Ability for love -3ページ目

彼女の龍 4

ナオは刺青の蝶のように成虫になっていた。

あの頃の生活感のない無邪気さはない。

一目で相手を見抜くであろう力強い切れ長の目。

異性だけじゃなく同性までが興味をしるす美しくエロティックなボディーライン。

隙を見せることのない立ち振る舞い。

全てがあの頃とは違っていた。

この十数年の間に彼女は生まれ変わっていた。

「ナオ、いつ日本に戻ったんだ?」

彼女は突然英語でしゃべりだした。

「3年前よ。父が死んだのをきっかけにね・・・私ホントは戻るつもりなかったの。私ね高校卒業の資格をとってカナダの大学に入ったの。そして、デザインの勉強をして就職が決まった矢先にこれでしょ。それに、カナダ人の彼もいたしねラブラブでも、私の実家は加賀友禅を代々やっててね。

最近はさっぱりだけど・・・

だから家が無駄に大きかったの、相続やなんやで親戚中が大騒ぎ・・・

私一人娘だから、明らかに相続できるものだけ頂いてあとはそちらで好きにしてくださーい。

弁護士はいろいろアドバイスくれたけど面倒くさくて!全部売っぱらってお金にしちゃった。

親戚とも縁をきったわ!」

「そういう駆け引きが出来ないところがお前らしいな。」

彼女の英語はアクセントに少しフランス訛りがあった。

「それで、日本でする事もないし暇つぶしに金沢のクラブでバイトしたの。そしたらね・・・やっぱり才能かなぁ・・・べーっだ!2ヶ月でNo1王冠1になっちゃったの。そしたら、ママがヤキモチ焼いちゃって大喧嘩!もう、こうなったら自分で店やってやろうって。」


「おいおい、何で英語でしゃべるんだよぉ・・・わかんねぇっだろ・・・」

誠一が口を挟んだ。

「あっ!ごめんなさい。ちょっとナ・イ・ショ話ラブラブこれからは日本語で話しますね。私ったらご挨拶もしないで・・」

ナオは胸元から名刺を取り出した。

「真琴と申します。今後とも宜しくお願いします。」

「今もその名前を使ってんのか。」

「別に悪い事してないし変えるの面倒くさいでしょ。そんな何人も演じられんわ。」

「あっ!どうも・・翔の高校の時の同級生の誠一です。これ俺の名刺。」

「まぁっ!社長さんですか?今後とも御贔屓におねがいします。」

「社長って従業員は俺だけやけど・・翔の方がよっぽど稼ぎいいぞ!」

「翔さんも名刺くださいなにひひ

名刺を渡すとナオはいたずらな目で俺を見た。

「へぇー部長さんかぁ。昔のご商売とは関係ありませんの?名古屋だし・・」

「あるわけないだろ!ところで、なんで勤務先がわかったんだ?」

「気になる?私の情報網はすごいんだから!」

たぶんシンに聞いたのだろう。




シンはその当時の俺の片腕として動いた男だ。


暴走族上がりで当時22歳だったが、地元では伝説的なグループを束ねた男だった。

現在も裏の世界でかなりの地位を築いていた。

現在の会社に入って間もなく、所属部の連中が錦で歓迎会を開いてくれた。

会が始まり1時間程経った頃、

「佐々木 翔さんいらっしゃいますか?」

と店の女の子がやって来た。

「あっ、私ですが?」

「店にお電話が入ってます?」

「えっ、店に?」

「いや~ん。部長!奥さんじゃないですか?早く帰ってきて~ラブラブ

部下の女子が私をからかった。

しかし、妻にも今日の店の事は話していない。

不思議に思いながら電話に出た。

「はい、佐々木ですが?」

「翔さん、お久しぶりです。シンです。」

「シン?おまえシンか?」

「水臭いじゃないですか?名古屋に戻ったなら言ってくださいよ。」

「いや、俺は今普通にサラリーマンをしてる・・・だから・・・」

「知ってますよ。何も昔の様につるんでくれとは言いません。近いうちに二人で飲みましょう。携帯番号教えてください。」

「ところで、なんでココが分かったんだ?」

「街の呼び込みがね翔さんの事覚えていて、この店に入ったって言うからすぐ店に確認したんですよ。そしたら、グローバル・エージェントってとこの歓迎会が入ってるっていうからピンと来ましたよ。」

