【20】恋人は3番目 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


昼休みが終わる13時まで、岩田さんの席で、
ありふれたお喋りを楽しんだ。

そろそろ、自分の席に戻ろうとしたところで、
廊下からゾロゾロと、足音と話し声が近づいてくる。


ガチャ、と1課に近いドアが開いた。

勝手に借りていた椅子を、戻そうとした場面に、
竹下さんが戻ってきて・・・


「あ。すいません!お借りしました」


言いながら、元の位置に戻した。

そそくさと、向かいの自分の席に帰っていく私を、
竹下さんは意味有り気に見ている。

関心は、そのまま岩田さんに向けられ、
小声でありながら、私にも聞こえるように冷やかした。


「なんだよー。岩ちゃん、椎名ちゃんとイイ感じなの?
 水くさいなー、言ってくれればいいのに」

「そんなんじゃ、ないですよ」


岩田さんは、愛想笑いを浮かべて、その場を誤魔化す。

だが、悪いタイミングは重なるもので、多部井さんも戻ってきたことで、
好奇の対象にされてしまう。

私と岩田さんの交際は、気持ちの上でも盛り上がりに欠け、
順風とはいかない中で始まった。

.
.

「俺たちのこと、周りには黙っていよう」


秘密の交際にしようと言い出したのは、彼の方だった。

噂や詮索が大好きな人が集まる、下世話な会社だから、
オープンにしないまでも、社内の誰かが感づくことがある。

それに、社内外で、誰かに見られることだってあるのだ。

それでも、誰かに聞かれたら 「違う」 と言うように・・・
私に勧めてきた。

公にしたくないのは、私にも解る。
仕事に支障が出るのは困るし、
あれこれ勝手なことを言われるのは嫌だから。

だけど、否定を徹底するって・・・
そこまでするって、何だろう?って思った。

でも、由里ちゃんには話してしまった。
それを正直に彼に話すと、 “仕方がないか” ・・・微妙な反応。

もしかしたら、周囲にアレコレ言われるのが苦手とか、
嫌いな人なのかもしれない。

そんな風に、私なりに解釈して頷いた。

彼を理解したい、してあげたい。・・・そう思ったから。


・・・しかし、漠然とした不安は拭えない。

会社で会えるからと、積極的に電話をしてくれない事とか、
仕事後のデートは、会社から離れた場所で待ち合わせとか。

最初に待ち合わせた、線路を見下ろす坂道。
そこで落ち合うのが当たり前になり・・・
会社の近くを車で通る際には、助手席のシートを倒して、
隠れるようにするとか。


“私との事を、そこまで誰にも知られたくないのかな・・・”

交際を始めたばかりなのに、いつもそんなことを考えていた。
何かを言い返すこともなく、彼の言葉に従った。


岩田さんは、私の事はあまり聞こうとはせず、
自分の話ばかりをする人だった。

在日韓国人が活動をしている団体(民団)の事は、よく聞かされた。
今年はこういうイベントを行うとか、
こういう友達がいて、前の休みに何処でどうしたとか。

韓国人は、父親が絶対的で、家族をとても大切にする。

そして、友達も大切な存在で、休みの日はよく会うのだと・・・。
よくよく聞けば、恋人よりも大事くらいに語っていて、


「・・――だから、休みの度には会えない」


あっさりと宣言された。

“それじゃあ、私と付き合わなくても良かったじゃない”
などと、思ったけれど・・・ 言葉にさえ出来ず、頷いた。

会社で顔を見るから、それで満足をしろなんて、
そんなの、恋人でもなんでもないよね。


私にだって、心はある。

こうして付き合うことになったんだから、
岩田さんをもっともっと知りたいし、私のことも知って欲しい。
恋人になったのなら、自然な気持ちではないのだろうか・・・。


一方通行じゃ、片想いと変わらないよ。


どうして、 「付き合おう」 なんて言ったの・・・?




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