中川真耶加 ピアノリサイタル
【日時】
2017年5月14日(日) 11:00 開演
【会場】
ナゴヤピアノコンサートサロン(名古屋ピアノ調律センター3階)
【演奏】
ピアノ:中川真耶加
【プログラム】
シューマン:幻想小曲集 作品12 より
第1曲 「夕べに」
第2曲 「飛翔」
第3曲 「なぜに」
ラフマニノフ:13の前奏曲 作品32 より
第5曲 ト長調
第12曲 嬰ト短調
ショパン:即興曲第1番 変イ長調 作品29
ショパン:バラード第4番 ヘ短調 作品52
※アンコール
ショパン:マズルカ第21番 嬰ハ短調 作品30-4
以前の記事(そのときの記事はこちら)にも少し書いた期待のピアニスト、中川真耶加のコンサートを聴きに行った。
彼女の生演奏を聴くのは初めて。
ナゴヤピアノコンサートサロンというところに行くのも初めてだったが、名古屋ピアノ調律センターという建物の3階にある、こじんまりとした雰囲気の良いホールだった。
彼女は、このホール自体は初めてだが、小学生のとき、この調律センターのレッスン室でよくレッスンを受けていたとのこと。
演奏は、期待通り素晴らしかった。
最初のシューマンの「幻想小曲集」抜粋は、丁寧できれいな演奏だったが、少し真面目な感じがするというか、もう少しファンタジーの自由な飛翔のようなものがあっても良いかなという気はした。
ただ、あえてそうはせずに、あくまでもストイックに弾くのが彼女の個性なのかもしれない。
次のラフマニノフの「13の前奏曲」からの2曲は、ラフマニノフ特有の美しいメロディに、力がこもっているというか、大きな存在感が感じられ、「聴かせる」演奏になっていた。
後半は、ショパンの曲。
即興曲第1番、これもやはりストイックな演奏で、サロン的な華やかさというよりは、もっと「突き詰めていく」ような音楽になっていた。
この曲には、「軽み」のようなものがほしいような気はするけれども、下手に崩した解釈をして締まらない演奏になるよりは、彼女のようなかっちりとした正攻法の音楽づくりのほうがよほど好ましい。
そして、彼女のそのような姿勢が最も合っていたのが、次のバラード第4番だと感じた。
ショパンコンクールでも弾いた、彼女の得意曲。
この曲でも、彼女はファンタジーを求めるというよりは、一音一音をゆるがせにせずしっかりと鳴らしていく。
その正攻法の、自然に紡がれていく歌は、端正で美しく、聴いていてしっくりくる。
右手が六度の音程でジグザグと下行してくる箇所や、幅の広い音階上行音型やアルペッジョの伴奏を伴って第2主題が再現する箇所など、一見華麗な部分においても、彼女はその確かな足取りを崩すことはしない。
ストイックな、着実な歩みを続けたのちに、コーダ(結尾部)の直前にある分厚い和音の畳みかけの箇所で、それまでに少しずつ高まってきていたパワーがきわめて大きなものになっていることに、聴き手は気がつく。
ここで彼女が鳴らすフォルテ(強音)は、腹の底にずんとこたえる、本物のフォルテである。
弱音ながら緊張感の漂う数小節をはさんだのちに、コーダにたどり着く。
ここではついに、激情の爆発が聴かれるのだが、彼女はこの難しいコーダにおいても、全ての音をごまかさずに明瞭に鳴らして、この最後のクライマックスをきわめて充実したものとする。
難所である右手の三度和音の半音階的進行の箇所も、全く曖昧になることなく、しっかりと鳴らせている(そもそも彼女は、あの難しい三度のエチュード op.25-6を大の得意としている)。
このコーダをこれほど圧倒的な迫力をもって弾ける人は、一流のピアニストたちの中にもそう多くないだろう。
正攻法な歌い口、全ての音をしっかりと鳴らすストイックな姿勢―彼女は、方向性としては、若き頃のポリーニタイプと言っても良いかもしれない(彼女のエチュード op25-6やop25-11の演奏は、きわめてポリーニ的な、ある意味でポリーニ以上の名演)。
もしも、彼女の演奏のこういった正攻法な性質を変えずに保った上で、よりいっそうのロマンティシズムが加われば、さらにポリーニの域に近づくかもしれない。
アンコールのマズルカも、彼女の求心的なアプローチがよく合っており、特に中間部の、和音が反復進行を伴いながら高まっていく箇所など、簡素ながら気力がみなぎっていた。
終演後は、1階のピアノ展示室で、中川さんと観客たちとの和やかな談笑の機会があったのも良かった。
緊張しぃの私は、一言もしゃべることなく出てきてしまい、後で少し後悔することになったけれども(そういえば、カフェ・モンタージュでも佐藤卓史さん等の演奏家の方々とお話しできたことがない…)。
ナゴヤピアノコンサートサロンは、同様の演奏会を定期的に催しているようなので、近くにお住まいの方はいらしてみてはいかがだろうか。
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