「おいおい、店のオヤジを脅したんじゃないだろうな?えっ

「実は、そこも俺が面倒みてるんですよ。翔さん、勘定は済ませてありますから楽しんでください。じゃっ、また連絡します。」

シンは一方的に電話を切った。

勘定の時のみんなへの言い訳が大変だったのは言うまでもないガーン





「ところで翔さん約束覚えてる?再会した時は私を女にするって。」

「あほかっ!お前が一方的につけた条件だろ。返事した覚えはないぞ。」

「あらっ!私じゃ役不足?月300万お手当てくれるって言ってくれる人もいるのよ。」

確かにいい女だ。

和服姿は文句のつけようがない。

小さく後頭部にまとめられた髪は解くと肩のラインを超えるだろう。

洋服を身に着ければガラリとイメージは変わるはずだ。

私は着物の上からでもその大きさが想像できる胸に一瞬視線をむけた。

ナオはその瞬間を見逃さなかった。

ナオはきちっと揃えられた膝の上で私の手を握り耳元に顔を寄せささやいた。


「いつでも、見せてあ・げ・る」


彼女の龍 3

結局、私と誠一はその店で生ビールビールだけでは済まず、芋焼酎を一本開けた。

こいつと飲むとなぜか深酒になる。ショック!

「誠一!オネーチャンの店キスマーク行こうか?」

「どこか知ってる店あるのか?」

先月、会社の方に新規オープンの案内状が来ていた。

ママの名前を見ても顔が思い浮かばないが気になっていた。

「ちょっと新規開拓でもするか!」

「流石太っ腹!¥


梅雨はまだ明けてないようだが、風があり久しぶりの気持ちの良い夜だ。星空

その店はすぐに見つける事が出来た。

この地域独特の開店祝いの花輪ブーケ2が店の周りを埋め尽くしていた。

「おいっ!凄い花輪の数だな。なんか高そうな雰囲気だぞ。」

「こんな俺に案内状出すくらいだから大丈夫だろ。」

店のドアを開けると中は意外と広々としていた。

「いらっしゃいませ!お二人様でしょうか?」

黒服のお兄さんがボックス席へと案内をする。

お絞りを渡され、二人は思いっきり顔を拭いた。

「ご指名等ございますか?」

「いや、ママから案内状が来てたんだよ。」

「失礼ですがお名前を頂けますでしょうか?」

「佐々木。」

「少々お待ちください。」

薄暗い明かりの中、奥の席で着物の女性が先程のボーイにメモを渡されている様子がみえた。

その女性は、こちらを見ると目の前の客に頭を下げこちらへと足早に歩いてきた。

「翔さん久しぶり。来てくれて有難う。嬉しいわ!」

切れ長の気の強そうな目の30前半の女だ。顔立ちは 岩下志麻 思わせる日本美人だ。

どこかで会った気はするが、正直思い出せない。

「ママ、どこの店で会ったかな?」

「忘れたの?ホントに分からんの?頭くるわむかっボーイさん、ここセット2倍で!」

「かしこまりましたグッド!

