監獄はマリーズタウン最南端の半島にある。そこは断崖絶壁で陸から監視の目を掻い潜って行くのは困難だ。彼らは船を潜水させ海から近づく事にした。岩礁に近づいた。ここからは歩いて近づく以外に方法はない。ハヤテは息をころしてゆっくりと近づく。入口には2人の警備がいるようだが全くこちらに気づいていない。ハヤテはマスクをし、ビンのふたを開けた。これは睡眠効果のあるラベンダーをより高濃度で抽出し、さらに化学反応させたものだ。監視はあっという間に眠りについた。忍び足で奥に突き進むと、星空を眺めるセネカの姿がそこにあった。
「父上、お元気そうでなによりです。」
セネカはたじろぎもせず振り返った。
「ハヤテ、今宵はとても星がきれいだ。お前が生まれたのも星の輝く夜だった。月日の流れはなんと速いものだ。」「父上、明日王宮で父上の裁判が開かれます。ジャイロはすでに全ての陪審員を買収し判決は有罪が必死。私は父上が無実と信じております。ここは、ともに次なる手立てを考える為、一旦わが身の安全を確保下さい。」
セネカは、言った。
「ハヤテ、恐らく判決は覆らない。そして私は、見せしめの為厳罰に処されるだろう。今宵が今生の最後かもしれぬ。」
「父上。どうか私とともに私とともにお逃げ下さい。これはルピナスの宰相ではなく我が父に請うているのです。」
ハヤテは感情を高ぶらせていた。セネカの意思はそれでもゆらぐことはなかった。
「私はこれまでルピナスの治世を預かってきた。その私がここで正式な手続きを経て向かえられた裁判を拒むことができようか。私は無実である。そのことは最後まで変わらぬ。たとえどのような判決が下ろうとも真実は一つである。それを証明する為にも、このルピナスの秩序を遵守するためにも私は決して逃げる事はできない。そなたに最後に会えて嬉しく思う。ティアラ、ミーディアを頼む。」
「父上!」
ハヤテはここに来るまで本当はこの結末がわかっていた。父が志をまげて命乞いをすることなど考えられない。しかし、動かずにはいられなかった。自分にできることは全てやり尽くしたかった。何もしないでする後悔はしたくなかった。
「父上のお気持ち、よく分かりました。私は父上を心から尊敬しております。明日はこの行く末を必ず見届けに参ります。志を貫きください。」
セネカとハヤテは固い握手をかわした。監獄をぬけると、真っ黒な海が彼らを出迎えた。夜の海はなんと暗いのか、全てを飲みこんでしまいそうな迫力だ。ヒカルはハヤテにかける言葉が見つからなかった。ただただハヤテを見守っていた。ベリーがハヤテに擦り寄る。ハヤテは言葉少なげにベリーをなでた。
「父上の勇姿、ともに見届けよう。」