松平定知(朗読)×松本和将(ピアノ) シリーズ
極上の「語り」と「音楽」で味わう午後
ベートーヴェン~我が不滅なる愛
【日時】
2016年10月15日(土) 開演時間 14:00
【会場】
ロームシアター京都 サウスホール
【出演】
朗読:松平定知
ピアノ:松本和将
【プログラム】
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番「月光」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」
朗読とピアノ。
このシリーズを聴くのは、今回で2回目である。
前回は今年の7月9日で、そのときも感想を書いた。
前回はショパンで、朗読はとても興味深かったのだが、肝心の演奏のほうは淡白で、あまりショパンらしくないと感じた。
しかし、今回のベートーヴェンは、素晴らしかった。
松本和将は、男性らしく音に力があり、分厚い和音もぺしゃっとした響きにならず実に輝かしい。
音が立っている、という感じがする。
「月光」の第1楽章、2楽章など本当に美しかった。
第3楽章は、ペダルをどれだけ踏むべきか、会場での響き方と相談しながら試行錯誤している感があり、面白かった。
「悲愴」も実に力強く輝かしい。
変に味付けしようとしたり、個性を出しすぎたりしないのが良い。
コンサート会場では彼のCDが販売されており、「熱情」のCDを購入した。
そのライナーノートによると(本人執筆)、「熱情」は彼の一番の得意曲とのことだった。
確かにその言の通り、素晴らしい「熱情」だった。
ライナーノートには、ベートーヴェンには何を付け加えてもいけない、できるだけ何も交えず、そのまま演奏しなければならない、という本人の意見が書かれている。
その通り、淡々とした「熱情」で、例えばスタンダードな演奏と思っていたチョ・ソンジンの「熱情」第1楽章のライヴ録音も、松本和将に比べるとかなり表情付けがされている。
ただ、淡々としているとはいっても、ベートーヴェンならではの激しいデュナーミク(強弱)の対比はしっかりとされており、特に第1楽章展開部最後の、ダダダダーといういわゆる「運命の動機」が強音で何度も打ちおろされる部分は、リヒテルまではいかないけれども、かなりの迫力があった。
その直後の、再現部冒頭の弱音での低音の連打にみなぎる緊張感も、さすがだった。
難関である終楽章も相変わらず迫力があり、かつ安定していた。
終楽章のコーダ(最後の部分)のプレスト(きわめて速く)ではさすがにやや疲れたのか、大変鮮やかな指さばきとまではいかなかったが、それでもやはり強靭な音を聴かせてくれた。
そして、今回も朗読がとても面白かった。
ベートーヴェンの「恋」に焦点を当てた朗読で(その他、ハイリゲンシュタットの遺書も取り上げられていたが)、大変興味深かった。
子供のころには「そんなものかな」程度に思っていたベートーヴェンの恋の苦悩、難聴の苦悩も、この歳になってみると何とも実感がわいて、ベートーヴェンに強く共感してしまった。
改めて、ベートーヴェンのパワーというか、エネルギーはすごいと感じた。
余談だが、先ほど書いた松本和将の熱情のCDには、ワーグナー作曲、リスト編曲の「タンホイザー序曲」ピアノ編曲版がカップリングされている。
大変な名曲で大好きなのだが、これまであまり名録音に恵まれていなかったように思う。
今回松本和将盤を買って聴いてみると、「熱情」と同じくけれんみのないストレートかつ力強い演奏で、とても良かった。
大管弦楽団の演奏さえ彷彿させる堂々たるスタイルで、同曲の決定的な名盤だと思った。
この曲に興味がある方は、ぜひ買ってみることをお勧めしたい。