「W.A.モーツァルト」
- デュルニッツ男爵のためのソナタ集 全6曲 -
第2日
【日時】
2018年6月8日(金) 開演 20:00 (開場 19:30)
【会場】
カフェ・モンタージュ (京都)
【演奏】
ピアノ:松本和将
【プログラム】
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 K.282
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第5番 ト長調 K.283
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第6番 二長調 K.284
カフェ・モンタージュのコンサートを聴きに行った。
昨日に引き続いて、モーツァルトの初期ピアノ・ソナタ6曲の2夜連続演奏会、その第2夜である。
ピアノは、松本和将。
モーツァルトのピアノ・ソナタ第4~6番に関しては、昨日の第1~3番と同様、私はやはり
●ピリス(Pf) 1974年1、2月セッション盤(CD)
●シフ(Pf) 1980年セッション盤(CD)
の2種の録音が好きであり、また第4番に関しては
●矢野雄太(Pf) 2015年浜コンライヴ盤(CD)
も好きで、あと実演では中川真耶加の演奏も忘れがたい(そのときの記事はこちら)。
今回の松本和将の演奏は、昨日の第1~3番と同様、ドイツ風の重厚な味わいを持つものだった。
さらに言うと、バックハウスの弾くモーツァルトを思わせた。
一口に「ドイツ風」といっても、例えば同じドイツ人のギーゼキングのモーツァルトとは、全く違ったアプローチである。
ギーゼキングとバックハウス。
この2人の弾くモーツァルトの違いを端的に表現した文章として、少し長くなるけれど、吉田秀和著「ピアニストについて」より一部引用したい。
「モーツァルトのピアノ曲の演奏についてはいろいろなアプローチがありうるわけだが、バックハウスのそれは、ひと口にいえば、ヴァルター・ギーゼキングと反対のところにある。ギーゼキングは、今世紀前半のモーツァルトのピアノ演奏の一番重要な土台をおいた大家であるが、そのギーゼキングのアプローチの基本は、モーツァルトを最も理想的なロココの音楽家として扱うことにあった。いわゆる真珠の玉をならべたようなレガート、あくまで澄んで円い音、音楽の線と輪郭のきっちりと明確な造型、しかも、全体は高雅優美であると同時に、軽快な戯れにみちた音楽。ここでのモーツァルトは、繊細な情感のゆらめきや神秘な明暗のニュアンスと無縁ではないにしろ、結局はそれらすべてに行きすぎを許さず、均衡と抑制のとれた、清澄でしかも自由な光にみちた音楽家であった。(中略)
しかし、バックハウスのモーツァルトはちがう。そのモーツァルトは、ピアノに対して、チェンバロその他の鍵盤楽器の姉妹たちの中での末娘でありながらも、明日になれば、未聞の烈しい情熱のダイナミックな劇の演じられる舞台となるよう運命づけられてもいれば、またこれまでの作曲家が手にしえたものをはるかに越えて彼らしい音楽の組合わせと色彩の氾濫を呼び起こす魔力でもっと大ぜいの聴衆を呪縛したり魅了したりすることもできれば、逆に烈しい人間嫌いと孤独にとじこめられ、理想主義的な憧れに身をさいなまれた人間の告白の唯一の聴き手になりうる素質にもめぐまれている、そういう楽器としての未来を、すでに充分すぎるほど予感している、そういう天才としてのモーツァルトである。これはバックハウスの主観的な解釈ではなくて、モーツァルト自身が、このことを疑いようもなく明確に、作品の中で示している事実である。」
私のイメージするモーツァルト演奏は、どちらかというと、ギーゼキングのほうのモーツァルトである(上記のピリス盤やシフ盤は、ギーゼキングのほうのやり方から派生したアプローチと思われる)。
それに対し、松本和将の演奏は、バックハウスのほうのモーツァルトに近いように私には感じられる。
逞しいタッチといい、深めに踏まれたペダルといい、松本和将のモーツァルトは、明らかにベートーヴェン以降の絢爛たるピアノの発展を予告している。
特にソナタ第6番は、モーツァルトの初期の6つのピアノ・ソナタの中でも大規模な曲であり、松本和将が弾くと力強いユニゾンといい華麗なトレモロといい、さながらベートーヴェンの同じ調性の大きなソナタ、第7番のようだった。
吉田秀和の指摘するとおり、こうした点もまた、モーツァルトの重要な側面の一つというべきだろう。
モーツァルトは、彼の先輩格の作曲家たち、シュターミツ父子やハイドン兄弟らの作風をただ受け継ぎ、まとめ上げただけの人では決してなかった。
ともあれ、松本和将。
今回のコンサートを機に、モーツァルトのピアノ・ソナタ全曲連続演奏会、そしてベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲連続演奏会を開いてはくれないものだろうか。
なお、7月18日にはブラームスのピアノ・ソナタ第3番の演奏会が予定されており、こちらも楽しみである。
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