近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2018
【かがり火オペラ】 パーセル:歌劇『ディドとエネアス』(全3幕/英語上演・日本語字幕付)
【日時】
2018年5月4日(金) 時間 19:00~20:00
【会場】
びわ湖ホール 湖畔会場 (滋賀)
【演奏・スタッフ】
指揮:大川修司
演出:中村敬一
リュート:笠原雅仁
チェンバロ:梁川夏子
リコーダー:中村洋彦、井上佳代
管弦楽:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
キャスト:びわ湖ホール声楽アンサンブル
ディド 船越亜弥
エネアス 内山建人
ベリンダ 飯嶋幸子
第2の侍女 藤村江李奈
魔法使いの女 益田早織
第1の魔女 吉川秋穂
第2の魔女 溝越美詩
魔法使いの女の精 山際きみ佳
第1の水夫 島影聖人 *
合唱 熊谷綾乃、川野貴之、蔦谷明夫、坂東達也、五島真澄、宮城島康
*びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー
【プログラム】
パーセル:歌劇『ディドとエネアス』
近江の春 音楽祭で、私の聴いた6番目(最後)の公演。
びわ湖ホールのそばの湖畔に特設会場を設営し、かがり火を焚きながらオペラを上演する、という洒落た企画である。
曲は、パーセルの「ディドとエネアス」。
イギリスの作曲家パーセルによって1680年代に作曲されたこの曲は、1時間ほどの短いオペラだが、彼の代表作となっている。
ドビュッシーは、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を聴いて“ヴァーグナーの「パルジファル」以来の傑作”と評したらしいけれども、この表現を借りると、この「ディドとエネアス」は、1642年に初演されたモンテヴェルディの最高傑作「ポッペアの戴冠」以来の傑作、と言っていいように思う。
そして、「ポッペアの戴冠」は大変な傑作ながら、残念なことに歌と低音部しか現存せず、管弦楽部分が演奏者によって全く違った曲になっていることを考えると、「ディドとエネアス」は、ペーリからヘンデルまでの一世紀半にもわたるバロック・オペラの歴史の中でも、最高峰の作品と言ってもいいのかもしれない。
「ディドとエネアス」における真に迫った嘆きの表現は、バロック・オペラとしては異色なほどであり、のちのロマン派のオペラと比べてもひけを取らないばかりか、むしろその簡素な表現の切実さにおいて優っているともいえる。
この曲の録音では、
●クルレンツィス指揮ムジカエテルナ 2007年4月セッション盤(NML/Apple Music/CD)
が群を抜いて素晴らしく、クルレンツィスの世評高いモーツァルトのダ・ポンテ三部作の録音にも並ぶ、最高の名演となっている。
ドラマティックな序曲もそうだし、特に第3幕第2場の嘆きの表現の美しさは、バロック・オペラであることを忘れさせるほど。
それでいて、決して19世紀ロマン派的な演奏にはなっておらず、バロック音楽ならではの清冽さが保たれている。
今回のびわ湖ホールでの演奏は、上記クルレンツィス盤と比べてしまうとさすがに分が悪いし、また音量が小さくてもいいのでできればマイクで音を増幅せず生音で聴きたかったけれど、それでも良い演奏だったと思う。
かなり肌寒さの残る5月初旬の夜の野外で、歌手たちは寒さを全く感じさせない堂々たる歌唱と演技をみせてくれた。
小人数による管弦楽も、リュートやリコーダーをはじめ、各楽器の素朴な音色を楽しむことができた。
そして、悲劇の進行とともに日が没し暗くなっていく琵琶湖や比叡の山々が、大変に美しかった。
このような企画は、ぜひ来年以降も続けてほしいと思う。
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