【44】金曜日の夜 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


朝、由里ちゃんが言いかけたのは、この事だったのか・・・。

そうとしか、考えられない。

飲みに、と言われても、2課の人とはあまり話したことがないし、
気が進まない。

これが、萩野さんと由里ちゃん、岩田さんと私ならば、
話が解るのだけど・・・。

その事について、由里ちゃんと話がしたい

気乗りはしないが、彼女がそうしたいのなら、
付き合う他はないのだろう。

話しのタイミングが無いまま、針は刻々と終業へと進めていた。

.
.

「美雪。17時になったら上がれ。
 すぐに行くから、その先の角で待っていて」


岩田さんが、仕事の素振りで身を乗り出し、そっと告げる。

素直に頷いて、あと 2分・・・ 1分・・・ と数え、
定刻になると同時に机を片付けた。


「お先に失礼します」


足早に席を立ち、由里ちゃんの元へ。
この1泊旅行のアリバイ協力を、改めてお願いをしないと。


「由里ちゃん、それじゃあ行ってくるね。
 例の・・・迷惑掛けちゃうかもしれないけど、お願いね」

「うん。心配しないで、楽しんでおいで。
 もしもの時は、任せていいから」

「うん、ありがとう。じゃあ、お先に」

「お疲れ様~」


ともかく、今はこれからの旅のことを考えていよう。
余計なことは、帰ってきてからで充分だ。

由里ちゃんの笑顔に見送られ、私はフロアを後にした。

.
.


いつもの待ち合わせなら、隣りの駅近くの坂道になるのだが、
今日は時間的余裕がないから、本当に珍しく、
会社のすぐ近くで彼を待っていた。

夏前ともなれば、17時はまだ明るい。

誰に会うとも、見られるとも判らないから、
迂闊に角から顔を出して覗けない。

1泊分の荷物を詰めた、小さなバッグを前にして持ち、
民家の外壁に寄り掛かる。

5分が経過し・・・

遠くからでも、スポーツカーならではの排気量というのか、
岩田さんだと判るエンジン音が響いてきた。

私の目の前でピタリと停止した、赤い車の助手席ドアを開く。


「お疲れさま」


どちらからともなく、笑顔でそんな言葉が飛び出した。

今日は彼も、機嫌が良いみたいだ。


「荷物、椅子の後ろに置けるよな?」


ツーシートの車には、トランクなど存在せず、
背凭れの後ろが、僅かばかりの唯一のスペースなのだ。

ボストンバッグを、ふたつ並べて置けば隙間が埋まる。

しかも、シート自体がリクライニング出来ない上に、
車高の低さにまだ慣れない私は、いつも酔い止めを飲んでいた。


「・・―― よし。じゃあ、行こうか」


今出発すれば、19時頃には着くだろう。

彼氏と初めての旅行に、嬉しさと同じくらい、
親への後ろめたさを胸に抱いていた。



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