大阪フィルハーモニー交響楽団
第507回定期演奏会
【日時】
2017年4月25日(火) 19:00 開演 (18:00 開場)
【会場】
フェスティバルホール (大阪)
【演奏】
指揮:大植英次
ソプラノ:森 麻季
テノール:藤木大地(カウンターテナー)
バリトン:与那城 敬
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団(合唱指導:福島章恭)
児童合唱:大阪すみよし少年少女合唱団
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
(コンサートマスター:田野倉雅秋)
【プログラム】
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 作品92
オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
大フィルの定期演奏会を聴きに行った。
今回の指揮は、以前この楽団の音楽監督を務めていた、大植英次である。
まず前半のプログラムは、ベートーヴェンの交響曲第7番。
この曲において私の好きな録音は、以下のものである。
・フルトヴェングラー
ウィーン・フィルとの1950年盤(EMI新発見マスター復刻盤。Apple Music)。
・トスカニーニ
NBC響との1951年放送用ライヴ盤(Apple Music)。なお、ニューヨーク・フィルとの1936年盤(CD)はノイズは大きいが、キレはさらに少し上。
・カラヤン
ウィーン・フィルとの1959年盤(Apple Music)、ベルリン・フィルとの1962年盤(Apple Music)、1976-77年盤(NML/Apple Music)、1977年東京ライヴ盤(CD)、1983年盤(NML/Apple Music)など多数あり、いずれも良い。
・クライバー(カルロス)
バイエルン国立管との1982年ライヴ盤(NML)。なお、ウィーン・フィルとの1975-76年盤(NML/Apple Music)は借りてきた猫のようになってしまっている。
この4人は別格だが、その他、アバド/ベルリン・フィルの2001年ライヴ盤(NML/Apple Music)、西本智実/ロイヤル・フィルの2009年ライヴ盤(CD)、ナガノ/モントリオール響の2013年ライヴ盤(Apple Music)あたりも好きである。
さて、今回の大植英次の演奏だが、前回ブルックナー交響曲第9番を聴いたときは、あまりに頻回なテンポの変化に面食らったものである(そのときの記事はこちら)。
今回のベートーヴェン7番も、ティーレマンのようになってしまうかと危惧したのだが、意外にもほぼイン・テンポ(一定の安定した速度)で、オーソドックスな解釈だったのは、私の好みに合っていて嬉しかった。
上で紹介した録音のうち、今回の大植英次の演奏に最も近いのは、アバド/ベルリン・フィル盤だろう。
颯爽としたテンポでサクサクと進めていく(第2楽章はきちんと「アレグレット」だし、第3楽章のトリオ部分も速め)が、極端なテンポやアーティキュレーションを採るようなことはない。
なおかつ、例えば終楽章の展開部冒頭のように、粘るところでは粘っていて、アバド以前の巨匠たちの要素も随所に感じられた。
そして、大植英次の場合、ここで急に弱音にしたいとか、クレッシェンドしたいとか、ホルンを強調したいとか、ティンパニの打撃を際立たせたいとか、そういったことが素人から見ても分かるくらい分かりやすい動きで指示を出しながら、指揮をしている。
明快な指揮、とはこういったものを指すのだろう。
しかし、である。
この曲は名盤が多いためか、あともう一歩物足りない、という思いは拭うことができなかった。
この曲は、やはりベートーヴェンらしい「力感」がどうしてもほしい。
今回の演奏は昔ながらの16型の大編成であり(第1ヴァイオリンは17人いるようだったから17型?)、広いフェスティバルホールでも音がしっかり響いてきて、その点は良かった。
しかし、それでも例えば終楽章のコーダで、もともと第1主題と第2主題の間にあった経過句が再現する部分など、もっと畳みかけるようなクレッシェンド、圧倒的な迫力を望みたくなってしまう。
速めのテンポということもあってか、対向配置された第1・第2ヴァイオリンの掛け合いが、最高潮まで盛り上がりきらずに上滑りになってしまったような印象があった。
また、「力感」のみならず、例えば西本智実盤における重厚な情感の表出とか、ナガノ盤における各楽器のクリアな扱いなど、もう一つ何らかの特徴というか、個性がほしいようにも感じてしまった。
もちろん、これらは贅沢な話であって、全体的に出来の良い演奏ではあったのだが。
後半のプログラムは、オルフの「カルミナ・ブラーナ」。
この曲は先ほどのベートーヴェンと比べるとあまり聴いていないのだが、そんな中でも比較的好きな録音は以下のものである。
・アイヒホルン/ミュンヘン放送管の1973年盤(Apple Music)
・デュトワ/モントリオール響の1996年盤(NML/Apple Music)
・ハーディング/バイエルン放送響の2010年盤(Apple Music)
・飯森範親/東響の2014年ライヴ盤(Apple Music)
いずれも大変生き生きとした名盤である。
さて、今回の大植英次の演奏だが、こちらは文句なしに素晴らしかった。
やはり、こういうきわめて大きな編成の曲における生演奏の迫力は、録音に代えがたいものがある。
先ほどのベートーヴェンでは我慢して(?)オーソドックスに演奏していた大植英次だが、こちらでは彼らしいテンポの変化が存分に発揮されていた。
冒頭の「おお、運命の女神よ」からして、フォルテ(強音)になる箇所でテンポが上がり、そして合唱が終わった後のオーケストラによる後奏ではさらにもう一段加速してかなりのスピードとなっていた。
次の「運命の女神の痛手を」も同様で、オーケストラの後奏がかなりのところまで加速されていた。
その分、管による細かな音型など、細部の明瞭さは多少犠牲になっていたが、ライヴらしいスリリングな感興があって、これはこれで良いと感じた。
最後のほうの「今こそ愉悦の季節」では、いったんテンポがゆっくりになったのち、カスタネットのリズムを合図に加速していく箇所が何度かあるのだが、ここで彼はなかなか加速せず、遅いテンポを長らく維持してじらしたのちに、終わりのほうでぐっと大きく加速するというやり方を採っていた。
この「じらし」もまったく彼らしい(私の個人的な好みとしては、もっと早く加速してほしいのだが、これはこれで面白いと思う)。
そして、最後に冒頭の「おお、運命の女神よ」が戻ってくるのだが、彼はこの最後の一音を大きく引き延ばして感動的に曲を終えた。
熱演だったと言っていいと思う。
オーケストラはいつもながら良かったし、合唱もよく健闘していた。
児童合唱もがんばっており、出番が多くはないとはいえ、完全に暗譜だったのもすごいと思った(なお、大植英次も全て暗譜)。
歌手陣では、まず有名な森麻季の歌唱を初めて聴いたのだが、よく通る美しい高音が素晴らしかった(「とても、いとしいお方」での最高音もきれいに出ていた)。
また、男声2人も演技派で楽しませてくれた(バリトンの与那城敬の歌唱は上記の飯森範親盤でも聴ける)。
全体的に、完成度は高かったのではなかったろうか。
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