「あほかっ!」

誠一がにやける黒服にお絞りをぶつけていた。

女は周りを確認しながら立ち上がり私の横に座り、私の膝の上に足袋を履いた片足を乗せた。

「よう見なさいよ。」

女が足袋を下げると、そこには鮮やかな蝶の刺青があった。

「お前、、ナオか?」



その刺青には見覚えがあった。



私は25歳で自動車販売業を営み、飲食業、イベント企画と事業を拡大チョキし30歳で失敗叫びをした。

その後、借金を取り立てにきたヤクザに見込まれ、外国人売春婦や日雇い労働者、キャバクラ、カジノ、ヘルスなどから、いわゆるみかじめ料の集金を任されていた。

当時私がみていた外国人売春婦(立ちんぼ)は推定400人、土木、建築現場の日雇い労働者推定100人、毎日たった500円のピンはねで月500万円を超えていた。

これに、店舗の月1回の集金が約20件で100万円。

毎月600万~700万の上がり¥があり、そのうちの10%が私の取り分だった。

彼らはそれと引き換えにトラブル時の組織とのホットラインを手に入れていた。




ナオはそんな時代の私を知る数少ない人間だ。

当時、私が担当していたキャバクラに在籍していた。

女は当時17歳だったが年齢をごまかして働いていた。

月末に一度だけ顔を出しそれ以外は一切行かず、帰りには店の幹部が総出で見送る。

誰もが興味をもっていたが、店に勤める女の子の誰もがそのことには触れなかった。


いつものように集金を済ませビールだけ飲んで帰ろうとボックスに座ると、綺麗に髪をまとめた色の白い女がビールを運んできた。

「はじめまして、真琴です。」

女はそう言うと私に名刺を差し出した。

その名刺は店の名前だけが印刷され、真琴の文字と携帯番号は手書きで書かれていた。

「新人さん?」

「はい、そうです。ビールどうぞ!」

女はぎこちない手つきでグラスに瓶ビールをそそいだ。

マニュアルどおりの会話が続いたところで彼女が切り出した。

「お仕事何されているんですか?」

私は返答に困った。

新人でなければ私にこの質問はしてこない。

「仕事なんて聞いてどうすんの?それを忘れに来てるんだからさ。」

私は出来るだけ柔らかい言葉で返した。

「そうですね、ツマンナイ事聞いてすみませーん。」

女は舌を出しておどけてみせた。

「じゃぁ、行くわ。」

「えー、早いですね・・。まだ15分ですよ。あっ、何か気に障りました?」

「いや、楽しかった。有難う。ちょっとビールが飲みたかっただけだから。」

すると女は私の耳元に顔を寄せた。

若く綺麗に見せる化粧は見慣れているが、近くで見ると女の化粧はそれのまったく反対のものだった。

「ここセット60分10,000円でしょっ、ビール飲んで11,000円!15分で11,000円なんて割合ませんよ。私が嫌なら別の娘つけますよ。」

「いや、いいんだ。」

「良くありませんよ。あっ、そうだ!私マネージャーに安くするよう頼んできます。」

「大丈夫だって・・」

「待ってて!」

女が行ってすぐマネージャーがすっ飛んできた。

「すみません。翔さん!新人が付いてるとはしらず・・えっ

「いい娘だな。どこの出身だ。」

私は女のアクセントに聞き覚えがあった。

「たしか石川県です。あっ!同郷ですか?」

「ばかっ!俺は隣の福井だよ。」


翌月末店に行くと真琴が私の席についた。

「先月はすみませんでした。何も知らなかったので・・・。でも、今日はラッキーです。また、会えましたから。」

マネージャーは真琴にどう説明したのだろう?少なくとも本当の事は言っていないようだ。

「翔さん。あっ!翔さんて呼んでもいいですか?みんなそう呼んでるみたいだし・・・本名ですか?」

「かまわないよ。佐々木 翔だ。」

「私の本名は小原ナオ。翔さんラッキー!店でも知ってる人少ないですよ。」

「お前石川だってな?俺は福井だ。」

「えー!本当ですか?じゃぁ8番ラーメン知ってますよね!あれ最高じゃないですか?食べたーいラブラブ

