【42】ケッコン | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


雑に敷かれた布団の上で、二人は抱き合った。

カーテンを引いても、部屋は明るく、
網戸からは、まだ少し冷たさが残る風が吹き込む。


「・・――――― っ・・・!」


声が出せない。

こんな昼間に、部屋の扉は開け放してあり、
しかも窓まで開いていて・・・

いつ、彼の家族が帰ってくるかも判らない状況での
セ ックスは、刺激的なのかもしれないが、不安で堪らない。

今日も、彼がしたいように、されるがまま身体を任せる。

さすがに、痛がることは止めてくれるが、それ以外は
岩田さんの好きなように、欲求が満たされるまで、私を抱いた。

.
.

事が済んでから、少しの間だけ、私を腕に包んでくれる。

そのまま、寝息が聞こえてくる時もあれば、
たわい無い話をすることも。

背中から抱きしめる格好の彼は、突然語り始めた。


「欲しいんだよなぁ。キャンピングカー」

「どうしたの?いきなり・・・。キャンピングカー?」

「前から欲しいとは思ってたけど、最近、すごく欲しくて」

「キャンプとか楽しそうだけどね。普段乗るには、どうかな・・・」

「そうなんだ。そこがなー」


本気で欲しくて、本気で悩んでいる様子が伝わってくる。

アウトドアが大好きな岩田さんだから、欲しいと聞かされても、
それほどの驚きは無いけれど、現実的にどうなのだろう。

普通車と、趣味でキャンピングカーを所有するって・・・。
維持費だって必要だよね。
そんなに収入があるとは、思えないし。


「まあ、キャンピングカーじゃなくても、大きな車が欲しいって
 思っているんだ。そろそろ買い替えようかってね」

「そうだったの?」

「だから、車見に行くの付き合ってくれよ」

「うん、行きたい!」


振り返り、彼と視線を合わせる。

ようやく、岩田さんの彼女だという実感のようなものが、
私の中に小さく生まれた。

欲張らなくていい。
小さくても、確かな幸せがあれば、それがいい。

岩田さんは、私の思いを知ってか、知らずか・・・


「家族が増えた時のことを考えたら、
 やっぱり大きい車がいいもんな。
 いつまでも、今の車を乗っていられないし」

「・・・? お姉さんの子供・・・とか?」

「そうじゃなくて」


“解るだろ?” と、言わんばかりの表情で返してくる。

すぐには解らなくて、考えてみたのだが・・・
急に、金さんの奥さんの顔が、頭に浮かんだ。


“結婚となったら、本当に大変だからね”

日本人同士でさえ、結婚は大変なのだから、
外国籍の相手となれば、更に困難なこともあるだろう。


でも、まさか・・・ 本当に?


この時の岩田さんは、確かに、
彼なりに、私を想っていてくれたのだと思う。


想いの深さは、測れなくても。



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