「弦楽四重奏」 - ラズモフスキー第1番
【日時】
2018年5月31日(木) 開演 20:00 (開場 19:30)
【会場】
カフェ・モンタージュ (京都)
【演奏】
第1ヴァイオリン:漆原啓子
第2ヴァイオリン:上里はな子
ヴィオラ:臼木麻弥
チェロ:大島純
【プログラム】
ホフシュテッター:弦楽四重奏曲 ヘ長調 《ハイドンのセレナーデ》 (1772)
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 作品59-1 《ラズモフスキー第1番》 (1806)
昨日に引き続き、カフェ・モンタージュの演奏会に行った。
昨日のピアノ五重奏のメンバーから、ピアノの松本和将が抜け、弦楽四重奏になった形である。
やっぱり、ヴァイオリンの2人が良い。
第1ヴァイオリンの漆原啓子は、音程など完璧というわけではないけれど不安定ではないし、何より音が「立って」いて第1ヴァイオリンらしい華がある。
第2ヴァイオリンの上里はな子は、音の丁寧さ、完成度という点で漆原啓子にもまさるほどで、そのうえ彼女の音にはヨーロッパの香り、それも中欧のずっしりとした味わいがある。
この2人が第1、第2ヴァイオリンというのは、何とも贅沢な布陣だと思う。
それを支えるヴィオラとチェロも、磐石である。
ヴィオラの臼木麻弥は、音量・音色はやや地味だけれど、演奏の完成度が高く、内声をしっかり引き締めている。
チェロの大島純は、音程はやや不安定だが、温かみのある音色が魅力。
四者四様なのだが、合奏すると音楽性がぴたっとそろうのはさすがである。
前半のホフシュテッターの弦楽四重奏曲は、長らくハイドンの曲として親しまれてきた、有名な「ハイドンのセレナーデ」を含むもの。
約50年前に、ハイドン作ではないと判明したらしい。
今回のコンサートのプログラムはもともとベートーヴェンだけが予定されていたのだが、この日がハイドンの命日ということで、せっかくなのでこちらの曲も演奏されることになったらしい(上記のとおり偽作だけれど)。
全体に、もっぱら第1ヴァイオリンが活躍する原初的な形式の弦楽四重奏曲だが、聴いていて耳に心地良い。
第2楽章の有名なセレナーデでは、弱音器をつけて思うままに歌わせる漆原啓子のヴァイオリンが美しかった。
後半は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番。
「ラズモフスキー第1番」とも呼ばれるこの曲だが、私の好きな録音は
●ハーゲン四重奏団 2002年4月セッション盤(NML/Apple Music/CD)
あたりである。
高度に洗練されていながらも、ベートーヴェンらしい力強さやぬくもりも感じられる、最高の名盤である。
今回の漆原啓子らの演奏には、これほどの洗練はなかったけれど、ベートーヴェンにはどうしても欠くことができない力感が十分に感じられた。
全体的に、上記ハーゲン四重奏団盤や、あるいはアルバン・ベルク四重奏団盤、ジュリアード四重奏団盤などよりもやや遅めのテンポで、じっくりと腰を据えて弾き進められた。
かつてピアニストのグレン・グールドがベートーヴェンの「皇帝」を弾いた際、速いテンポと遅いテンポの2通りを用意して指揮者のストコフスキーに選んでもらったところ、グールドにとって嬉しかったことにストコフスキーは遅いほうを選び、オーケストラに向かって「諸君、エロイカのテンポでやる」と宣言したという。
本日のラズモフスキー第1番も、「エロイカのテンポ」だと感じた(ちなみに、ラズモフスキー第1番とエロイカ交響曲は近い時期に書かれた作品)。
堂々たる歩みの、充実した演奏。
ベートーヴェン好きにはたまらない。
漆原啓子はもちろんだが、やはりここでも上里はな子が素晴らしく、第1楽章のヴィオラから第2ヴァイオリンへと引き継がれるアルペッジョだとか、終楽章の慎ましい第2主題だとか、こうした何気ないところでも第2ヴァイオリンが光っていて、つい耳が行ってしまう。
とはいっても、誰かが突出しているというよりは、全体として穴のない演奏だったと思う。
なお、彼らは東京でも演奏会を予定しているらしい。
6月9日土曜日の16時、目黒区のプリモ芸術工房という会場である。
本日の2曲に加え、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番が奏される。
関東の方々にもぜひお聴きいただきたい。
なお、こちらのポスターには「ハイドンの弦楽四重奏曲第17番」と書かれている。
本日のカフェ・モンタージュのポスターには、「ホフシュテッターの弦楽四重奏曲」とある。
カフェ・モンタージュのマスターのこだわりが窺えて面白い。
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