ラ・プティット・バンド
【日時】
2017年10月9日(月) 開演 14:00
【会場】
ザ・シンフォニーホール (大阪)
【演奏】
指揮:シギスヴァルト・クイケン
ラ・プティット・バンド
バロック・ヴァイオリンⅠ:シギスヴァルト・クイケン
バロック・ヴァイオリンⅡ:サラ・クイケン
バロック・ヴィオラ:マルレーン・ティアーズ
バロック・チェロ:ロナン・ケルノア
フラウト・トラヴェルソ:アンネ・プストラウク
バロック・オーボエ:ヴァンシャンヌ・ボウドユィン、オフェル・フレンケル
チェンバロ:バンジャマン・アラール
ソプラノ:アンナ・グシュヴェンド
【プログラム】
J.S.バッハ:
管弦楽組曲 第3番 二長調 BWV1068 (弦楽合奏版)
トリオ・ソナタ (「音楽の捧げ物」 BWV1079 より)
チェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調 BWV1056
カンタータ 満足について「われ心満ちたり」 BWV204 (全8曲)
※アンコール
カンタータ 満足について「われ心満ちたり」 BWV204 より 第8曲 アリア
シギスヴァルト・クイケン&ラ・プティット・バンドのコンサートを聴きに行った。
クイケンというと、20世紀の古楽演奏運動の草分けの頃にバロック・ヴァイオリンの奏法を確立し、いわゆる「ピリオド奏法」といわれる新たなスタイルで様々なバロック・古典派音楽を演奏・録音した、いわば「バロック・ヴァイオリンの神様」と言ってもいいような存在である。
彼は、ヴィブラートをこってりと分厚くかけるのでなく、薄めにゆっくりとかける。
また、フレーズにおいて音をどんどん膨らませていくのではなく、円弧を描くように膨らませてしぼませるようなフレージングをする。
バロック音楽からロマン派風の化粧を洗い落とすかのような、清々しい演奏様式である。
そして彼の音色は、バロック・ヴァイオリンらしくとても柔らかなものである。
それは、ファビオ・ビオンディのようなイタリアらしい明るい音色ともまた違う、オランダ/ベルギーらしい落ち着きのある鄙びた音色で、特にバッハに合うように思われる。
それに加え、彼はテクニック的にも、細部の仕上がりや音程など比較的安定しており、モダン楽器の一流の奏者にもそれほどひけを取らないと思う。
すこしゴツゴツしたところもないではないけれど、それですら彼特有の「素朴な味わい」に寄与している気がする。
彼が30歳代のときに録音したバッハの「ブランデンブルク協奏曲」(1976~1977年盤)や「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」(1981年盤)は、今でも色あせない最高の名盤である。
そんな彼も、もう73歳である。
もうさすがに技術的に衰えているだろうけれど、一度は生で聴いておきたいと思い、今回聴きに行ったのだった。
聴いてみると、確かに音がよろけるところも数箇所あったし、音量的にやや力が弱いかなとも思ったけれど、でもそれ以外には衰えをあまり感じさせない、素晴らしい演奏だった。
音の柔らかさ、音色の鄙びた美しさは健在で、彼のさわやかな美音を心ゆくまで楽しめた。
速めのパッセージであっても不安定になることはあまりなく、安心して聴くことができた。
最初の「管弦楽組曲 第3番」は、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1、チェンバロ1という小編成による演奏で、管楽器が全くなく、例えば私の好きな録音の
●ガーディナー 指揮 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ 1983年セッション盤(CD)
●鈴木雅明 指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン 2003年10月セッション盤(NML/Apple Music)
などに聴かれるような華やかさとは無縁だったが、その分クイケン自身の音はよく聴こえて、私としてはむしろ嬉しかった。
クイケンとラ・プティット・バンドもこの曲を2012年に再録しているが(NML/Apple Music)、今回の演奏会も基本的なアプローチはその録音と同じだった(冒頭の「序曲」の軽快なテンポなど)。
ただ、第2曲のエア(いわゆる「G線上のアリア」など、クイケンにより即興的に付加される装飾音が録音よりも華やかになっており、面白かった。
次は「音楽の捧げ物」より、トリオ・ソナタ。
「音楽の捧げ物」で私の好きな録音は
●レオンハルト夫妻、クイケン3兄弟、コーネン 1974年セッション盤(Apple Music)
であり、今回まさにクイケンの演奏で聴けたのは嬉しかった。
クイケン30歳(若い!)のときの上記録音で聴かれるパキッとしたキレ味は、さすがに今回の演奏会では聴かれなかったが、それでも音程など思ったより安定していたし、柔らかな音色が味わい深かった。
フラウト・トラヴェルソのプストラウクは、音がとても小さくて、上記録音のバルトルド・クイケンのような朗々とした音は聴かれなかったけれど。
次はチェンバロ協奏曲第5番。
チェンバロのアラールは割と直線的な解釈で、私の好きな
●レオンハルト(Cemb, 指揮) レオンハルト・コンソート 1967年セッション盤(CD)
のようなまったりとした「揺らぎ」は聴かれなかったが、私が普段チェンバロの生演奏をそれほど聴いていないのもあってか、面白く聴くことができた。
休憩を挟んで、最後はカンタータ 満足について「われ心満ちたり」 BWV204。
世俗カンタータの一つで、私としては聴き慣れない曲だが、レチタティーヴォと交互に現れるアリアのうちの一曲には、ヴァイオリンのオブリガートがついているものもあり、クイケンのヴァイオリンがここでも堪能できた。
ソプラノのグシュヴェンドは、中音域が割ときれいだったが、高音域についてはややきつい印象だった。
できれば、クイケン&ラ・プティット・バンドのバッハ教会カンタータの一連の録音に一部参加しているソプラノ歌手、ゲルリンデ・ゼーマンの美しい歌声が聴いてみたかった。
ともあれ、70歳を超えてもまだまだ元気なクイケンを聴くことができて良かった。
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