朝、由里ちゃんが言いかけたのは、この事だったのか・・・。
そうとしか、考えられない。
飲みに、と言われても、2課の人とはあまり話したことがないし、
気が進まない。
これが、萩野さんと由里ちゃん、岩田さんと私ならば、
話が解るのだけど・・・。
その事について、由里ちゃんと話がしたい
気乗りはしないが、彼女がそうしたいのなら、
付き合う他はないのだろう。
話しのタイミングが無いまま、針は刻々と終業へと進めていた。
.
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「美雪。17時になったら上がれ。
すぐに行くから、その先の角で待っていて」
岩田さんが、仕事の素振りで身を乗り出し、そっと告げる。
素直に頷いて、あと 2分・・・ 1分・・・ と数え、
定刻になると同時に机を片付けた。
「お先に失礼します」
足早に席を立ち、由里ちゃんの元へ。
この1泊旅行のアリバイ協力を、改めてお願いをしないと。
「由里ちゃん、それじゃあ行ってくるね。
例の・・・迷惑掛けちゃうかもしれないけど、お願いね」
「うん。心配しないで、楽しんでおいで。
もしもの時は、任せていいから」
「うん、ありがとう。じゃあ、お先に」
「お疲れ様~」
ともかく、今はこれからの旅のことを考えていよう。
余計なことは、帰ってきてからで充分だ。
由里ちゃんの笑顔に見送られ、私はフロアを後にした。
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.
いつもの待ち合わせなら、隣りの駅近くの坂道になるのだが、
今日は時間的余裕がないから、本当に珍しく、
会社のすぐ近くで彼を待っていた。
夏前ともなれば、17時はまだ明るい。
誰に会うとも、見られるとも判らないから、
迂闊に角から顔を出して覗けない。
1泊分の荷物を詰めた、小さなバッグを前にして持ち、
民家の外壁に寄り掛かる。
5分が経過し・・・
遠くからでも、スポーツカーならではの排気量というのか、
岩田さんだと判るエンジン音が響いてきた。
私の目の前でピタリと停止した、赤い車の助手席ドアを開く。
「お疲れさま」
どちらからともなく、笑顔でそんな言葉が飛び出した。
今日は彼も、機嫌が良いみたいだ。
「荷物、椅子の後ろに置けるよな?」
ツーシートの車には、トランクなど存在せず、
背凭れの後ろが、僅かばかりの唯一のスペースなのだ。
ボストンバッグを、ふたつ並べて置けば隙間が埋まる。
しかも、シート自体がリクライニング出来ない上に、
車高の低さにまだ慣れない私は、いつも酔い止めを飲んでいた。
「・・―― よし。じゃあ、行こうか」
今出発すれば、19時頃には着くだろう。
彼氏と初めての旅行に、嬉しさと同じくらい、
親への後ろめたさを胸に抱いていた。
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