彼女の龍 1
行きつけの小料理屋のドアを開けると女のドスの聞いた声が耳に響いた。
「こらー!ちょっと外へでろ!」
女は店の奥にある座敷から40後半の男を引きずり出していた。
男は背中からタイル張りの床に転げ落ちた。はだけたシャツ隙間から鮮やかな色の肌が見えた。
「なにさらすんじゃ!このアマ!」
男は立ち上がり女の顔面を拳で殴った。
女は殴られた弾みで私の体に寄りかかるように倒れた。
「すみません・・・」
女は私の顔を見上げると、さっきの言葉使いとは裏腹に膝の前で両手を揃え馬鹿丁寧に何度も頭を下げた。
「だいじょうぶ・・」
私が声をかけようとした瞬間、女はくるりと方向を変え相手の男になぐりかかった。
店の主人が、申し訳なさそうな顧をしながらカウンターの一番端の席に座るよう箸をおいた。
「ここじゃ他の人に迷惑なんだよ!おっさん表出ろ!」
女の白いブラウスには鼻血のリボンが出来ていた。
男も観念したのか、女に腕を引かれて歩き出した。
女は店の入り口まで来るとくるりと向き直り
「すみませんでした・・」
と頭をたれ男と一緒に店を出て行った。
「おー怖・・・」
誰かが小声でつぶやいた。
「大将、いったいどうしたの?」
「この近くのクラブの女の子でね、男は同伴のお客らしいのよ。最初はいい感じだったんだけど、女の子がお店に行かなくちゃいけないから、今はこれ以上飲めないって断った途端男が騒ぎ出したのよ。最初は大分我慢してたんだけどねぇ・・キレちゃったのよ。それであの調子」
「それは男が悪いな。でも、さっきの男カタギじゃないよね。」
「たまに来るんだけど、あの人なりに気をつかって座敷しか使わないんだよ。金払いも良いし目をつぶってたけど、こんな事があるとねぇ・・・」
「ダメダメ、大将、今度あいつをここで見たら俺は二度とこねーよ!」
隣に座っていた中年サラリーマンが口を挟んだ。
「それにしても彼女、大した度胸だね。年のころは20後半ってとこだな。いかにも気の強い感じが顔に出てたけど、俺ああいう美人タイプなんだよな。謝った時の申し訳なさそうな顔がまた良かった。」
「俺はごめんだね。あんなのと一緒に居たら命がいくつあっても足りない。」
隣のサラリーマンがネクタイを緩めながらつぶやいた。