すなわち明朗さや流麗さを前面に出す、そんな演奏が私としては好みである。
次は、ブラームスの「4つの小品」op.119。
この曲で私の好きな録音は、
●石井楓子(Pf) 2018年リーズコンクールライヴ(動画) ※07:00あたりから
あたりである。
晩年のブラームスの瞑想そのもの、と言いたい石井楓子の演奏に対し、今回の小林愛実の演奏は遅めのテンポによる耽美的な演奏だった。
まるでショパンのノクターンを聴いているような、不思議な感覚に襲われるけれど、ロマン的情緒にあふれ、美しい。
ブラームスがショパンから受けた多大なる影響について改めて考えさせられるという意味でも、大変興味深い演奏だった。
休憩をはさんで、最後はシューマンの「謝肉祭」。
この曲で私の好きな録音は、
●佐藤卓史(Pf) 2009年4月17日横浜ライヴ盤(CD)
●コチュバン(Pf) 2017年モントリオールコンクールライヴ(動画)
あたりである。
飛び跳ねる魚のように自由で生き生きとしたコチュバンに、あくまでクールさを保った佐藤卓史と、それぞれ違いはあるけれど、ともに躍動感に満ち溢れた名演。
今回の小林愛実の演奏は、これら2盤ほどの躍動感はなく、ややおとなしかったけれど、それでもあらゆるフレーズに艶のようなものがあって、決して味気なくならない。
そして、「オイゼビウス」や「ショパン」といったロマンティックな箇所は、まさに彼女の真骨頂であった(後者など、本当にショパンの曲のように聴こえるほど)。
(画像はこちらのページからお借りしました)
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