【43】旅行前の誘い | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


不安定ながら、岩田さんと私は上手くいっていた。

そして、由里ちゃんと萩野さんも。


「椎名、おはよう」

「おはよー。由里ちゃん」


萩野さんと付き合い出してから、由里ちゃんは更に綺麗になった。

どんな状況での恋愛でも、好きな人と心が通じるのは、
幸せな事なんだな。

彼の視線が、自分だけを見ていなくても。

恋愛って、理屈じゃない・・・。

二人が話をしていると、笹原さんや、坂口さんの視線が飛んでくる。
あれはもう、条件反射のようなものか。

人目を気にすることなく、萩野さんは由里ちゃんに声を掛けている。
逆に、由里ちゃんは、やっぱり視線を気にしているというか・・・。

二人の現状がどうなっているのかは、私からは多くを聞かない。

朝の掃除当番中も、恋愛話以外の話・・・
昨夜のテレビドラマの事とか、どうという事のない話題で盛り上がる。


「ねぇ、椎名・・・」

「んー?」


会話が途切れるのを待っていたような、物言いたげな表情。


( 萩野さんの事で、何かを言いたいのかな? )


彼が絡んだ話だというのが、沈黙を含んだ間合いで解る。

「応援出来ない」 と言ったけれど、私だって全てを突き放すほど、
冷たい人間ではない。


「・・・あのね、椎名さえ良かったら・・・」

「ん?ナニよ。ちゃんと話してってば」

「うん。今度、一緒に ―――・・」


由里ちゃんの声に、男性の笑い声が被さった。
離れた階段から聞こえてくる、あの声は・・・ 岩田さんと、萩野さん。

珍しい偶然に、見合わせてしまう。

階段を上りきった萩野さんが、私達を見つけた。


「おっ。朝から、美女発見!おはよう~」


いつのも調子で、笑いながら声を掛けてきた。

まだ会話の途中だったが、由里ちゃんは、当たり前というように、
萩野さんへ駆け寄っていく。

岩田さんの前だけど、視界には入っていないようだ。


「ヒロくん、おはよう」

「おはよう」

「支度、ちゃんとしてきたか?」

「うん。もうバッチリ」


ずっと楽しみにしていた、彼との一泊旅行。
今日の夜、仕事が終わってから、彼の車で熱海へ行くことになっている。

親に嘘をついて、初めての外泊なのだ。
怖さと緊張も入り混じるけれど、それ以上に期待が膨らむ。

二人は微笑み合い、短い廊下を歩いた。

.
.


一日を折り返し、あと2時間ほどで定時を迎える。

岩田さんとの旅行まで、あと少し!
浮足立ちながら、1階の物流倉庫へ下りてきていた。

物流倉庫とは名ばかりの、それほど広くもないガレージ。

出荷待ちの商品が、伝票と一緒に棚に並べられている。


「えーと・・・ この辺にあったはず・・・」


一人でブツブツ言いながら、倉庫の奥の棚へと移る。
手にしたメモと、置かれている商品、伝票を見比べた。


「見つかった?」


完全に一人だと思っていた私は、突然の声に驚き、飛び上がった。


「・・・!!・・・ えっ!?ええ?河村さん!?」


私の前の棚を挟んだ向かい側で、しゃがんで商品を探していた河村さん。
全く気配がなく、いきなり立ち上がられて驚いたのだった。

河村さんも、驚かすつもりは無かったようだが、
まさか先客がいたとは思いがけず、心臓がバクバクとしている。


「びっくりした!・・・いたんですか!?」

「はは・・・。驚かせちゃったね、ごめん」


棚を挟んで、そんなやり取りをするのだが、河村さんの顔が見れない。

・・・というのも、
河村さんは、岩田さんと同じくらいの背丈がある。

私との身長差のせいで、顔が4段目の棚と商品に隠れてしまい、
表情を窺うことが出来ないのだ。

河村さんの方が、彼よりも背が高く見えるのは、細身体型のせい?
それでも、185cmはあるはず。


( いつも思うけど・・・
  背がもう少し低かったら、 “あの人” みたいなんだよねぇ )


余計な事を思いながら、愛想笑いになる。


「ああ。そういえば・・・」


言いながら、河村さんが顔を下げてきた。
3段目の、空いたスペースに凭れるようにして、話掛けてくる。

この時まで、河村さんとはあまり話をした事がなかっただけに、
会話の接点が思い当たらない。

岩田さんとのことを、聞かれたりするとか?

それくらいしか、想像出来ない。


・・・だが、


「萩野くんから聞いた? あ。柏木さんから、かな?」

「・・・? 何を、ですか?」

「飲みに行こう、っていうハナシ」

「・・・は? ・・・いえ、何も聞いていないですケド・・・」

「なんだ、まだだったか。
 じゃあ、丁度良かった。 近々、4人で飲みに行こうよ」

「え、4人で・・・ですか?」

「そう。たまには、みんなで遊びに行こう」


黒縁の眼鏡を少し上げて、河村さんが笑う。

言われた意味が、全然解らない。


( たまには? みんなで・・・? みんな、って何? )


頷くことも、拒否することも出来ず・・・


「由里ちゃんと、相談してみます」


・・――― そう答えるのが、精一杯だった。




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