真琴は一ヶ月ですっかり水商売に慣れた様子だ。

生来この世界の水が合うのだろう。

「これ見てください!かわいいでしょラブラブ

真琴はそういうとテーブルの脇から足を出した。

くるぶしの辺りに鮮やかな蝶の刺青が見えた。

「先月ショップで入れてもらったの。」

「お前なぁ・・。わざわざ背負うもん増やす必要ないだろ・・」

「気に入らない?」

「良いとも悪いとも思わんけど、自分の女には彫らせないな。」

「・・・・。もっと早く聞いとけば良かった・・・。」


真琴は2年で店のNo1王冠1になった後、カナダへ語学留学へ旅立った。

「翔さん、私いい女になって帰ってくるからもう一度会えたら翔さんの女にして!」

誰に番号を聞いたのだろう。

初めてかけてきた電話の向こうで空港のアナウンスが聞こえていた。




彼女の龍 2

「で、ご注文は?」

「あっ、そう言えばまだ何も頼んでなかったなぁ・・。とりあえず生ビールビールとノドグロ焼いてくれる。」

私は福井の油の乗ったノドグロうお座が大好きだ。


佐々木 翔40歳。

3年前に取引先からヘッドハンティングの誘いを受け地元福井を離れ名古屋に転職を決めた。37歳での転職に最初は反対すると思っていた妻は、年収100万円アップと聞くと目二つ返事で引越し準備を始めた。3人の子供もまだ幼いせいか親の心配をよそにうかれていた。

大学を中退後、単身中国へ渡りいわゆるバックパッカーでベトナム、タイ、インドと1年間渡り歩いた。そのうち中国、西安で出会ったオーストラリア人女性ケイトと8ヶ月間行動を共にした。

この1年間で中国語、タイ語、英語を生活に不自由がない程度までマスターすることが出来た。

私にとって、目的もなくダラダラと大学生活を4年間過ごすよりは意義のある貴重な時間だった。

結果、その語学力を買われ今の会社に転職することになった。


「おう!また少し太ったか?年収100万もアップすりゃ太るわな。当然ここはお前の払いやな。」

高校の同級生 白崎誠一だ。

この男といるとなぜか落ち着く。

誠一は大学を卒業後中堅ゼネコンに就職したが、全国の現場暮らしという生活に疲れ35歳で独立をした。

今までの経験と人脈を生かし現場施工管理を請け負っている。

前職の不規則な生活のせいか、元来めんどくさがりな性格なのか結婚の予定どころか女の影もない。

一度、そっちの気えっがあるのではと疑ったが、海外旅行で当然のように女性を確保するところを見るとそうでもないらしい。


「さっきここで男女の凄い喧嘩があってな。女が凄いのよ。墨入った男を引きずるわ蹴るわ。ねぇ大将。」

「佐々木さん、今日のことはあんまり口外しないでくださいよ・・・今日のビールはサービスで良いですから・・」

「おっ!それはラッキーだ。翔!今日は飲むぞ!それで、お前のタイプなんだろ。」

「そうなんだよなぁ・・・」

「おいおい、また始まったぞ。4年前の夜中のピンポ~ン音譜忘れたんじゃないだろうな。」


夜中のピンポン事件ドクロ


夜中の1時過ぎにその当時付き合っていた彼女が家に押しかけて来た事件だ。

玄関で彼女を見るなり連れ出そうとしたが

「誰?」

と妻の声ガーン

とっさに出た嘘が

「取引先の人。」

もう、バレバレ叫び

妻は俺を睨むと

「電話するまでアナタはどこか行ってて!」

と、家に彼女を入れ扉の鍵をかけた。

私はコンビニの駐車場に車を止め、今頃何を話してるのかと缶コーヒーをのみながら過ごしていると、1時間程して電話がなった。

「もう帰っておいで・・」

恐ろしく冷静な声。

家に帰ると彼女はいなかった。

「悪かった。じつは・・」

「もういいわ。変な言い訳しないで、今回は許してあげる。」

妻はそう言うと子供部屋に入っていった。

朝起きると、彼女は何事もなかったかのように振舞った。

妻はその後二度とそのことは口にしない。

当然、彼女からも連絡はない。

あの時彼女たちは何を話したのだろう。ガーン